闘技場に売られた獣
ケロン軍本部が置かれた中枢惑星の、さらに最上階。星々の瞬きを眼下に収める高級レストランの一室で、ガルルとヤジュジュは向かい合っていた。
互いに一隊を率いる多忙な身。任務のすれ違いや急な侵略作戦が重なり、気がつけば最後に顔を合わせてから半年という月日が流れていた。
---
### 半年ぶりの再会
「……半年ぶり、か。少々、間が空きすぎたな」
ガルルは落ち着いたトーンで切り出し、琥珀色の飲み物が入ったグラスを傾けた。その視線の先には、純白のテーブルクロスを前に、どこか緊張した面持ちのヤジュジュがいる。
「ふふ、本当だね。通信では話していたけれど、こうしてお前の顔を直接見ると、なんだか不思議な気分だよ、ガルル」
ヤジュジュは少し照れくさそうに笑い、狼の耳を控えめに揺らした。その首元には、いつもの鉄輪がドレスコードの一部であるかのように、静かな光を放っている。
### 皿の上の感動
やがて、芸術品のように盛り付けられた前菜が運ばれてきた。
ヤジュジュは慎重にナイフとフォークを使い、一口それを口に運ぶ。その瞬間、彼の大きな瞳が驚きで見開かれた。
「……っ! ガルル、これ……凄いよ。口の中で、いくつもの味が溶け合って……まるで、知らない惑星の朝焼けを見ているような気分だ」
ヤジュジュは、一品一品運ばれてくる料理に、心底感動していた。
闘技場での泥水のような食事、軍での味気ない携帯食。そんな「生き延びるためだけの食」を長く続けてきた彼にとって、職人が情熱を注いだ料理は、単なる栄養ではなく「生の彩り」そのものだった。
「この魚料理も、なんて柔らかいんだろう……。ふふ、美味しいね、ガルル。こんなに素敵な体験をさせてくれて、本当にありがとう」
落ち着いたトーンで、しかし言葉の一つ一つに深い多幸感を滲ませて語るヤジュジュ。
彼が一口食べるたびに、ふさふさとした尻尾が椅子の下で「ゆらり、ゆらり」と、噛みしめるような速度で、だが止まることなく揺れ続けていた。
### 兄の決意
その様子を、ガルルは自分の料理にほとんど手をつけずに見つめていた。
(……これほどか)
ただの食事だ。軍の将校であれば、その気になればいつでも来られる場所。
だが、ヤジュジュはこれを「特別な奇跡」であるかのように享受している。その潤んだ瞳と、喜びを隠しきれない尻尾を見ていると、ガルルの胸の奥に、言葉にしがたい熱い衝動が突き上げてきた。
「ヤジュジュ」
「……? なんだい、ガルル」
「半年も待たせた上に、これしきの料理一皿で、それほどまでに喜ばせてしまった私の不徳を許してくれ」
「えっ? 嫌だな、不徳だなんて。私は今、最高に幸せだよ?」
ヤジュジュが不思議そうに首を傾げると、ガルルは身を乗り出し、テーブルの上でヤジュジュの手に、自分の手を重ねた。
「いいか、よく聞け。……次の休暇は一週間後に設定した。この惑星にある、ありとあらゆる銘店をすべて予約させる。お前がその瞳を輝かせるためなら、私は軍の予算を動かしてでも、美食の限りを尽くそう」
「ひゃ、ひゃあ! そこまでしなくていいよ! 破産してしまうじゃないか!」
「お前が『美味しい』と笑うたびに、私の魂が救われるのだ。これは私のための投資でもある……。ヤジュジュ、もっと連れてきてやろう。お前が、この世のすべての美味に飽きるまで、何度でもな」
ガルルの瞳には、冷徹な少佐の顔を脱ぎ捨てた、一人の男としての深い執着と慈愛が宿っていた。
ヤジュジュは真っ赤になりながらも、繋がれた手の熱に、そしてガルルの「いい声」が紡ぐあまりに重い愛に、抗いようもなく胸を高鳴らせるのだった。
互いに一隊を率いる多忙な身。任務のすれ違いや急な侵略作戦が重なり、気がつけば最後に顔を合わせてから半年という月日が流れていた。
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### 半年ぶりの再会
「……半年ぶり、か。少々、間が空きすぎたな」
ガルルは落ち着いたトーンで切り出し、琥珀色の飲み物が入ったグラスを傾けた。その視線の先には、純白のテーブルクロスを前に、どこか緊張した面持ちのヤジュジュがいる。
「ふふ、本当だね。通信では話していたけれど、こうしてお前の顔を直接見ると、なんだか不思議な気分だよ、ガルル」
ヤジュジュは少し照れくさそうに笑い、狼の耳を控えめに揺らした。その首元には、いつもの鉄輪がドレスコードの一部であるかのように、静かな光を放っている。
### 皿の上の感動
やがて、芸術品のように盛り付けられた前菜が運ばれてきた。
ヤジュジュは慎重にナイフとフォークを使い、一口それを口に運ぶ。その瞬間、彼の大きな瞳が驚きで見開かれた。
「……っ! ガルル、これ……凄いよ。口の中で、いくつもの味が溶け合って……まるで、知らない惑星の朝焼けを見ているような気分だ」
ヤジュジュは、一品一品運ばれてくる料理に、心底感動していた。
闘技場での泥水のような食事、軍での味気ない携帯食。そんな「生き延びるためだけの食」を長く続けてきた彼にとって、職人が情熱を注いだ料理は、単なる栄養ではなく「生の彩り」そのものだった。
「この魚料理も、なんて柔らかいんだろう……。ふふ、美味しいね、ガルル。こんなに素敵な体験をさせてくれて、本当にありがとう」
落ち着いたトーンで、しかし言葉の一つ一つに深い多幸感を滲ませて語るヤジュジュ。
彼が一口食べるたびに、ふさふさとした尻尾が椅子の下で「ゆらり、ゆらり」と、噛みしめるような速度で、だが止まることなく揺れ続けていた。
### 兄の決意
その様子を、ガルルは自分の料理にほとんど手をつけずに見つめていた。
(……これほどか)
ただの食事だ。軍の将校であれば、その気になればいつでも来られる場所。
だが、ヤジュジュはこれを「特別な奇跡」であるかのように享受している。その潤んだ瞳と、喜びを隠しきれない尻尾を見ていると、ガルルの胸の奥に、言葉にしがたい熱い衝動が突き上げてきた。
「ヤジュジュ」
「……? なんだい、ガルル」
「半年も待たせた上に、これしきの料理一皿で、それほどまでに喜ばせてしまった私の不徳を許してくれ」
「えっ? 嫌だな、不徳だなんて。私は今、最高に幸せだよ?」
ヤジュジュが不思議そうに首を傾げると、ガルルは身を乗り出し、テーブルの上でヤジュジュの手に、自分の手を重ねた。
「いいか、よく聞け。……次の休暇は一週間後に設定した。この惑星にある、ありとあらゆる銘店をすべて予約させる。お前がその瞳を輝かせるためなら、私は軍の予算を動かしてでも、美食の限りを尽くそう」
「ひゃ、ひゃあ! そこまでしなくていいよ! 破産してしまうじゃないか!」
「お前が『美味しい』と笑うたびに、私の魂が救われるのだ。これは私のための投資でもある……。ヤジュジュ、もっと連れてきてやろう。お前が、この世のすべての美味に飽きるまで、何度でもな」
ガルルの瞳には、冷徹な少佐の顔を脱ぎ捨てた、一人の男としての深い執着と慈愛が宿っていた。
ヤジュジュは真っ赤になりながらも、繋がれた手の熱に、そしてガルルの「いい声」が紡ぐあまりに重い愛に、抗いようもなく胸を高鳴らせるのだった。
