闘技場に売られた獣
ケロン軍本部の自室。デスクの上には、未完成の報告書と、ホログラムディスプレイが虚しく光を放っている。ヤジュジュは重い瞼に抗えず、いつの間にか腕の中に顔を埋めて眠りに落ちていた。
---
### 夢心地の甘露
「……ん、……ぁ……」
ヤジュジュが微かに目を開けると、視界の端に聞き慣れた軍靴の音が響いた。
顔を上げると、そこには漆黒の軍服に身を包んだ、凛々しい兄の姿がある。
「ガルル……?」
ヤジュジュは寝ぼけ眼で、ぼんやりとその姿を見つめた。
ガルルはつい数日前、遠い星系の侵略任務に旅立ったはずだ。帰還は一ヶ月先の予定だったから、ここにいるはずがない。
(なんだ……夢か。ふふ、よっぽど疲れているんだね、私は……)
夢なら、何をしても許される。ヤジュジュはそう確信し、いつもなら理性が邪魔して見せないような、幼子のような甘えを剥き出しにした。
「ガルル……。ねえ、こっちへ来ておくれ」
ヤジュジュはふらふらと立ち上がり、ガルルの胸に頭を預けた。軍服の硬い感触すら、夢の中の演出だと思い込み、その背中に腕を回してぎゅっと抱きしめる。
「会いたかったよ。お前がいないと、夜がとても長くて……寂しかったんだ」
ヤジュジュの尻尾が、喜びを隠しきれずにパタパタとガルルの脚を叩く。彼は兄の首筋に顔を埋め、深呼吸するようにその匂いを吸い込んだ。
「ねえ、ガルル。……今日は仕事なんて忘れて、ずっと私を甘やかしておくれ。いいだろう?」
### 冷酷な現実
「……ヤジュジュ」
耳元で、驚くほど低く、そして実体感のある「いい声」が響いた。
その瞬間、ヤジュジュの脳裏に電流が走る。夢にしては、抱きしめている体の体温がリアルすぎる。鼻を突くのは、夢の幻覚ではない、本物の火薬とマントの匂いだ。
「作戦が予定より早く完了してな。……驚かせようと、報告もせずに立ち寄ったのだが。まさか、これほど熱烈に歓迎されるとは」
「…………え?」
ヤジュジュの動きが、凍りついたように止まった。
ゆっくりと顔を上げると、そこには至近距離で自分を見つめる、本物のガルルの瞳があった。その口角は、心なしか勝ち誇ったように僅かに上がっている。
「……あ、……ぁ、……は、ハ、ハ、ガルル……本物、なの……?」
「ああ。私の実体が、お前の腕の中にしっかりとあるはずだが?」
### 沸騰する理智
事態を理解した瞬間、ヤジュジュの顔面は爆発しそうなほど赤く染まった。
慌てて手を離し、椅子をなぎ倒さんばかりの勢いで後ずさる。
「ひゃ、ひゃあぁぁあ! す、すまない! 夢だと思ったんだ、本当に夢だと……!! 寂しかったとか、甘やかしてとか、今の全部忘れておくれー!!」
狼の耳はこれ以上ないほど伏せられ、尻尾は股の間に巻き込まれて、ヤジュジュは頭を抱えてしゃがみ込んだ。あまりの恥ずかしさに、そのまま床に消えてしまいたいと願う。
「ふふ……。忘れる? そんな勿体ないことはできないな」
ガルルは一歩、また一歩と、逃げ場を塞ぐように近づいてくる。
「寂しかったのだろう? ならば、夢の続きを現実で始めようか。ヤジュジュ……少佐」
「だ、ダメだよ、仕事が、資料が……っ!!」
「そんなものは後回しだ。……お前が望んだ通り、とことん甘やかしてやる」
部屋の明かりがガルルの手によって落とされる。
ヤジュジュは、現実という名の底なしの甘い罠に、再び捕らえられていくのだった。
---
### 夢心地の甘露
「……ん、……ぁ……」
ヤジュジュが微かに目を開けると、視界の端に聞き慣れた軍靴の音が響いた。
顔を上げると、そこには漆黒の軍服に身を包んだ、凛々しい兄の姿がある。
「ガルル……?」
ヤジュジュは寝ぼけ眼で、ぼんやりとその姿を見つめた。
ガルルはつい数日前、遠い星系の侵略任務に旅立ったはずだ。帰還は一ヶ月先の予定だったから、ここにいるはずがない。
(なんだ……夢か。ふふ、よっぽど疲れているんだね、私は……)
夢なら、何をしても許される。ヤジュジュはそう確信し、いつもなら理性が邪魔して見せないような、幼子のような甘えを剥き出しにした。
「ガルル……。ねえ、こっちへ来ておくれ」
ヤジュジュはふらふらと立ち上がり、ガルルの胸に頭を預けた。軍服の硬い感触すら、夢の中の演出だと思い込み、その背中に腕を回してぎゅっと抱きしめる。
「会いたかったよ。お前がいないと、夜がとても長くて……寂しかったんだ」
ヤジュジュの尻尾が、喜びを隠しきれずにパタパタとガルルの脚を叩く。彼は兄の首筋に顔を埋め、深呼吸するようにその匂いを吸い込んだ。
「ねえ、ガルル。……今日は仕事なんて忘れて、ずっと私を甘やかしておくれ。いいだろう?」
### 冷酷な現実
「……ヤジュジュ」
耳元で、驚くほど低く、そして実体感のある「いい声」が響いた。
その瞬間、ヤジュジュの脳裏に電流が走る。夢にしては、抱きしめている体の体温がリアルすぎる。鼻を突くのは、夢の幻覚ではない、本物の火薬とマントの匂いだ。
「作戦が予定より早く完了してな。……驚かせようと、報告もせずに立ち寄ったのだが。まさか、これほど熱烈に歓迎されるとは」
「…………え?」
ヤジュジュの動きが、凍りついたように止まった。
ゆっくりと顔を上げると、そこには至近距離で自分を見つめる、本物のガルルの瞳があった。その口角は、心なしか勝ち誇ったように僅かに上がっている。
「……あ、……ぁ、……は、ハ、ハ、ガルル……本物、なの……?」
「ああ。私の実体が、お前の腕の中にしっかりとあるはずだが?」
### 沸騰する理智
事態を理解した瞬間、ヤジュジュの顔面は爆発しそうなほど赤く染まった。
慌てて手を離し、椅子をなぎ倒さんばかりの勢いで後ずさる。
「ひゃ、ひゃあぁぁあ! す、すまない! 夢だと思ったんだ、本当に夢だと……!! 寂しかったとか、甘やかしてとか、今の全部忘れておくれー!!」
狼の耳はこれ以上ないほど伏せられ、尻尾は股の間に巻き込まれて、ヤジュジュは頭を抱えてしゃがみ込んだ。あまりの恥ずかしさに、そのまま床に消えてしまいたいと願う。
「ふふ……。忘れる? そんな勿体ないことはできないな」
ガルルは一歩、また一歩と、逃げ場を塞ぐように近づいてくる。
「寂しかったのだろう? ならば、夢の続きを現実で始めようか。ヤジュジュ……少佐」
「だ、ダメだよ、仕事が、資料が……っ!!」
「そんなものは後回しだ。……お前が望んだ通り、とことん甘やかしてやる」
部屋の明かりがガルルの手によって落とされる。
ヤジュジュは、現実という名の底なしの甘い罠に、再び捕らえられていくのだった。
