うさぎのモンスターと骨兄弟

スノーフルの広場の真ん中で、それは異様なオーラを放っていた。

ゆきが、直立不動の姿勢のまま微動だにせず立ち尽くしている。
その大きな瞳は、いつもと違って血のように禍々しく真っ赤に染まり、そこから大粒の涙が文字通りボロボロと、滝のように溢れ落ちていた。
表情は完全に消え失せ、焦点の合わない目で、ただじっと虚空の、どこか遠くの一点を見つめている。

「ひ、ひえっ……! なんだあのうさぎ、何かに取り憑かれてるんじゃ……」
「近寄るな! 目が合ったら呪われそうだぞ!」

ただならぬ雰囲気を察知した周りのモンスターたちは、怯えた声を上げながらクモの子を散らすように逃げていく。誰もがその不気味な姿に恐れおののき、広場はあっという間に静まり返った。

そんな緊迫した空気の中、ザッ、ザッ、と雪を踏みしめて、一人の男が「勇敢に」歩みを進めていた。
青いパーカーのフードを被り、ポケットに両手を突っ込んだスケルトン――サンズだ。

サンズは逃げていくモンスターたちを横目に、永久不変の笑みを浮かべたまま、直立不動のゆきの目の前まで平然と近づいていった。

「よお、ゆき。周りの連中がえらい騒ぎで逃げ出してたから、てっきりお前さんが新しいボスモンスターにでも覚醒したのかと思ったぜ」

いつもと変わらない、少し掠れた低い声。
しかし、ゆきはピクリとも動かない。相変わらず真っ赤な目から涙を流し、虚空を見つめたままだ。

サンズは少しだけ首を傾げ、ゆきの顔を覗き込んだ。

「おいおい、冗談じゃねえぞ。その赤い目といい、直立不動っぷりといい、流石のオイラもちょっと引くレベルだわ。……一体何があったんだよ?」

サンズが呆れたように、でも少しだけ心配そうに声をかけると、ゆきは口元だけを僅かに動かし、消え入りそうな声で呟いた。

「……う、うごいたら……ちぬ……」

「は? 死ぬって、お前さんがか?」

「ちがう……めが、めが、もえてるの……。ちょっとでもまばたきしたり、うごいたりしたら……めがばくはつして、ちん(塵)になっちゃう……」

ゆきは極限の恐怖と戦っているかのように、声を震わせながら涙を流し続けている。

「……あー、なるほどね」

サンズはそこで、ゆきの小さな手にべっとりと付着している「赤い液体」に気がついた。それは血ではない。独特の、ツンとする酸味とスパイスの匂い――。

「お前さん、さっきグリルビーズでポテト食ってたろ。……さては、あの激辛チリソースがついた手のまま、勢いよく目を擦ったな?」

図星を指されたゆきの手足が、一瞬だけビクッと跳ねた。

「……だって、おめめが、かゆかったんだもん……。そしたら、おめめの中にマグマがわいてきて……」

「ハハ、マグマじゃなくて唐辛子だろ。全く、お前さんはもう……。痛みに鈍感なはずのお前さんがここまでフリーズするなんて、よっぽど大量に塗りたくったんだな」

サンズは「やれやれ」と肩をすくめると、ポケットから手を出して、ゆきの頭をぽんぽんと軽く叩いた。周りのモンスターたちが「呪いの化身」と恐れた直立不動の怪物の正体は、ただの『自爆したうさぎ』だったわけだ。

「ほら、そのまま固まってても、そのマグマは消えねえよ。グリルビーズに戻って、マスターに綺麗な水でも分けてもらって洗い流しな」

「うごけないよぉ……。うごいたら、おめめが……」

恐怖のあまり一歩も動けないゆきを見て、サンズはため息をひとつ吐いた。

「ったく、手のかかる大ファンだ。……ほらよ、捕まってな」

サンズはゆきの小さな身体をひょいと抱き上げると、そのまま背中におんぶした。ゆきはサンズの背中で、まだ目を真っ赤にしながら、じっと前を向いたまま固まっている。

「サンズ……前が見えないよぉ……」

「見なくていいから目を閉じてな。お前さんの代わりに、オイラがちゃんと前を見て歩いてやるからさ。……その代わり、今日の分のポテトはオイラが半分もらうからな」

「うん……、ポテトあげるから、早くお水ちょうだい……」

サンズはゆきを背負い直すと、再び両手をポケットに突き込み、いつもの気怠げなペースで、涙の止まらない小さなうさぎと共にグリルビーズへと引き返していくのだった。
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