闘技場に売られた獣
日向家の裏庭に、穏やかな午後の陽光が降り注いでいた。
ギロロはいつものように焚き火の番をし、その傍らでヤジュジュは日向夏美からもらったという温かい紅茶を、大切そうに両手で抱えていた。
平和すぎるほどの静寂。
遠くで聞こえる鳥の声と、パチパチとはぜる薪の音だけが、二人の間に流れる時間をゆっくりと刻んでいく。
---
### 溢れ出した記憶
「……ふふ、温かいね、ギロロ」
ヤジュジュがポツリと呟いた。その声が微かに震えていることに気づき、ギロロは火箸を動かす手を止めた。
「……兄さん?」
見上げると、ヤジュジュの大きな瞳には、今にもこぼれ落ちそうなほど大量の涙が溜まっていた。彼は紅茶のカップを地面に置き、震える手で自分の顔を覆う。
「どうした、どこか具合でも悪いのか!? それとも、またあの夢を……」
慌てて駆け寄ろうとしたギロロを、ヤジュジュは弱々しく首を振って制した。
「違うんだ……違うんだよ、ギロロ。ただ……信じられないんだ。お前とこうして、火を囲んで、何も恐れずに空を眺めていられるなんて」
ヤジュジュの頬を、一筋の涙が伝い落ちる。
かつて彼が見ていたのは、冷たい鉄格子の隙間から差し込む、血の匂いのする月光だけだった。明日の命も保証されない地獄の中で、彼は「家族と過ごす穏やかな時間」など、とっくに捨ててきたはずの夢だったのだ。
「またお前と一緒に……こんなに穏やかな時間を過ごせるようになるなんて……。私は、なんて幸せなんだろう……っ」
ヤジュジュは子供のように声を上げて泣き始めた。
それは悲しみの涙ではない。あまりにも温かすぎる現実に、心が追いつかずに溢れ出してしまった、安堵の結晶だった。
### 共鳴する痛みと愛
「…………」
ギロロは、かけるべき言葉が見つからなかった。
兄が奪われていた時間の重さ。自分たちが離れ離れになっていた間の、埋めようのない空白。
目の前で泣きじゃくるヤジュジュの細い肩が、どれほどの絶望を耐え抜いてきたのかを物語っている。
(俺は……何も知らずに、この平和を当然だと思っていた……)
ヤジュジュの純粋すぎる喜び。そして、彼をここまで追い詰めた過去への怒りと、今の彼を抱きしめられることへの感謝。
それらが混ざり合い、ギロロの胸の奥を激しく締め付けた。
「……泣くな、兄さん」
ギロロがそう言った時、自分自身の鼻の奥もツンと熱くなっていることに気づいた。
視界が急激に滲み、熱いものがこみ上げてくる。硬派な軍人として、弟として、ここで一緒に泣くわけにはいかない。そう思えば思うほど、ヤジュジュの涙が自分の心に伝染していく。
「お前が泣くと……俺まで、変な気分になるだろうが……っ」
ギロロは顔を背け、乱暴に鼻をすすった。
そして、震える手でヤジュジュの背中を引き寄せ、力強く、折れそうなほど抱きしめた。
「……もう、どこへも行かせん。この時間は、誰にも邪魔させない。俺が……死んでも守り抜いてやる」
「……ありがとう、ギロロ。ありがとう……」
夕暮れに染まり始めた裏庭で、二人の兄弟は寄り添い合いながら、共に涙を流した。
悲劇を乗り越えた先にある、あまりにも静かで、あまりにも尊い「当たり前」の幸せを、二人はその体温を通して深く刻み込んでいた。
ギロロはいつものように焚き火の番をし、その傍らでヤジュジュは日向夏美からもらったという温かい紅茶を、大切そうに両手で抱えていた。
平和すぎるほどの静寂。
遠くで聞こえる鳥の声と、パチパチとはぜる薪の音だけが、二人の間に流れる時間をゆっくりと刻んでいく。
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### 溢れ出した記憶
「……ふふ、温かいね、ギロロ」
ヤジュジュがポツリと呟いた。その声が微かに震えていることに気づき、ギロロは火箸を動かす手を止めた。
「……兄さん?」
見上げると、ヤジュジュの大きな瞳には、今にもこぼれ落ちそうなほど大量の涙が溜まっていた。彼は紅茶のカップを地面に置き、震える手で自分の顔を覆う。
「どうした、どこか具合でも悪いのか!? それとも、またあの夢を……」
慌てて駆け寄ろうとしたギロロを、ヤジュジュは弱々しく首を振って制した。
「違うんだ……違うんだよ、ギロロ。ただ……信じられないんだ。お前とこうして、火を囲んで、何も恐れずに空を眺めていられるなんて」
ヤジュジュの頬を、一筋の涙が伝い落ちる。
かつて彼が見ていたのは、冷たい鉄格子の隙間から差し込む、血の匂いのする月光だけだった。明日の命も保証されない地獄の中で、彼は「家族と過ごす穏やかな時間」など、とっくに捨ててきたはずの夢だったのだ。
「またお前と一緒に……こんなに穏やかな時間を過ごせるようになるなんて……。私は、なんて幸せなんだろう……っ」
ヤジュジュは子供のように声を上げて泣き始めた。
それは悲しみの涙ではない。あまりにも温かすぎる現実に、心が追いつかずに溢れ出してしまった、安堵の結晶だった。
### 共鳴する痛みと愛
「…………」
ギロロは、かけるべき言葉が見つからなかった。
兄が奪われていた時間の重さ。自分たちが離れ離れになっていた間の、埋めようのない空白。
目の前で泣きじゃくるヤジュジュの細い肩が、どれほどの絶望を耐え抜いてきたのかを物語っている。
(俺は……何も知らずに、この平和を当然だと思っていた……)
ヤジュジュの純粋すぎる喜び。そして、彼をここまで追い詰めた過去への怒りと、今の彼を抱きしめられることへの感謝。
それらが混ざり合い、ギロロの胸の奥を激しく締め付けた。
「……泣くな、兄さん」
ギロロがそう言った時、自分自身の鼻の奥もツンと熱くなっていることに気づいた。
視界が急激に滲み、熱いものがこみ上げてくる。硬派な軍人として、弟として、ここで一緒に泣くわけにはいかない。そう思えば思うほど、ヤジュジュの涙が自分の心に伝染していく。
「お前が泣くと……俺まで、変な気分になるだろうが……っ」
ギロロは顔を背け、乱暴に鼻をすすった。
そして、震える手でヤジュジュの背中を引き寄せ、力強く、折れそうなほど抱きしめた。
「……もう、どこへも行かせん。この時間は、誰にも邪魔させない。俺が……死んでも守り抜いてやる」
「……ありがとう、ギロロ。ありがとう……」
夕暮れに染まり始めた裏庭で、二人の兄弟は寄り添い合いながら、共に涙を流した。
悲劇を乗り越えた先にある、あまりにも静かで、あまりにも尊い「当たり前」の幸せを、二人はその体温を通して深く刻み込んでいた。
