亀と獣
深夜、地下の隠れ家の静まり返った廊下。
自分の部屋のドアをわずかに開け、ゆきは真っ暗な通路を恐る恐る覗き込んでいた。
(だめだ……やっぱり無理……っ)
猫のミュータントになってから、夜の暗闇や物音がやけにハッキリと知覚できるようになってしまった。昼間はなんともない通路の影が、夜になると恐ろしい化け物のように見えて仕方がない。
しかし、水分を摂りすぎたせいか、膀胱はすでに限界を迎えていた。
(でも、一人であそこを歩くなんて絶対ムリ……! ラファを起こしたら「こんな夜中に何やってんだ」って呆れられそうだし、ドナテロやレオを起こすのも申し訳ない……)
どうしよう、と部屋の前でブルブルと震えていた時、ふと向かいの部屋の扉の隙間から、ぼんやりとオレンジ色の光が漏れているのが目に入った。
マイキーの部屋だ。彼は夜更かしをして漫画を読むか、ゲームをしていることが多い。
(マイキーなら……怒らないかも……っ!)
わらにもすがる思いで、ゆきはトボトボと廊下を歩き、マイキーの部屋のドアをこつこつと控えめに叩いた。
「……ん? はーい、どうぞー」
ドアが開き、オレンジ色のパーカーを着たマイキーが、手元のゲーム機を持ったまま顔を出した。
「あれ、ゆきちゃん? こんな夜中にどうしたの? 眠れないの?」
「ま、マイキー……っ」
ゆきは半泣きになりながら、ぎゅっと自分のパジャマの裾を握りしめた。
「どうしたの、そんなに青い顔して……って、もしかしてトイレ?」
「う、うん……でも、廊下が真っ暗で、怖くて行けなくて……その、……一緒に、ついてきて、ほしいの……っ」
最後まで言い切ると、ゆきは恥ずかしさのあまりパッと顔を真っ赤に染め、その場で小さく縮こまった。
(深夜のトイレが怖くて誰かに頼るなんて……ッ! 何やってるんだろ、私……!)
自分の情けなさと、こんな子どもっぽい我がままを言ってしまった恥ずかしさで、いっぱいいっぱいになってしまった。
「うう……っ、ごめん、変なこと言って……やっぱ一人で頑張る……」
ポロポロと、ゆきの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「わっ! ちょっと待って、泣かないでゆきちゃん!」
マイキーは慌ててゲーム機をベッドに放り出し、しゃがみ込んでゆきの目線を合わせた。
「変なことなんて全然思ってないって! 暗い廊下って怖いよねー、分かる分かる! 俺だって昔は地下のドブネズミの影にビビってたもん!」
「うそ、……っ」
「本当だってば。それにさ、女の子が困ってるときに助けるのは、カッコいい男の子の役目じゃん?」
マイキーはいつも変わらない、太陽のように明るくてふにゃっとした笑顔を向けた。その優しさがかえって胸に染みて、ゆきは鼻をすすりながら「うん……っ」と小さく頷いた。
「よし、じゃあ出発進行!」
マイキーは自分の部屋から、オレンジ色の小さな可愛いナイトライト――ドナテロからもらった特製の安全ランプを取り出してパチリと点けた。ほんのりと温かい光が、周囲の暗闇を優しく追い払う。
「ほら、これ持ってるとモンスターも逃げていくからさ。手、繋いであげる」
マイキーがスッと差し出した温かい手に、ゆきは恐る恐る自分の手を重ねた。
マイキーの体温は、いつもみんなのムードメーカーとして周りを明るくするのと同じように、じんわりと心地よかった。
「いざ、トイレへの冒険に出発だー!」
マイキーが小声で冗談めかして笑いながら、一歩一歩、ゆきの歩幅に合わせてゆっくりと廊下を進んでくれる。
ナイトライトの光に照らされた通路は、さっきまでの恐ろしい影が嘘のように穏やかで、ゆきの心に溜まっていた不安や恐怖はすーっと消えていった。
トイレの前まで送り届けてくれ、扉の外で「終わったら呼んでねー、ここで待ってるから!」と壁にもたれて待っていてくれるマイキーの背中を見ながら、ゆきは(本当に、この人たちと家族になれてよかったな……)と、心からホッとするのだった。
自分の部屋のドアをわずかに開け、ゆきは真っ暗な通路を恐る恐る覗き込んでいた。
(だめだ……やっぱり無理……っ)
猫のミュータントになってから、夜の暗闇や物音がやけにハッキリと知覚できるようになってしまった。昼間はなんともない通路の影が、夜になると恐ろしい化け物のように見えて仕方がない。
しかし、水分を摂りすぎたせいか、膀胱はすでに限界を迎えていた。
(でも、一人であそこを歩くなんて絶対ムリ……! ラファを起こしたら「こんな夜中に何やってんだ」って呆れられそうだし、ドナテロやレオを起こすのも申し訳ない……)
どうしよう、と部屋の前でブルブルと震えていた時、ふと向かいの部屋の扉の隙間から、ぼんやりとオレンジ色の光が漏れているのが目に入った。
マイキーの部屋だ。彼は夜更かしをして漫画を読むか、ゲームをしていることが多い。
(マイキーなら……怒らないかも……っ!)
わらにもすがる思いで、ゆきはトボトボと廊下を歩き、マイキーの部屋のドアをこつこつと控えめに叩いた。
「……ん? はーい、どうぞー」
ドアが開き、オレンジ色のパーカーを着たマイキーが、手元のゲーム機を持ったまま顔を出した。
「あれ、ゆきちゃん? こんな夜中にどうしたの? 眠れないの?」
「ま、マイキー……っ」
ゆきは半泣きになりながら、ぎゅっと自分のパジャマの裾を握りしめた。
「どうしたの、そんなに青い顔して……って、もしかしてトイレ?」
「う、うん……でも、廊下が真っ暗で、怖くて行けなくて……その、……一緒に、ついてきて、ほしいの……っ」
最後まで言い切ると、ゆきは恥ずかしさのあまりパッと顔を真っ赤に染め、その場で小さく縮こまった。
(深夜のトイレが怖くて誰かに頼るなんて……ッ! 何やってるんだろ、私……!)
自分の情けなさと、こんな子どもっぽい我がままを言ってしまった恥ずかしさで、いっぱいいっぱいになってしまった。
「うう……っ、ごめん、変なこと言って……やっぱ一人で頑張る……」
ポロポロと、ゆきの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「わっ! ちょっと待って、泣かないでゆきちゃん!」
マイキーは慌ててゲーム機をベッドに放り出し、しゃがみ込んでゆきの目線を合わせた。
「変なことなんて全然思ってないって! 暗い廊下って怖いよねー、分かる分かる! 俺だって昔は地下のドブネズミの影にビビってたもん!」
「うそ、……っ」
「本当だってば。それにさ、女の子が困ってるときに助けるのは、カッコいい男の子の役目じゃん?」
マイキーはいつも変わらない、太陽のように明るくてふにゃっとした笑顔を向けた。その優しさがかえって胸に染みて、ゆきは鼻をすすりながら「うん……っ」と小さく頷いた。
「よし、じゃあ出発進行!」
マイキーは自分の部屋から、オレンジ色の小さな可愛いナイトライト――ドナテロからもらった特製の安全ランプを取り出してパチリと点けた。ほんのりと温かい光が、周囲の暗闇を優しく追い払う。
「ほら、これ持ってるとモンスターも逃げていくからさ。手、繋いであげる」
マイキーがスッと差し出した温かい手に、ゆきは恐る恐る自分の手を重ねた。
マイキーの体温は、いつもみんなのムードメーカーとして周りを明るくするのと同じように、じんわりと心地よかった。
「いざ、トイレへの冒険に出発だー!」
マイキーが小声で冗談めかして笑いながら、一歩一歩、ゆきの歩幅に合わせてゆっくりと廊下を進んでくれる。
ナイトライトの光に照らされた通路は、さっきまでの恐ろしい影が嘘のように穏やかで、ゆきの心に溜まっていた不安や恐怖はすーっと消えていった。
トイレの前まで送り届けてくれ、扉の外で「終わったら呼んでねー、ここで待ってるから!」と壁にもたれて待っていてくれるマイキーの背中を見ながら、ゆきは(本当に、この人たちと家族になれてよかったな……)と、心からホッとするのだった。
