亀と獣
地下鉄の廃線跡を利用したタートルズたちの隠れ家。
そこでゆきが保護されてから、すでに数日が経っていた。
最初は自分がミュータントになってしまったショックと、緑色の巨大な亀たちという奇妙な共同生活への戸惑いでいっぱいつまっていたゆきだったが、彼らの明るさと優しさに触れ、少しずつ心を開き始めていた。
特に、自分を最初に見つけて背負ってくれたラファエロは、まるで本当の兄のように面倒を見てくれた。
不器用ながらも温かい食事を差し入れしてくれたり、落ち込んでいると「何かあったのか?」と不格好な笑顔で気遣ってくれたりする。いわゆるツンデレというよりも、どこまでも真っ直ぐで面倒見のいい、頼れる「お兄ちゃん」そのものだった。
しかし、人間から猫のミュータントへと変わったゆきの身体は、まだ環境の変化や精神的な緊張に完全に対応しきれていなかった。
深夜。
地下の隠れ家はひんやりとした空気に包まれていた。
(さむい……っ、骨の髄まで冷える……)
自分の部屋にあてがわれたベッドの中で、ゆきはガタガタと全身を震わせていた。
人間の頃とは違う猫の毛皮や体温調節の仕組みのせいか、夜更けになると底冷えが襲ってくる。持っていた毛布を何枚重ねても、心細さと寒さで芯から凍えそうだった。
(みんなを起こしちゃ悪いよ……我慢しなきゃ、我慢……)
そう思えば思うほど、孤独感と寒さが涙を誘う。
温かいお母さんの布団が恋しくて、どうしようもなく心細くなって、ついにゆきの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
どうしても我慢の限界を迎えたゆきは、震える足を引きずりながら、パジャマの裾をきゅっと握りしめて部屋を出た。
向かった先は、廊下の少し先にあるラファエロの部屋の前だった。
コン、コン……と、か細いノックの音が響く。
「……んあ?」
ガサリ、と布団が擦れる音がして、すぐに低く落ち着いた声が返ってきた。
開いたドアの隙間から覗いたのは、ハチマキを外し、巨体をベッドから起こしたラファエロの姿だった。
「……ゆき? こんな夜中にどうしたんだ? どこか痛いのか?」
ラファエロは一瞬で寝ぼけ眼を覚まし、心配そうに眉をひそめながらゆきを見下ろした。
だが、そこに立っていたのは、涙で目を真っ赤にし、寒さで歯をガチガチと鳴らしている小さな猫ミュータントの姿だった。
「ラファ……っ」
ぽろぽろと涙をこぼすゆきを見て、ラファエロは事情をすべて察した。
「……寒かったのか?」
「うん……っ、毛布かけても、全然温まらなくて……ひとりで寝るの、こわくて……ごめんなさい、こんな夜中に……っ」
言葉を詰まらせながら泣くゆきを前にして、ラファエロが迷うことなどなかった。彼はすぐにベッドから巨体をすっくと立ち上がらせた。
「謝るなよ。ほら、こっちに来い」
ラファエロは自分の部屋へとゆきを招き入れると、ベッドの上にあった厚手の大きな毛布をふわりとゆきの肩にかけた。
「あ、あったかい……」
「俺の部屋は、配管が近くを通ってるから他の部屋より少しだけ暖かいんだ。……で、まだ寒いか?」
ゆきがこくこくとうなずくと、ラファエロは大きな腕を広げた。
「なら、遠慮すんな。ここに座れ」
「え……?」
「ほら、じっとしてろ」
ラファエロはゆきを優しく自分の隣に座らせると、まるで冷えた小動物を包み込むように、その大きな腕でしっかりと抱きしめた。
亀の体温は人間よりも少し低いが、ラファエロの身体そのものは驚くほど熱を持っていた。何より、彼の存在自体が圧倒的な安心感を放っている。
ゆきはそっとラファエロの胸元に顔をうずめ、彼の頑丈な腕にしがみついた。
「……どうだ? 少しは温まったか?」
「うん……すごく、温かい……」
心地よい体温と、トクトクと響く力強い心音に包まれ、ゆきの緊張していた神経が一気に緩んでいく。
「よかったな。……なぁ、ゆき。お前がここにいるのは、誰の迷惑でもねぇんだからな。辛いときは我慢しないで、いつでも俺たちを頼れよ。特に、俺にな」
少し照れくさそうに、でもどこまでも真剣な声でそう言って、ラファエロはゆきの頭をゴツゴツとした大きな手で優しく撫でた。
安心感に包まれたゆきは、もうこれ以上涙が出ることもなく、ラファエロの温もりに守られながら、スッと穏やかな眠りへと落ちていった。
そこでゆきが保護されてから、すでに数日が経っていた。
最初は自分がミュータントになってしまったショックと、緑色の巨大な亀たちという奇妙な共同生活への戸惑いでいっぱいつまっていたゆきだったが、彼らの明るさと優しさに触れ、少しずつ心を開き始めていた。
特に、自分を最初に見つけて背負ってくれたラファエロは、まるで本当の兄のように面倒を見てくれた。
不器用ながらも温かい食事を差し入れしてくれたり、落ち込んでいると「何かあったのか?」と不格好な笑顔で気遣ってくれたりする。いわゆるツンデレというよりも、どこまでも真っ直ぐで面倒見のいい、頼れる「お兄ちゃん」そのものだった。
しかし、人間から猫のミュータントへと変わったゆきの身体は、まだ環境の変化や精神的な緊張に完全に対応しきれていなかった。
深夜。
地下の隠れ家はひんやりとした空気に包まれていた。
(さむい……っ、骨の髄まで冷える……)
自分の部屋にあてがわれたベッドの中で、ゆきはガタガタと全身を震わせていた。
人間の頃とは違う猫の毛皮や体温調節の仕組みのせいか、夜更けになると底冷えが襲ってくる。持っていた毛布を何枚重ねても、心細さと寒さで芯から凍えそうだった。
(みんなを起こしちゃ悪いよ……我慢しなきゃ、我慢……)
そう思えば思うほど、孤独感と寒さが涙を誘う。
温かいお母さんの布団が恋しくて、どうしようもなく心細くなって、ついにゆきの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
どうしても我慢の限界を迎えたゆきは、震える足を引きずりながら、パジャマの裾をきゅっと握りしめて部屋を出た。
向かった先は、廊下の少し先にあるラファエロの部屋の前だった。
コン、コン……と、か細いノックの音が響く。
「……んあ?」
ガサリ、と布団が擦れる音がして、すぐに低く落ち着いた声が返ってきた。
開いたドアの隙間から覗いたのは、ハチマキを外し、巨体をベッドから起こしたラファエロの姿だった。
「……ゆき? こんな夜中にどうしたんだ? どこか痛いのか?」
ラファエロは一瞬で寝ぼけ眼を覚まし、心配そうに眉をひそめながらゆきを見下ろした。
だが、そこに立っていたのは、涙で目を真っ赤にし、寒さで歯をガチガチと鳴らしている小さな猫ミュータントの姿だった。
「ラファ……っ」
ぽろぽろと涙をこぼすゆきを見て、ラファエロは事情をすべて察した。
「……寒かったのか?」
「うん……っ、毛布かけても、全然温まらなくて……ひとりで寝るの、こわくて……ごめんなさい、こんな夜中に……っ」
言葉を詰まらせながら泣くゆきを前にして、ラファエロが迷うことなどなかった。彼はすぐにベッドから巨体をすっくと立ち上がらせた。
「謝るなよ。ほら、こっちに来い」
ラファエロは自分の部屋へとゆきを招き入れると、ベッドの上にあった厚手の大きな毛布をふわりとゆきの肩にかけた。
「あ、あったかい……」
「俺の部屋は、配管が近くを通ってるから他の部屋より少しだけ暖かいんだ。……で、まだ寒いか?」
ゆきがこくこくとうなずくと、ラファエロは大きな腕を広げた。
「なら、遠慮すんな。ここに座れ」
「え……?」
「ほら、じっとしてろ」
ラファエロはゆきを優しく自分の隣に座らせると、まるで冷えた小動物を包み込むように、その大きな腕でしっかりと抱きしめた。
亀の体温は人間よりも少し低いが、ラファエロの身体そのものは驚くほど熱を持っていた。何より、彼の存在自体が圧倒的な安心感を放っている。
ゆきはそっとラファエロの胸元に顔をうずめ、彼の頑丈な腕にしがみついた。
「……どうだ? 少しは温まったか?」
「うん……すごく、温かい……」
心地よい体温と、トクトクと響く力強い心音に包まれ、ゆきの緊張していた神経が一気に緩んでいく。
「よかったな。……なぁ、ゆき。お前がここにいるのは、誰の迷惑でもねぇんだからな。辛いときは我慢しないで、いつでも俺たちを頼れよ。特に、俺にな」
少し照れくさそうに、でもどこまでも真剣な声でそう言って、ラファエロはゆきの頭をゴツゴツとした大きな手で優しく撫でた。
安心感に包まれたゆきは、もうこれ以上涙が出ることもなく、ラファエロの温もりに守られながら、スッと穏やかな眠りへと落ちていった。
