亀と獣
ある日の朝。
地下の隠れ家に響くはずの、ゆきの元気な足音や食器がカチャカチャと鳴る音がしなかった。
「……? どうしたんだあいつ、まだ寝てやがるのか」
リビングで朝のトレーニングを終えたラファエロは、ふと時計を見て首を傾げた。普段ならもう起きて、マイキーと一緒に朝食の準備を手伝っている時間だ。
嫌な予感が胸をよぎり、ラファエロはトレーニング用の赤いマスクを外し、大きな足音を立てずにゆきの部屋へと向かった。
コツ、コツ、とノックをしても返事がない。
「ゆき? 入るぞ」
そっとドアを開けると、ベッドの上でゆきが毛布を頭からすっぽり被り、苦しそうに小さく丸まっていた。
「おい、ゆき……?」
布団をそっとめくると、そこにいたゆきは顔を真っ赤にし、荒い息を吐いていた。額にはうっすらと汗が滲み、猫耳もしょんぼりと垂れ下がっている。
「らふぁ……っ、のど、痛い……身体も、だるい……っ」
かすれ声でそう呟くと、ゆきはまた小さく咳き込んだ。
人間の頃とは違う猫のミュータントとしての身体。慣れない生活やここ最近の緊張と疲労が一気に出てしまい、高熱を出して寝込んでしまったのだ。
「熱が出てるじゃねぇか……!」
ラファエロの顔色が一気に変わった。
普段の頼もしいお兄ちゃんモードから、一瞬で「全開の過保護スイッチ」が入る。
「おい、ちょっと待ってろ! すぐドナテロを呼ぶ! いや、毛布を追加するか? 水枕か!? 冷えピタか!?」
「ラ、ラファ、そんなに慌てないで……声が大きい……っ」
頭痛がするのか、ゆきがこめかみを押さえて顔を顰めると、ラファエロは「す、すまん……!」と急にトーンを落とし、慌てて自分の大きな手をそっとゆきの額に当てた。
「うわっ、熱っちぃ……! 燃えるように熱いぞ! おいマイキー! ドナテロを引っ掴んでここへ連れて来い!! レオナルドも氷持ってこい!!」
隠れ家の廊下に、ラファエロの焦り狂った怒鳴り声が響き渡る。
数秒後、ドナテロが体温計や解熱剤を持ったまま「どうしたの!?」と飛び込んできたり、マイキーが「ゆきちゃんが大変だぁ!」と大慌てでアイスノンを持って駆けつけてきたりと、部屋の中は一瞬でお祭り騒ぎになった。
みんなに「落ち着いてラフィ」「患者の周りでそんな大声出さないの」と総ツッコミを受けながらも、ラファエロはゆきの枕元から一歩も動こうとしなかった。
「で、でもよ! 見ろよ、こんなに苦しそうに――!」
「大丈夫だよラフィ、ただの風邪と疲労の蓄積だから。数日ゆっくり休めば治るからね」
ドナテロがテキパキと体温を測り、薬を飲ませ、点滴の準備をしてくれる。
マイキーが作った冷たいタオルを、ラファエロは不器用ながらも震える手で受け取り、ゆきの額にそっと乗せた。
「……っ、冷たくて、気持ちいい……ありがと、ラフ」
「体調が悪いなら、もっと早く言えってんだ。俺たちに気を遣って我慢してたんじゃねぇだろうな?」
布団の端をきゅっと握りしめ、眉をハの字にして怒るでもなく、ただひたすら心配そうにゆきを見つめるラファエロ。その瞳には、不安の色が痛いほど滲んでいた。
「ごめんね……心配かけて……」
「……謝るなよ。いいか、今日からお前が完治するまで、俺が専属で看護してやるからな」
「えっ、専属……?」
「当たり前だ! 飯も、薬も、寝かしつけも、全部俺がやる! お前はただ大人しく寝てろ!」
そう言い切ると、ラファエロはゆきのベッドの横にドンと頑丈な椅子を引っ張り出し、仁王立ちならぬ「仁王座り」で陣取った。
「さあ、寝ろ。俺がずっと見張っててやるから安心しろ」
「いや、見張られてるとなんか眠れない気が……」
「いいから寝ろ!」
少し強引だけど、どこまでも温かくて深い愛情。
過保護すぎるラファエロのせいで逆に眠れなくなりそうなゆきだったが、その圧倒的な安心感に包まれているうちに、いつの間にか心地よい眠気へと引きずり込まれていった。
ゆきがスースーと穏やかな寝息を立て始めたのを確認すると、ラファエロはやっと肩の力を抜き、その頭をそっと撫でた。
「……はぁ、マジで焦った……。早く元気になれよな、ゆき」
静まり返った部屋で、ラファエロはゆきの手を自分のゴツゴツとした大きな手でそっと包み込み、決してその場を離れようとはしなかった。
地下の隠れ家に響くはずの、ゆきの元気な足音や食器がカチャカチャと鳴る音がしなかった。
「……? どうしたんだあいつ、まだ寝てやがるのか」
リビングで朝のトレーニングを終えたラファエロは、ふと時計を見て首を傾げた。普段ならもう起きて、マイキーと一緒に朝食の準備を手伝っている時間だ。
嫌な予感が胸をよぎり、ラファエロはトレーニング用の赤いマスクを外し、大きな足音を立てずにゆきの部屋へと向かった。
コツ、コツ、とノックをしても返事がない。
「ゆき? 入るぞ」
そっとドアを開けると、ベッドの上でゆきが毛布を頭からすっぽり被り、苦しそうに小さく丸まっていた。
「おい、ゆき……?」
布団をそっとめくると、そこにいたゆきは顔を真っ赤にし、荒い息を吐いていた。額にはうっすらと汗が滲み、猫耳もしょんぼりと垂れ下がっている。
「らふぁ……っ、のど、痛い……身体も、だるい……っ」
かすれ声でそう呟くと、ゆきはまた小さく咳き込んだ。
人間の頃とは違う猫のミュータントとしての身体。慣れない生活やここ最近の緊張と疲労が一気に出てしまい、高熱を出して寝込んでしまったのだ。
「熱が出てるじゃねぇか……!」
ラファエロの顔色が一気に変わった。
普段の頼もしいお兄ちゃんモードから、一瞬で「全開の過保護スイッチ」が入る。
「おい、ちょっと待ってろ! すぐドナテロを呼ぶ! いや、毛布を追加するか? 水枕か!? 冷えピタか!?」
「ラ、ラファ、そんなに慌てないで……声が大きい……っ」
頭痛がするのか、ゆきがこめかみを押さえて顔を顰めると、ラファエロは「す、すまん……!」と急にトーンを落とし、慌てて自分の大きな手をそっとゆきの額に当てた。
「うわっ、熱っちぃ……! 燃えるように熱いぞ! おいマイキー! ドナテロを引っ掴んでここへ連れて来い!! レオナルドも氷持ってこい!!」
隠れ家の廊下に、ラファエロの焦り狂った怒鳴り声が響き渡る。
数秒後、ドナテロが体温計や解熱剤を持ったまま「どうしたの!?」と飛び込んできたり、マイキーが「ゆきちゃんが大変だぁ!」と大慌てでアイスノンを持って駆けつけてきたりと、部屋の中は一瞬でお祭り騒ぎになった。
みんなに「落ち着いてラフィ」「患者の周りでそんな大声出さないの」と総ツッコミを受けながらも、ラファエロはゆきの枕元から一歩も動こうとしなかった。
「で、でもよ! 見ろよ、こんなに苦しそうに――!」
「大丈夫だよラフィ、ただの風邪と疲労の蓄積だから。数日ゆっくり休めば治るからね」
ドナテロがテキパキと体温を測り、薬を飲ませ、点滴の準備をしてくれる。
マイキーが作った冷たいタオルを、ラファエロは不器用ながらも震える手で受け取り、ゆきの額にそっと乗せた。
「……っ、冷たくて、気持ちいい……ありがと、ラフ」
「体調が悪いなら、もっと早く言えってんだ。俺たちに気を遣って我慢してたんじゃねぇだろうな?」
布団の端をきゅっと握りしめ、眉をハの字にして怒るでもなく、ただひたすら心配そうにゆきを見つめるラファエロ。その瞳には、不安の色が痛いほど滲んでいた。
「ごめんね……心配かけて……」
「……謝るなよ。いいか、今日からお前が完治するまで、俺が専属で看護してやるからな」
「えっ、専属……?」
「当たり前だ! 飯も、薬も、寝かしつけも、全部俺がやる! お前はただ大人しく寝てろ!」
そう言い切ると、ラファエロはゆきのベッドの横にドンと頑丈な椅子を引っ張り出し、仁王立ちならぬ「仁王座り」で陣取った。
「さあ、寝ろ。俺がずっと見張っててやるから安心しろ」
「いや、見張られてるとなんか眠れない気が……」
「いいから寝ろ!」
少し強引だけど、どこまでも温かくて深い愛情。
過保護すぎるラファエロのせいで逆に眠れなくなりそうなゆきだったが、その圧倒的な安心感に包まれているうちに、いつの間にか心地よい眠気へと引きずり込まれていった。
ゆきがスースーと穏やかな寝息を立て始めたのを確認すると、ラファエロはやっと肩の力を抜き、その頭をそっと撫でた。
「……はぁ、マジで焦った……。早く元気になれよな、ゆき」
静まり返った部屋で、ラファエロはゆきの手を自分のゴツゴツとした大きな手でそっと包み込み、決してその場を離れようとはしなかった。
