亀と獣
パトロールの帰り道。静まり返った地下の隠れ家で、ゆきは自室のベッドに腰掛け、ぼんやりと自分の首元に触れていた。
ふとした拍子に、タートルズたちが見ていないところで、首にある痛々しい痕が指先をかすめる。
それは人間の頃、いじめグループの好奇心と悪意に満ちた目から逃れられず、縄で強く締め上げられたときに刻まれた消えない傷跡だった。普段はタートルズの前では隠すようにハイネックの服を着たりしてやり過ごしていたが、ふとした瞬間に当時の記憶の扉が重く開いてしまう。
(――苦しい……息ができない……、なんで、どうして……)
胸を締め付けるような圧迫感と、あの日の冷たい嘲笑が脳裏に蘇る。
冷や汗が背中を伝い、呼吸が急激に浅くなった。今、実際には首に何も巻かれていないはずなのに、脳と感覚はあのときの恐怖をそのまま再現し始める。
「はっ……、はぁ……っ、うっ……」
恐怖のあまり、ゆきは自分の首を両手で必死に掻きむしった。まるで、そこにあるはずのない縄を引き剥がそうとするように。
「ひっ……、くるしい……、だれか……たすけて、この縄をとって……っ! 外して、お願い、息ができないよぉ……っ!」
涙をぼろぼろとこぼし、錯乱状態で自分の首を爪で引っ掻くゆきの声が、静かな隠れ家に響いた。
リビングで武器の手入れをしていたラファエロたちが、そのただならぬ気配と泣き声に気づいて一斉に顔を上げる。
「……いまの声、ゆきか!?」
ラファエロが一番に立ち上がり、ものすごい勢いでゆきの部屋のドアを蹴破るように開けた。後ろからレオナルド、ドナテロ、マイキーも慌てて駆けつける。
「ゆきっ――!?」
部屋に飛び込んだラファエロは、ベッドの上で自分の首を掻きむしり、酸欠の魚のように必死に喘いでいるゆきの姿を見て、心臓が凍りついた。
「ゆき、おい! どうしたんだ、何があった!?」
ラファエロが慌てて駆け寄り、暴れるゆきの両手をしっかりと掴み、その動きを制止した。
「はっ、はぁっ……! 縄が、首に……っ! 苦しいの、取って、外してよぉ……っ!!」
「なっ……!?」
ゆきの泣き叫ぶ声と、彼女の首筋に痛々しく刻まれた古い痕を見た瞬間、ドナテロとレオナルドも息を呑んだ。普段は隠されていたその傷の理由を、彼らは言葉にしなくても直感で察した。
いじめ、そして暴力。人間社会の理不尽な悪意が、この小さな少女にどれほどの深い闇を残していったのかが痛いほど伝わってきた。
「ゆき、しっかりしろ! ここに縄なんかない、何もないんだ!」
ラファエロは自分の大きな両手でゆきの震える手を包み込み、必死に呼びかける。しかし、過去のトラウマに囚われたゆきにはその声が届かず、「苦しい、外して……!」とただ怯えながら涙を流し続けるばかりだった。
自分の力ではどうにもできない恐怖とパニックに陥っているゆきを目の当たりにして、ラファエロは唇を噛み締め、胸が張り裂けそうだった。
普段の強気な兄貴分としての姿は消え、目の前で苦しむ少女を救えない無力感が、彼の巨体を重く縛り付ける。
「……くそっ……!」
いたたまれなくなったラファエロは、ゆきを力任せではなく、壊れ物を扱うようにそっと、しかし力強く自分の胸元へと引き寄せた。硬い甲羅と温かい体に、ゆきの頭を優しく押し当てる。
「もう大丈夫だ……! 何もねぇ、俺がついてる。誰も、お前にそんな真似させねぇ……っ!」
「ラフ……っ、くるしいよぉ……っ」
「ごめんな、守れなくてごめんな……っ!」
マイキーはあまりの痛ましい光景にその場でうずくまり、目元をぎゅっと手で覆って涙をこぼした。レオナルドとドナテロも、歯を食いしばりながらその場に立ち尽くし、ただ彼女の呼吸が落ち着くのを祈るしかなかった。
隠れ家の冷たい空気の中、ラファエロは震えるゆきを腕の中に閉じ込め、彼女の恐怖が消え去るまで、ただひたすらその背中を大きな手でさすり続けた。
ふとした拍子に、タートルズたちが見ていないところで、首にある痛々しい痕が指先をかすめる。
それは人間の頃、いじめグループの好奇心と悪意に満ちた目から逃れられず、縄で強く締め上げられたときに刻まれた消えない傷跡だった。普段はタートルズの前では隠すようにハイネックの服を着たりしてやり過ごしていたが、ふとした瞬間に当時の記憶の扉が重く開いてしまう。
(――苦しい……息ができない……、なんで、どうして……)
胸を締め付けるような圧迫感と、あの日の冷たい嘲笑が脳裏に蘇る。
冷や汗が背中を伝い、呼吸が急激に浅くなった。今、実際には首に何も巻かれていないはずなのに、脳と感覚はあのときの恐怖をそのまま再現し始める。
「はっ……、はぁ……っ、うっ……」
恐怖のあまり、ゆきは自分の首を両手で必死に掻きむしった。まるで、そこにあるはずのない縄を引き剥がそうとするように。
「ひっ……、くるしい……、だれか……たすけて、この縄をとって……っ! 外して、お願い、息ができないよぉ……っ!」
涙をぼろぼろとこぼし、錯乱状態で自分の首を爪で引っ掻くゆきの声が、静かな隠れ家に響いた。
リビングで武器の手入れをしていたラファエロたちが、そのただならぬ気配と泣き声に気づいて一斉に顔を上げる。
「……いまの声、ゆきか!?」
ラファエロが一番に立ち上がり、ものすごい勢いでゆきの部屋のドアを蹴破るように開けた。後ろからレオナルド、ドナテロ、マイキーも慌てて駆けつける。
「ゆきっ――!?」
部屋に飛び込んだラファエロは、ベッドの上で自分の首を掻きむしり、酸欠の魚のように必死に喘いでいるゆきの姿を見て、心臓が凍りついた。
「ゆき、おい! どうしたんだ、何があった!?」
ラファエロが慌てて駆け寄り、暴れるゆきの両手をしっかりと掴み、その動きを制止した。
「はっ、はぁっ……! 縄が、首に……っ! 苦しいの、取って、外してよぉ……っ!!」
「なっ……!?」
ゆきの泣き叫ぶ声と、彼女の首筋に痛々しく刻まれた古い痕を見た瞬間、ドナテロとレオナルドも息を呑んだ。普段は隠されていたその傷の理由を、彼らは言葉にしなくても直感で察した。
いじめ、そして暴力。人間社会の理不尽な悪意が、この小さな少女にどれほどの深い闇を残していったのかが痛いほど伝わってきた。
「ゆき、しっかりしろ! ここに縄なんかない、何もないんだ!」
ラファエロは自分の大きな両手でゆきの震える手を包み込み、必死に呼びかける。しかし、過去のトラウマに囚われたゆきにはその声が届かず、「苦しい、外して……!」とただ怯えながら涙を流し続けるばかりだった。
自分の力ではどうにもできない恐怖とパニックに陥っているゆきを目の当たりにして、ラファエロは唇を噛み締め、胸が張り裂けそうだった。
普段の強気な兄貴分としての姿は消え、目の前で苦しむ少女を救えない無力感が、彼の巨体を重く縛り付ける。
「……くそっ……!」
いたたまれなくなったラファエロは、ゆきを力任せではなく、壊れ物を扱うようにそっと、しかし力強く自分の胸元へと引き寄せた。硬い甲羅と温かい体に、ゆきの頭を優しく押し当てる。
「もう大丈夫だ……! 何もねぇ、俺がついてる。誰も、お前にそんな真似させねぇ……っ!」
「ラフ……っ、くるしいよぉ……っ」
「ごめんな、守れなくてごめんな……っ!」
マイキーはあまりの痛ましい光景にその場でうずくまり、目元をぎゅっと手で覆って涙をこぼした。レオナルドとドナテロも、歯を食いしばりながらその場に立ち尽くし、ただ彼女の呼吸が落ち着くのを祈るしかなかった。
隠れ家の冷たい空気の中、ラファエロは震えるゆきを腕の中に閉じ込め、彼女の恐怖が消え去るまで、ただひたすらその背中を大きな手でさすり続けた。
