うさぎのモンスターと骨兄弟

スノーフルの境界近く、切り立った崖に架かる長い吊り橋。
そこで、ゆきは絶体絶命の危機に瀕していた。

パピルスが「人間を捕まえるため」に用意した、あまりにも過激で、あまりにも大がかりな罠。それが、運悪く迷い込んでしまったゆきの足元で完全に起動してしまったのだ。

「カチリ」と嫌な音が響いた瞬間、背後で巨大な大砲が不気味な唸りを上げ、銃口をゆきへとロックオンする。吊り橋の下からは、ゴウゴウと激しい音を立てて燃え盛る炎がせり上がり、鋭い鉄の槍が肉を貫かんと切っ先を覗かせていた。

一歩でも動けば大砲が火を吹き、足場を踏み外せば炎と槍の餌食になる。
うさぎ族の鋭い耳は、大砲がエネルギーを充填するキィィィンという高音や、炎がパチパチと爆ぜる恐怖の音を、容赦なく拾い上げて脳内に響かせる。

(もう、ダメだ……。逃げられない……)

四方八方を死のトラップに囲まれ、ゆきはガタガタと震えながらその場にへたり込んだ。あまりの恐怖に涙が溢れ、視界がにじむ。

ここでお終いだ。ここで私は死ぬんだ。

ゆきはぎゅっと目を瞑り、心の中で、届くはずのない両親への遺言を呟いた。

(お父さん、お母さん……ごめんなさい。二人が大好きなお野菜、まだ残しちゃってる。わがままばかり言って、お手伝いも全然できなくて……立派なモンスターになれなくて、本当にごめんなさい……!)

大砲の充填音が最高潮に達する。炎の熱気が鼻先をかすめ、槍の冷たい気配がすぐそこに迫る。
ゆきは訪れるはずの強い衝撃に備え、全身を硬直させた。

――その時だった。

「おっと。そんなところで何をお祈りしてんだよ、お嬢さん」

聞き慣れた、場違いなほどに抜けた声がすぐ耳元で響いた。

ドンッ!!!

凄まじい爆発音と共に大砲が放たれ、槍が突き出た。しかし、ゆきが痛みを感じることはなかった。
次の瞬間には、世界から熱気も、爆音も、狂ったような罠の駆動音も、すべてが綺麗さっぱり消え去っていた。

ふっと周囲の気配が変わる。聞こえてくるのは、静かで、穏やかな風の音だけだった。

「……へ? 私、死んじゃったの……?」

おそるおそる目を開けると、そこは吊り橋の上などではなく、スノーフルの安全な森の開けた場所だった。
そして目の前には、青いパーカーのポケットに両手を突っ込んだまま、いつもの永久不変の笑みを浮かべたスケルトンが立っていた。

サンズだ。

彼は大砲が放たれる文字通り一瞬の隙に、ショートカットを使ってゆきを戦場のど真ん中から拐い出してきたのだ。

「ハハ、安心しな。ここは天国じゃねえよ。オイラみたいな骨が天使のワケないだろ?」

サンズはそう言うと、いつものようにフッと息を漏らした。

「それにしても、パピルスのやつ、今回はちょっと張り切りすぎだな。あんな物騒な罠、人間が引っかかる前にスノーフルの住人が全滅しちまうぜ」

「サ、サンズ……! サンズなの……!?」

ゆきは自分が生きていることを理解した瞬間、緊張の糸が解け、大粒の涙をポロポロと流しながらサンズのパーカーの裾に飛びついた。

「怖かったぁ……! もう本当に死んじゃうと思ったの……! お父さんとお母さんにも、もう会えないかって……!」

泣きじゃくるゆきの頭を、サンズはポケットから出した骨の手で、ぽんぽんと優しく叩いた。

「悪かったな、怖い思いさせて。でも、お前さんのそのいい耳のおかげで、助けを呼ぶ声が遠くまでよーく響いてたぜ。オイラじゃなきゃ、聞き逃してるところだった」

サンズはそう言ってニヤリとウインクする。

「立派なモンスターになれなくてごめん、だっけか? 最高の遺言だったぜ。でも、お前さんが立派になるのはまだまだ先の話だ。なんたって……」

サンズはゆきの涙をそっと指先で拭うと、いつもの調子で言った。

「こんなところで『うさぎ(命を落とす)』には、お前さんはまだ早すぎるからな」

「うう……っ、サンズのダジャレ、やっぱり最高……! でも、今は笑えないよぉ……!」

涙顔のまま文句を言うゆきを見て、サンズは満足そうに「へへ、そいつは光栄だねぇ」と笑った。
吹雪の合間から差し込むかすかな光が、九死に一生を得た小さなうさぎと、それを飄々と救い出したスケルトンの姿を、静かに照らし出していた。
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