うさぎのモンスターと骨兄弟
スノーフルからウォーターフェルへと続く、静かな境界線。
光るキノコやエコーフラワーの青い光が届き始めるその場所の茂みで、ゆきは冷たい地面にへたり込んでいた。
「う、うう……。いたい、よ……」
大粒の涙が、ゆきの頬を伝ってボロボロと地面に落ちていく。
自慢の大きな耳は完全に後ろへと伏せられ、恐怖と痛みで細かく震えていた。
ゆきの右足は、頑丈な金属製のトラップにがっちりと挟まれていた。誰かが仕掛けた、野うさぎ用の古い罠だった。
元々このあたりはモンスターの行き来が少ない場所だ。それに加え、ウォーターフェルの水の音が周囲に反響している。人一倍耳が良いゆきにとって、その反響音のせいで自分の泣き声がかき消されてしまうように感じられ、絶望感は増すばかりだった。
(誰も気づいてくれない……。私、このままここで、一人で消えちゃうのかな……)
冷たい冷気が、じわじわと足元から体温を奪っていく。
ゆきが絶望に目を閉じた、その時だった。
ザザッ、と近くの茂みが大きく揺れた。
「……おや? こんなところで、えらい珍しい『獲物』が捕まってるじゃん」
聞き慣れた、少し掠れた低い声。
ゆきがパッと顔を上げると、そこには青いパーカーを着たスケルトン――サンズが立っていた。ウォーターフェルの詰め所に向かう途中だったのだろう、いつも通り両手をポケットに突っ込んだまま、眠たげな目でゆきを見下ろしている。
「サ、サンズ……! サンズ、たすけて、あしが……!」
ゆきは必死に手を伸ばした。サンズの姿を見た安心感で、止まりかけていた涙がまた溢れ出してくる。
「おいおい、泣くなって。泣くと涙が凍って、目元が『氷(こり)』ごりになっちまうぜ」
サンズはいつもの永久不変の笑顔を浮かべながら、ゆきの前にゆっくりと腰を下ろした。その鋭い目(まなこ)が、ゆきの足を挟んでいる金属の罠へと向けられる。
「なるほどねぇ。野うさぎ用の罠か。お前さん、うさぎのモンスターとしては一級品だけど、こういう罠を見分ける『センス(サンズ)』はなかったみたいだな」
「もう……! こんな時にまでダジャレ言わないでよぅ……!」
ゆきが涙目で膨れると、サンズは「ハハ、悪かったって」と声を緩めた。
サンズはポケットから骨の手を取り出すと、罠の金属部分にそっと触れた。
「ちょっと痛むかもしれないけど、じっとしてなよ」
サンズが罠のレバーに力を込める。
細い骨の手のどこにそんな力があるのか、頑丈な金属の牙が、ギチギチと音を立ててゆっくりと開いていった。
「――よし、今だ。足を抜きな」
サンズの合図に合わせて、ゆきは慌てて右足を引っ込めた。
完全に罠から解放された瞬間、張り詰めていた緊張が解け、ゆきはその場にへなへなと座り込んでしまった。
サンズは罠をパチンと閉じ、邪魔にならない場所へと放り投げると、再び両手をポケットに突っ込んだ。
「足、見せてみな」
ゆきが恐る恐る差し出した右足には、赤く痛々しい跡がついていた。幸い、骨が折れているような不自然な曲がり方はしていない。
「うーん、少し腫れてるな。歩くのは『骨(ほね)』が折れそうだ」
サンズはそう言うと、ゆきの前に背中を向けた。
「ほら、おんぶしてやるよ。オイラの詰め所まで行けば、冷やす氷くらいはあるからな」
「えっ、いいの……? サンズ、いつも歩くのめんどくさがるのに……」
「お前さんをここに放置する方が、後でパピルスに怒鳴られて耳に『タコ』ができるからな。オイラの耳(骨)を守るためさ」
ゆきは小さく吹き出しながら、サンズの広い背中にそっと捕まった。衣服の下にある骨の感触はゴツゴツとして冷たかったけれど、ゆきにとってはこれ以上ないほど温かく、安心できる場所だった。
サンズはゆきを背負うと、よっこらしょ、と軽い足取りで立ち上がった。
「サンズ、ありがとう……。私、サンズが来てくれなかったらどうしようかって、本当に怖かったの」
ゆきが背中に顔を埋めながら呟くと、サンズは歩きながら、ふっと笑い声を漏らした。
「心配すんなって。お前さんの泣き声、スノーフルまで聞こえそうな勢いだったぜ? オイラはただ、その大きな耳に負けないくらい『耳(みみ)』寄りな情報を聞きつけて、ちょっと様子を見に来ただけさ」
「ふふ、またダジャレ……。でも、サンズのダジャレを聞いたら、足の痛いのがちょっと飛んでっちゃったかも」
「そいつはよかった。オイラのジョークは、痛み止めにも『骨(コツ)』があるってわけだ」
青い光が揺らめくウォーターフェルの通路を、サンズはゆきを背負ってゆっくりと進んでいく。
冷たい水の音に混ざって、ゆきの小さな笑い声と、サンズの気の抜けたセリフが、静かに洞窟の奥へと響いていった。
光るキノコやエコーフラワーの青い光が届き始めるその場所の茂みで、ゆきは冷たい地面にへたり込んでいた。
「う、うう……。いたい、よ……」
大粒の涙が、ゆきの頬を伝ってボロボロと地面に落ちていく。
自慢の大きな耳は完全に後ろへと伏せられ、恐怖と痛みで細かく震えていた。
ゆきの右足は、頑丈な金属製のトラップにがっちりと挟まれていた。誰かが仕掛けた、野うさぎ用の古い罠だった。
元々このあたりはモンスターの行き来が少ない場所だ。それに加え、ウォーターフェルの水の音が周囲に反響している。人一倍耳が良いゆきにとって、その反響音のせいで自分の泣き声がかき消されてしまうように感じられ、絶望感は増すばかりだった。
(誰も気づいてくれない……。私、このままここで、一人で消えちゃうのかな……)
冷たい冷気が、じわじわと足元から体温を奪っていく。
ゆきが絶望に目を閉じた、その時だった。
ザザッ、と近くの茂みが大きく揺れた。
「……おや? こんなところで、えらい珍しい『獲物』が捕まってるじゃん」
聞き慣れた、少し掠れた低い声。
ゆきがパッと顔を上げると、そこには青いパーカーを着たスケルトン――サンズが立っていた。ウォーターフェルの詰め所に向かう途中だったのだろう、いつも通り両手をポケットに突っ込んだまま、眠たげな目でゆきを見下ろしている。
「サ、サンズ……! サンズ、たすけて、あしが……!」
ゆきは必死に手を伸ばした。サンズの姿を見た安心感で、止まりかけていた涙がまた溢れ出してくる。
「おいおい、泣くなって。泣くと涙が凍って、目元が『氷(こり)』ごりになっちまうぜ」
サンズはいつもの永久不変の笑顔を浮かべながら、ゆきの前にゆっくりと腰を下ろした。その鋭い目(まなこ)が、ゆきの足を挟んでいる金属の罠へと向けられる。
「なるほどねぇ。野うさぎ用の罠か。お前さん、うさぎのモンスターとしては一級品だけど、こういう罠を見分ける『センス(サンズ)』はなかったみたいだな」
「もう……! こんな時にまでダジャレ言わないでよぅ……!」
ゆきが涙目で膨れると、サンズは「ハハ、悪かったって」と声を緩めた。
サンズはポケットから骨の手を取り出すと、罠の金属部分にそっと触れた。
「ちょっと痛むかもしれないけど、じっとしてなよ」
サンズが罠のレバーに力を込める。
細い骨の手のどこにそんな力があるのか、頑丈な金属の牙が、ギチギチと音を立ててゆっくりと開いていった。
「――よし、今だ。足を抜きな」
サンズの合図に合わせて、ゆきは慌てて右足を引っ込めた。
完全に罠から解放された瞬間、張り詰めていた緊張が解け、ゆきはその場にへなへなと座り込んでしまった。
サンズは罠をパチンと閉じ、邪魔にならない場所へと放り投げると、再び両手をポケットに突っ込んだ。
「足、見せてみな」
ゆきが恐る恐る差し出した右足には、赤く痛々しい跡がついていた。幸い、骨が折れているような不自然な曲がり方はしていない。
「うーん、少し腫れてるな。歩くのは『骨(ほね)』が折れそうだ」
サンズはそう言うと、ゆきの前に背中を向けた。
「ほら、おんぶしてやるよ。オイラの詰め所まで行けば、冷やす氷くらいはあるからな」
「えっ、いいの……? サンズ、いつも歩くのめんどくさがるのに……」
「お前さんをここに放置する方が、後でパピルスに怒鳴られて耳に『タコ』ができるからな。オイラの耳(骨)を守るためさ」
ゆきは小さく吹き出しながら、サンズの広い背中にそっと捕まった。衣服の下にある骨の感触はゴツゴツとして冷たかったけれど、ゆきにとってはこれ以上ないほど温かく、安心できる場所だった。
サンズはゆきを背負うと、よっこらしょ、と軽い足取りで立ち上がった。
「サンズ、ありがとう……。私、サンズが来てくれなかったらどうしようかって、本当に怖かったの」
ゆきが背中に顔を埋めながら呟くと、サンズは歩きながら、ふっと笑い声を漏らした。
「心配すんなって。お前さんの泣き声、スノーフルまで聞こえそうな勢いだったぜ? オイラはただ、その大きな耳に負けないくらい『耳(みみ)』寄りな情報を聞きつけて、ちょっと様子を見に来ただけさ」
「ふふ、またダジャレ……。でも、サンズのダジャレを聞いたら、足の痛いのがちょっと飛んでっちゃったかも」
「そいつはよかった。オイラのジョークは、痛み止めにも『骨(コツ)』があるってわけだ」
青い光が揺らめくウォーターフェルの通路を、サンズはゆきを背負ってゆっくりと進んでいく。
冷たい水の音に混ざって、ゆきの小さな笑い声と、サンズの気の抜けたセリフが、静かに洞窟の奥へと響いていった。
