亀と獣

地下の隠れ家の一角で、この日はマイキー特製の「なんでもありのスペシャル・ピザ・ナイト」が開催されていた。

「はい、お待たせ! 特製ハラペーニョ・ダブルチーズピザだよ!」
マイキーが満面の笑みで差し出したのは、生地が見えないほど真っ赤なハラペーニョのスライスが敷き詰められ、じゅくじゅくと赤い油を滴らせている地獄のようなピザだった。

「わぁ、おいしそう……! マイキー、ありがとう!」
ゆきはまだ人間の頃の感覚が抜けきっておらず、物珍しさと「せっかく作ってくれたから」という気持ちから、あまり中身を確認せずに大きな一口にかぶりついた。

――次の瞬間。

(……は……?)

ゆきの脳内で、何かが盛大に爆発した。

舌の先から喉の奥まで、一瞬にして猛烈な灼熱が駆け巡る。それはまるで、熱せられた鉄板を直接押し付けられたかのような、これまでに経験したことのない暴力的な激辛の衝撃だった。

「かっ……! くはっ……! 辛っ……!!」

あまりの辛さに言葉にならない悲鳴を上げ、ゆきはピザをテーブルに落とそうとしたが、驚きすぎて手から離せない。
目からは一瞬で大粒の涙があふれ出し、口をあんぐりと開けたまま、ぜぇぜぇと浅い呼吸を繰り返す。猫耳は恐怖と驚愕で完全にぺしゃんと後ろに倒れ、長い尻尾はピンと硬直していた。

「な、なんだ!? どうしたゆき!?」
隣に座っていたラファエロが、ただならぬ気配を察知してガタリと立ち上がった。

「辛い……っ! 口の中が、燃えてるの……っ! ひっく、辛いよぉ……っ!!」

ゆきは両手で自分の口元をパタパタと仰ぎながら、あまりの痛みにポロポロと涙をこぼし続けた。ただの辛さのあまり、泣きじゃくる小さな子どものようになってしまっている。

「なんだこれ、マイキー、お前また激辛ハラペーニョを山盛り入れたのか!?」
ラファエロがギロリとマイキーを睨みつける。
「えっ、だってピザは辛いほうがスパイシーで美味しいじゃん!?」とマイキーはケラケラ笑っているが、それどころではない。

「ゆき、ほら、水だ! 水を飲め!」
レオナルドが慌ててグラスを差し出すが、炭酸やただの水ではこの強烈な辛さは収まらない。ゆきは水を一気飲みしたものの、「ひりひりするぅ……! まだ痛いよぉ……!」と、さらに涙をぼろぼろこぼしてラファエロの腕にしがみついた。

「うわ、マジかよ……よしよし、泣くな泣くな!」
愛しい妹分が激辛ごときで半泣きになっているのを見て、ラファエロの過保護スイッチが即座に全開になる。

「マイキー! すぐに牛乳だ! 冷たいミルクを持ってこい!! あと甘いバニラアイスもだ!! 急げ!!」
「は、はいはーい!」

ラファエロは怯えて震えるゆきを優しく抱き寄せ、その背中を大きな手でぽんぽんとリズミカルに叩き続けた。
「大丈夫だ、すぐ甘いもので中和してやるからな。……まったく、あんな真っ赤なもん一気食いするからだろ……でもよく頑張ったな、よしよし……」

怒りつつも、その声と手つきはどこまでも甘く、過保護そのものだった。
差し出された冷たいミルクを飲んで、ようやく口の中の火事が鎮火したゆきは、ラファエロの胸に顔を埋めたまま、ヒックヒックとしゃくりをあげる。

「うぅ……もう絶対、赤いピザは食べない……っ」
「はは、いい教訓になったな。ほら、泣き止んだらあまーいアイス食うぞ」

散々な目には遭ったものの、ラファエロの温かい腕の中にすっぽりと包まれながら、ゆきはほっと胸を撫で下ろすのだった。
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