亀と獣
深夜二時。
地下の隠れ家の静まり返った廊下を、ゆきはパタパタと音を立てないように歩いていた。
(……ダメだ、全然眠れない……)
さっきまでスマホをいじったり天井を見つめたりしていたのだが、昼間に寝すぎてしまったのか、あるいは人間だった頃の生活リズムがまだ中途半端に残っているせいか、目が冴え切ってしまっている。
このままベッドの中でゴロゴロしていても余計なことばかり考えてしまいそうだったので、ゆきは思い切って部屋を出ることにした。
(もしかしたら、誰かまだ起きてるかもしれない……)
そう思って、まずは一番手前にある一番お兄ちゃんの部屋――ラファエロの部屋の前をそっと通り過ぎる。
(ラフはさすがにもう寝てるよね。あんなに過保護に「早く寝ろ」って言われたのに起こしたら絶対びっくりされるし……)
次に、その隣のレオナルドの部屋、さらにドナテロの実験室の前を覗いてみるが、どちらも真っ暗で静まり返っていた。やっぱり深夜の地下水路で起きている人間(と亀)なんてそうそういないか、とゆきが小さくため息をついたその時。
一番奥、廊下の突き当たりにあるマイキーの部屋の前まで来たときだった。
ドアの隙間から、チカチカとポップなネオンカラーの光が漏れ、かすかに楽しげな音楽のビートが聞こえてきた。
(……え? まだ起きてるの?)
驚いてそっと耳を澄ませてみると、中からドタバタと何やら作業をしているような音まで聞こえる。
ゆきが恐る恐るノックをしようと手を伸ばした、その瞬間。
「うわっ!? びっくりしたぁ!」
突然バッとドアが開き、中からヘッドホンを首にかけたマイキーが飛び出してきた。
「ゆきちゃん!? こんな真夜中にどうしたの? 幽霊でも見たような顔してさ」
マイキーは驚いた顔をしたあと、すぐににっこりと人懐っこい笑顔を浮かべた。
部屋の中を覗き見ると、そこはまるで秘密基地のようになっていた。壁にはカラフルなポスターやスケートボードが飾られ、クッションがそこかしこに転がっている。モニターにはまだ派手なアニメーションが映し出されていた。
「あ、マイキー……。うん、なんだか目が冴えちゃって眠れなくてさ。みんなの部屋の前を通ったら、マイキーの部屋だけ明かりがついてたから……」
「あー、それ分かる! 夜ってテンション上がっちゃうんだよね! ボクもさっきまでずっとスケボーのカスタム動画と、海外のポップミュージック聴いててさ、全然眠気来ないの!」
さすが夜更かしが得意そうなマイキーの言葉に、ゆきはホッと肩の力を抜いた。
「そっか、よかった……。あのさ、マイキー、もしよかったらなんだけど……」
ゆきは少しもじもじしながら、マイキーの服の裾をキュッと掴んだ。
「ん? なになに?」
「夕方みんなで観てたあの映画のさ、続き……。まだ観てないよね? もしよかったら、今から一緒に続き観ない……?」
ゆきが上目遣いでそう尋ねると、マイキーの目がキラリと輝いた。
「――いいね!! それめちゃくちゃ最高じゃん!!」
マイキーは両手を叩いて大喜びし、ゆきを自分の部屋へとグイグイと引っ張り込んだ。
「ちょうどお菓子もまだ残ってるし、特等席のビーズクッションあげる! さあさあ、座って座って!」
マイキーは手際よくパソコンの画面を操作し、夕方途中になっていた映画の再生画面を映し出す。
ふかふかのクッションに座り込み、手渡されたスナック菓子を受け取りながら、ゆきはふっと心が軽くなるのを感じた。
「じゃあ、夜更かしナイトの始まり始まり〜!」
マイキーの楽しそうな声に合わせて映画がスタートする。
静かな地下の夜、大好きな仲間の一人と並んで画面を見上げるその時間は、眠れない夜の不安をすっかり消し去って、温かくてワクワクする秘密のひとときに変わっていくのだった。
地下の隠れ家の静まり返った廊下を、ゆきはパタパタと音を立てないように歩いていた。
(……ダメだ、全然眠れない……)
さっきまでスマホをいじったり天井を見つめたりしていたのだが、昼間に寝すぎてしまったのか、あるいは人間だった頃の生活リズムがまだ中途半端に残っているせいか、目が冴え切ってしまっている。
このままベッドの中でゴロゴロしていても余計なことばかり考えてしまいそうだったので、ゆきは思い切って部屋を出ることにした。
(もしかしたら、誰かまだ起きてるかもしれない……)
そう思って、まずは一番手前にある一番お兄ちゃんの部屋――ラファエロの部屋の前をそっと通り過ぎる。
(ラフはさすがにもう寝てるよね。あんなに過保護に「早く寝ろ」って言われたのに起こしたら絶対びっくりされるし……)
次に、その隣のレオナルドの部屋、さらにドナテロの実験室の前を覗いてみるが、どちらも真っ暗で静まり返っていた。やっぱり深夜の地下水路で起きている人間(と亀)なんてそうそういないか、とゆきが小さくため息をついたその時。
一番奥、廊下の突き当たりにあるマイキーの部屋の前まで来たときだった。
ドアの隙間から、チカチカとポップなネオンカラーの光が漏れ、かすかに楽しげな音楽のビートが聞こえてきた。
(……え? まだ起きてるの?)
驚いてそっと耳を澄ませてみると、中からドタバタと何やら作業をしているような音まで聞こえる。
ゆきが恐る恐るノックをしようと手を伸ばした、その瞬間。
「うわっ!? びっくりしたぁ!」
突然バッとドアが開き、中からヘッドホンを首にかけたマイキーが飛び出してきた。
「ゆきちゃん!? こんな真夜中にどうしたの? 幽霊でも見たような顔してさ」
マイキーは驚いた顔をしたあと、すぐににっこりと人懐っこい笑顔を浮かべた。
部屋の中を覗き見ると、そこはまるで秘密基地のようになっていた。壁にはカラフルなポスターやスケートボードが飾られ、クッションがそこかしこに転がっている。モニターにはまだ派手なアニメーションが映し出されていた。
「あ、マイキー……。うん、なんだか目が冴えちゃって眠れなくてさ。みんなの部屋の前を通ったら、マイキーの部屋だけ明かりがついてたから……」
「あー、それ分かる! 夜ってテンション上がっちゃうんだよね! ボクもさっきまでずっとスケボーのカスタム動画と、海外のポップミュージック聴いててさ、全然眠気来ないの!」
さすが夜更かしが得意そうなマイキーの言葉に、ゆきはホッと肩の力を抜いた。
「そっか、よかった……。あのさ、マイキー、もしよかったらなんだけど……」
ゆきは少しもじもじしながら、マイキーの服の裾をキュッと掴んだ。
「ん? なになに?」
「夕方みんなで観てたあの映画のさ、続き……。まだ観てないよね? もしよかったら、今から一緒に続き観ない……?」
ゆきが上目遣いでそう尋ねると、マイキーの目がキラリと輝いた。
「――いいね!! それめちゃくちゃ最高じゃん!!」
マイキーは両手を叩いて大喜びし、ゆきを自分の部屋へとグイグイと引っ張り込んだ。
「ちょうどお菓子もまだ残ってるし、特等席のビーズクッションあげる! さあさあ、座って座って!」
マイキーは手際よくパソコンの画面を操作し、夕方途中になっていた映画の再生画面を映し出す。
ふかふかのクッションに座り込み、手渡されたスナック菓子を受け取りながら、ゆきはふっと心が軽くなるのを感じた。
「じゃあ、夜更かしナイトの始まり始まり〜!」
マイキーの楽しそうな声に合わせて映画がスタートする。
静かな地下の夜、大好きな仲間の一人と並んで画面を見上げるその時間は、眠れない夜の不安をすっかり消し去って、温かくてワクワクする秘密のひとときに変わっていくのだった。
