うさぎのモンスターと骨兄弟
「いいか、サンズ! そしてゆき!」
スノーフルのサンズとパピルスの家。リビングにパピルスの怒鳴り声が響き渡った。
彼は赤い手袋をはめた手を腰に当て、天井の隅をキッと睨みつけている。その視線の先には、一匹の小さな黒い影――羽音を立てて飛び回るハエがいた。
「この偉大なるパピルス様の神聖なる我が家に、不法侵入者がいるぞ! ボクは今すぐ、あの不躾な羽音を鳴らす『ムシ』を外へたたき出さねばならん!」
パピルスは「虫は友達じゃない派」だった。特に、家の中で我が物顔で飛び回るハエなんて、彼の完璧なハウスキーピング精神が許さないのだ。
だが、そのパピルスの足元で、ゆきが長い耳をへにゃりと寝かせて抗議の声を上げた。ゆきは完全なる「虫は友達派」だった。
「ええっ、ダメだよパピルス! ハエさんだって、寒くてお家の中に入りたかっただけかもしれないよ? お友達なのに、たたき出すなんてかわいそう!」
「ウ、ウグッ……! しかしだな、ゆき! あやつらはあちこちに止まって、ボクの特製スパゲッティの衛生面に『バッドタイム』を巻き起こす可能性があるのだぞ!?」
「パピルス、そんなに怒るなって。あいつだって必死に生きてんだよ」
ソファでぐうたらと寝そべっていたサンズが、片目を開けて会話に加わった。サンズは「どっちでもいい派」に見えて、ゆきがハエを庇おうとしているのを見た瞬間、あの強烈な庇護欲が作動した。ゆきが悲しむ顔は見たくない。だから全力でゆきの味方(ハエ擁護派)に回ることにしたのだ。
「サンズ! キミまであのムシの味方をするのか!?」
「味方っていうかさ……。ほら、パピルス。よく見てみなよ。あいつ、手足をすりすりして、お前さんに必死に謝ってるぜ?」
サンズが天井のハエを指差す。ハエはちょうど壁に止まり、前足を忙しなくすり合わせていた。
「あ! 本当だ! 『お部屋に入れてくれてありがとう』って、お辞儀をしてるんだよパピルス!」
ゆきが小さな手足をピョンピョンと跳ねさせながら、サンズの苦しいフォローに乗っかった。
「な、何っ!? ボクにお辞儀を……!? いや、しかし! 騙されんぞ! あやつらはただ、手足についたゴミを落としているだけだと本で読んだことがある!」
パピルスがぐぬぬと踏みとどまる。さすがのパピルスも、ゆきに純粋な目で見つめられると心が揺らぐようだが、衛生面の手強さは崩さない。
ここでサンズが、ニヤリと永久不変の笑みを深めた。パピルスを説得するなら、これしかない。
「まあそう言うなよ。あいつがここにいるのは、お前さんのスパゲッティの匂いに引き寄せられたからさ。つまり、あいつはお前さんの料理の『大ファン』ってわけ。ファンを無下に追い出すなんて、偉大なるパピルス様のすることじゃねえだろ?」
「ボ、ボクの料理のファンだと……!?」
パピルスの骨の眼窩がガタッと大きく開いた。完全に効いている。
「そうだよパピルス! ハエさん、パピルスのスパゲッティが世界で一番おいしいって言ってるよ! だって、私のいいお耳には、ハエさんの羽の音がそう聞こえるもん! 『ブーーーン(ボーーーノ)』って!」
「ブ、ブーーーンが、ボーーーノ……!?」
ゆきの天才的な(デタラメな)通訳に、サンズはソファの影でお腹を抱えて震え出した。ハエの羽音を「ボーノ(美味しい)」に繋げるなんて、オイラのファンはダジャレのセンスまで最高に育っちまってる。
「ハハ、そうだぜパピルス。あいつはお前さんの料理を『ハエ(映え)』させるためにやってきたんだ。そんな熱心なファンを追い出したら、お前さんの名声に『骨(ほね)』が折れるぜ?」
「サンズ! またくだらないダジャレをーーーッ!」
パピルスは頭を抱えて叫んだが、もうハエを攻撃する気力は完全に削がれていた。天井のハエを見上げ、赤い手袋を頬に当てて、少し照れたように身をよじる。
「フ、フハハハ! ボクの料理の才能が、ついに種族の垣根を越えて虫の世界にまで轟いてしまったか! 仕方のないやつだな! そこまでボクのスパゲッティを称賛するなら、特別に我が家への滞在を許可してやろう!」
「わあーい! やったね、サンズ! パピルス、大好き!」
ゆきは長い耳をピンと立てて大喜びし、パピルスの足元でピョンピョンと跳ね回った。パピルスも「フハハハ! もっと褒めるがいい!」と胸を張っている。
サンズはソファから起き上がると、ゆきの小さな頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「よくやったな、ゆき。お前さんの名通訳のおかげで、一匹の命が救われたぜ。……じゃあ、お祝いにグリルビーズでホットミルクでも奢ってやるから、あいつのファンミーティングが始まる前に出かけようか」
「うん! サンズ、いってきます!」
小さな手でサンズの骨の手をぎゅっと握り、嬉しそうについてくるゆき。
パピルスが後ろで「コラ! ハエくん! ボクの料理を買い食いするなと言っているだろう!」とさっそくハエに話しかけている声を背中で聞きながら、サンズはゆきの歩幅に合わせて、ゆっくりとスノーフルの町へ歩き出すのだった。
スノーフルのサンズとパピルスの家。リビングにパピルスの怒鳴り声が響き渡った。
彼は赤い手袋をはめた手を腰に当て、天井の隅をキッと睨みつけている。その視線の先には、一匹の小さな黒い影――羽音を立てて飛び回るハエがいた。
「この偉大なるパピルス様の神聖なる我が家に、不法侵入者がいるぞ! ボクは今すぐ、あの不躾な羽音を鳴らす『ムシ』を外へたたき出さねばならん!」
パピルスは「虫は友達じゃない派」だった。特に、家の中で我が物顔で飛び回るハエなんて、彼の完璧なハウスキーピング精神が許さないのだ。
だが、そのパピルスの足元で、ゆきが長い耳をへにゃりと寝かせて抗議の声を上げた。ゆきは完全なる「虫は友達派」だった。
「ええっ、ダメだよパピルス! ハエさんだって、寒くてお家の中に入りたかっただけかもしれないよ? お友達なのに、たたき出すなんてかわいそう!」
「ウ、ウグッ……! しかしだな、ゆき! あやつらはあちこちに止まって、ボクの特製スパゲッティの衛生面に『バッドタイム』を巻き起こす可能性があるのだぞ!?」
「パピルス、そんなに怒るなって。あいつだって必死に生きてんだよ」
ソファでぐうたらと寝そべっていたサンズが、片目を開けて会話に加わった。サンズは「どっちでもいい派」に見えて、ゆきがハエを庇おうとしているのを見た瞬間、あの強烈な庇護欲が作動した。ゆきが悲しむ顔は見たくない。だから全力でゆきの味方(ハエ擁護派)に回ることにしたのだ。
「サンズ! キミまであのムシの味方をするのか!?」
「味方っていうかさ……。ほら、パピルス。よく見てみなよ。あいつ、手足をすりすりして、お前さんに必死に謝ってるぜ?」
サンズが天井のハエを指差す。ハエはちょうど壁に止まり、前足を忙しなくすり合わせていた。
「あ! 本当だ! 『お部屋に入れてくれてありがとう』って、お辞儀をしてるんだよパピルス!」
ゆきが小さな手足をピョンピョンと跳ねさせながら、サンズの苦しいフォローに乗っかった。
「な、何っ!? ボクにお辞儀を……!? いや、しかし! 騙されんぞ! あやつらはただ、手足についたゴミを落としているだけだと本で読んだことがある!」
パピルスがぐぬぬと踏みとどまる。さすがのパピルスも、ゆきに純粋な目で見つめられると心が揺らぐようだが、衛生面の手強さは崩さない。
ここでサンズが、ニヤリと永久不変の笑みを深めた。パピルスを説得するなら、これしかない。
「まあそう言うなよ。あいつがここにいるのは、お前さんのスパゲッティの匂いに引き寄せられたからさ。つまり、あいつはお前さんの料理の『大ファン』ってわけ。ファンを無下に追い出すなんて、偉大なるパピルス様のすることじゃねえだろ?」
「ボ、ボクの料理のファンだと……!?」
パピルスの骨の眼窩がガタッと大きく開いた。完全に効いている。
「そうだよパピルス! ハエさん、パピルスのスパゲッティが世界で一番おいしいって言ってるよ! だって、私のいいお耳には、ハエさんの羽の音がそう聞こえるもん! 『ブーーーン(ボーーーノ)』って!」
「ブ、ブーーーンが、ボーーーノ……!?」
ゆきの天才的な(デタラメな)通訳に、サンズはソファの影でお腹を抱えて震え出した。ハエの羽音を「ボーノ(美味しい)」に繋げるなんて、オイラのファンはダジャレのセンスまで最高に育っちまってる。
「ハハ、そうだぜパピルス。あいつはお前さんの料理を『ハエ(映え)』させるためにやってきたんだ。そんな熱心なファンを追い出したら、お前さんの名声に『骨(ほね)』が折れるぜ?」
「サンズ! またくだらないダジャレをーーーッ!」
パピルスは頭を抱えて叫んだが、もうハエを攻撃する気力は完全に削がれていた。天井のハエを見上げ、赤い手袋を頬に当てて、少し照れたように身をよじる。
「フ、フハハハ! ボクの料理の才能が、ついに種族の垣根を越えて虫の世界にまで轟いてしまったか! 仕方のないやつだな! そこまでボクのスパゲッティを称賛するなら、特別に我が家への滞在を許可してやろう!」
「わあーい! やったね、サンズ! パピルス、大好き!」
ゆきは長い耳をピンと立てて大喜びし、パピルスの足元でピョンピョンと跳ね回った。パピルスも「フハハハ! もっと褒めるがいい!」と胸を張っている。
サンズはソファから起き上がると、ゆきの小さな頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「よくやったな、ゆき。お前さんの名通訳のおかげで、一匹の命が救われたぜ。……じゃあ、お祝いにグリルビーズでホットミルクでも奢ってやるから、あいつのファンミーティングが始まる前に出かけようか」
「うん! サンズ、いってきます!」
小さな手でサンズの骨の手をぎゅっと握り、嬉しそうについてくるゆき。
パピルスが後ろで「コラ! ハエくん! ボクの料理を買い食いするなと言っているだろう!」とさっそくハエに話しかけている声を背中で聞きながら、サンズはゆきの歩幅に合わせて、ゆっくりとスノーフルの町へ歩き出すのだった。
