うさぎのモンスターと骨兄弟
ウォーターフェルの境界近く、切り立った崖の淵。
ゆきは、きらきらと光る天井の結晶に目を奪われながら、いつもの調子でピョンピョンと跳ね回っていた。
「わあ、今日の結晶は一段ときれ――」
その時、足元の脆い岩肌が、自重に耐えかねてガラガラと崩れ落ちた。
小さな足が虚空を捉え、ゆきの身体は一瞬にしてバランスを崩す。
「あ――」
悲鳴を上げる間もなく、ゆきの身体は真っ逆さまに崖の底へと落ちていった。遮るもののない空中、冷たい風が長い耳を激しく叩く。痛みに鈍感なゆきでも、これが地面に激突すればただ事では済まないことくらいは分かった。恐怖でぎゅっと目を閉じる。
だが。
フッ、と身体を叩いていた風の感触が消えた。
(え……?)
恐る恐る目を開けると、ゆきは地面に激突する寸前、地上数十センチのところで完全に「静止」していた。それだけではない。ゆきの小さな身体の周りには、禍々しくもどこか神秘的な、淡い青いオーラがまとわりついている。
「おいおい。お前さん、とうとう空を飛ぶマジックでも習得したのか?」
崖の上から、少し掠れた、聞き馴染みのある声が降ってきた。
ゆきが上を見上げると、崖の淵に青いパーカーのフードを被ったサンズが立っていた。
いつものように片手はポケットに入ったままだが、もう片方の骨の手は、崖の下のゆきに向けて真っ直ぐにかざされている。彼の左目には、静かに燃える青い炎のような光が灯っていた。
サンズがかざした手をゆっくりと上へ持ち上げると、ゆきの身体はまるで目に見えないエレベーターに乗せられたかのように、ふわりと崖の上へと引き上げられていった。
ストン、と安全な地面に足がついた瞬間、青いオーラが消える。同時に、サンズの左目の光もいつもの白い点へと戻った。
「サンズ……! 今の、なに!? 私、浮いてた!?」
ゆきは怪我ひとつない身体を確かめながら、興奮で長い耳をピコピコと激しく揺らした。
「何って……ただの重力操作だよ。お前さんが重力に逆らってかっこよくダイブしようとするからさ、オイラがちょっとばかし、世界のルールを捻じ曲げてやったんだわ」
サンズはかざしていた手をポケットに戻すと、ふぅ、と小さくため息を吐いた。いつもの永久不変の笑みを浮かべてはいるが、その目元には「冷や汗モノだったぜ」と言いたげな、少し呆れたような色が混ざっている。
「すごい! サンズって本当に魔法使いなんだね!」
「魔法使いねぇ。そんな大層なもんじゃねえよ。ただのぐうたらなスケルトンさ。……全く、気をつけろよ、お前さんはもう。人一倍いい耳を持ってるんだから、地面が崩れる音くらいちゃんと聞き分けなよ」
口調はいつも通り少し冷めているようにも聞こえるが、サンズはさりげなくゆきの前に屈み込み、その小さな手足に傷がないかをじっと確認していた。痛みに鈍感なこの子が、もしオイラの目の届かないところで本当に落ちていたら――そう考えると、流石のサンズも内心ゾッとしていた。
「えへへ、ごめんなさい。結晶が綺麗だったから、ついつい」
「謝るならオイラじゃなくて、お前さんのその不注意な足に言いなよ。……ほら、もう危ないから崖の近くで遊ぶのはおしまい。グリルビーズに帰るぞ」
サンズはよっこらしょと立ち上がり、ゆきに背中を向けた。
「今日の分の『命の恩人への感謝の言葉』として、オイラの新作ダジャレを倍の長さで聞いてもらうからな。……なんたって、今の件でお前さんのハートを『ガケ(崖)』に突き落としちまったみたいだからな。へへ」
「あはは! 崖から落ちそうだったのに、ダジャレにするなんてやっぱりサンズは最高!」
ゆきは小さな手足をピョンピョンと弾ませて、サンズの後ろを楽しそうについていく。
サンズはポケットの中で骨の手を握り直し、自分の後ろを歩く小さな足音にじっと耳を澄ませながら、いつもの気怠げなペースで歩き出すのだった。
ゆきは、きらきらと光る天井の結晶に目を奪われながら、いつもの調子でピョンピョンと跳ね回っていた。
「わあ、今日の結晶は一段ときれ――」
その時、足元の脆い岩肌が、自重に耐えかねてガラガラと崩れ落ちた。
小さな足が虚空を捉え、ゆきの身体は一瞬にしてバランスを崩す。
「あ――」
悲鳴を上げる間もなく、ゆきの身体は真っ逆さまに崖の底へと落ちていった。遮るもののない空中、冷たい風が長い耳を激しく叩く。痛みに鈍感なゆきでも、これが地面に激突すればただ事では済まないことくらいは分かった。恐怖でぎゅっと目を閉じる。
だが。
フッ、と身体を叩いていた風の感触が消えた。
(え……?)
恐る恐る目を開けると、ゆきは地面に激突する寸前、地上数十センチのところで完全に「静止」していた。それだけではない。ゆきの小さな身体の周りには、禍々しくもどこか神秘的な、淡い青いオーラがまとわりついている。
「おいおい。お前さん、とうとう空を飛ぶマジックでも習得したのか?」
崖の上から、少し掠れた、聞き馴染みのある声が降ってきた。
ゆきが上を見上げると、崖の淵に青いパーカーのフードを被ったサンズが立っていた。
いつものように片手はポケットに入ったままだが、もう片方の骨の手は、崖の下のゆきに向けて真っ直ぐにかざされている。彼の左目には、静かに燃える青い炎のような光が灯っていた。
サンズがかざした手をゆっくりと上へ持ち上げると、ゆきの身体はまるで目に見えないエレベーターに乗せられたかのように、ふわりと崖の上へと引き上げられていった。
ストン、と安全な地面に足がついた瞬間、青いオーラが消える。同時に、サンズの左目の光もいつもの白い点へと戻った。
「サンズ……! 今の、なに!? 私、浮いてた!?」
ゆきは怪我ひとつない身体を確かめながら、興奮で長い耳をピコピコと激しく揺らした。
「何って……ただの重力操作だよ。お前さんが重力に逆らってかっこよくダイブしようとするからさ、オイラがちょっとばかし、世界のルールを捻じ曲げてやったんだわ」
サンズはかざしていた手をポケットに戻すと、ふぅ、と小さくため息を吐いた。いつもの永久不変の笑みを浮かべてはいるが、その目元には「冷や汗モノだったぜ」と言いたげな、少し呆れたような色が混ざっている。
「すごい! サンズって本当に魔法使いなんだね!」
「魔法使いねぇ。そんな大層なもんじゃねえよ。ただのぐうたらなスケルトンさ。……全く、気をつけろよ、お前さんはもう。人一倍いい耳を持ってるんだから、地面が崩れる音くらいちゃんと聞き分けなよ」
口調はいつも通り少し冷めているようにも聞こえるが、サンズはさりげなくゆきの前に屈み込み、その小さな手足に傷がないかをじっと確認していた。痛みに鈍感なこの子が、もしオイラの目の届かないところで本当に落ちていたら――そう考えると、流石のサンズも内心ゾッとしていた。
「えへへ、ごめんなさい。結晶が綺麗だったから、ついつい」
「謝るならオイラじゃなくて、お前さんのその不注意な足に言いなよ。……ほら、もう危ないから崖の近くで遊ぶのはおしまい。グリルビーズに帰るぞ」
サンズはよっこらしょと立ち上がり、ゆきに背中を向けた。
「今日の分の『命の恩人への感謝の言葉』として、オイラの新作ダジャレを倍の長さで聞いてもらうからな。……なんたって、今の件でお前さんのハートを『ガケ(崖)』に突き落としちまったみたいだからな。へへ」
「あはは! 崖から落ちそうだったのに、ダジャレにするなんてやっぱりサンズは最高!」
ゆきは小さな手足をピョンピョンと弾ませて、サンズの後ろを楽しそうについていく。
サンズはポケットの中で骨の手を握り直し、自分の後ろを歩く小さな足音にじっと耳を澄ませながら、いつもの気怠げなペースで歩き出すのだった。
