亀と獣

地下の隠れ家、その日の夕食はマイキー特製の特大チーズピザだった。
とろりと伸びるチーズと香ばしい生地の匂いが部屋中に広がり、タートルズたちも大喜びで頬張っている。

人間の頃からピザが大好きだったゆきも、例外ではなかった。
「んんっ……! このチーズのコクとサクサクの生地、最高……っ!」

新しく生えた鋭い牙や爪に悪戦苦闘しながらも、ゆきは一心不乱にピザにかじりついた。美味しいものを食べている時の幸せで、心も体もすっかりとろけきっている。

すると、熱々のピザを小さく噛み締めるゆきの喉の奥から、小さく愛らしい音が漏れ出した。

「……にゃむ……、にゃむ………」

「…………」

その瞬間、ダイニングテーブルを囲んでいた四人の動きが、ピタリと止まった。

一番近くに座っていたラファエロは、手に持っていたピザを持ったまま硬直し、絶句している。
対面にいたレオナルドは目を丸くし、マイキーは「いま……何か聞こえた……?」と耳に手を当てて信じられないものを見るような顔をした。ドナテロは持っていたフォントをそっとテーブルに置く。

当のゆきは、美味しさに夢中になるあまり、自分がそんな音を発していることなど微塵も気づいていない。
「美味しいね、マイキー! このソース、隠し味に何使ってるの?」
キラキラと目を輝かせながらそう尋ねるゆきの頭の上では、黒い猫耳が嬉しそうにピコピコと動いていた。

「……にゃむ、にゃむ……」

再び零れたその音を聞き逃さなかったマイキーが、たまらなくなるといった様子で両手で自分の頬を抑えた。
「だ、だめだ……! かわいすぎる……! 猫のミュータントって、美味しいとき本当にそんな可愛い音出すの……!?」

「お、おい、ゆき……お前、今……」
ラファエロはゴツゴツとした大きな手で口元を隠し、顔を真っ赤に染めながら、照れくさそうに、しかしどうしようもなく愛おしそうに目を細めた。

「え? 私、何か変なこと言ってた……?」
首をかしげるゆきに、レオナルドがクスクスと笑いながら肩をすくめる。
「いや、変なことじゃないさ。ただ、その……ものすごく美味しく食べてる音が聞こえただけだよ」

「そうそう! 最高の褒め言葉だよ、シェフのマイキー感激しちゃう!」
マイキーが嬉しそうにピースサインを出す。

ドナテロもメガネを押し上げながら、「生物学的に、極度のリラックス状態や満足感から生じる喉の鳴き声――いわゆるゴロゴロ音の変形だね。……うん、とても健全な反応だ」と、いつもの早口で微笑ましそうに分析した。

自分だけが状況を飲み込めず、「え、ええ……?」と戸惑うゆき。
だが、自分を囲む四人全員が、とろけるような優しい笑顔で自分を見つめていることに気づく。先ほどまでの慌ただしさや、ミュータントになってしまった不安が嘘のように消え去るような、温かい空気がそこには満ちていた。

「……もう、みんなしてそんなに見つめないでよ……」
恥ずかしさでゆきが耳まで真っ赤にして俯くと、ラファエロはふっと鼻を鳴らし、自分の分のピザをさらに一枚、ゆきの皿へとポンと乗せた。

「照れてねぇで、もっと食えよ。……ほら、美味いんだろ?」

その少し不器用で、でもどこまでも優しい声を聞くと、ゆきの喉の奥からまた小さく、「にゃむ……」と幸せの音が零れ落ちるのだった。
そしてその音を聞くたび、四人の顔にまた自然と穏やかな笑顔が広がるのであった。
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