うさぎのモンスターと骨兄弟

あの人間がスノーフルを地獄に変える、ほんの少し前のこと。

人間は、物陰に隠れていたゆきに、にっこりと微笑みながら「これ、あげる」と、見たこともない綺麗な包み紙のお菓子を手渡した。純粋なゆきは、それがウォーターフェルでサンズがくれた「星」のような、素敵なプレゼントだと信じて疑わなかった。

けれど、それを口にした数分後。
ゆきの小さな世界は、一瞬にして凄惨な激痛に塗りつぶされた。

「あ、が……ッ!? う、あ、あああぁぁ!!」

内臓を火あぶりにされているような、猛烈な灼熱感。
ゆきはスノーフルの冷たい雪の上に転がり、小さな手足をもがき、かきむしった。どうして? なんで? あんなに優しそうな顔をして、お菓子をくれたのに。

(わたしが……お部屋で毛をたくさん、抜いちゃったから……?)
(サンズのダジャレのジャマを、しちゃったから……?)
(わたしが、悪い子だったから、神様がおこってるの……!?)

激痛のなかで、ゆきの小さな脳裏を巡ったのは、あのおぞましい人間への疑念ではなく、自分自身の「落ち度」だった。自分が何か悪いことをしてしまったから、こんな目にあっているのだと、それしか考えられなかった。

カハッ、と小さな口から、真っ赤な鮮血が雪の上に吐き散らされる。うさぎの白い毛が、自分の血でドス黒く染まっていく。

「ゆき……!? おい、しっかりしろ!!」

狂ったような足音と共に、青いパーカーの影が滑り込んできた。
サンズの顔から、あの永久不変の笑みが完全に消え失せていた。左目に禍々しい青い炎を爆発させ、血を吐いて痙攣するゆきを抱き上げる。

「チッ、毒か……! 待ってろ、今すぐ……!」

サンズの判断は一瞬だった。自分の限界を超えるような速度で『ショートカット』を連発し、ゆきを抱えたまま、ありとあらゆる回復アイテムと魔法の知識を持つ者のもとへ転移した。パピルスの叫び声が遠くで聞こえた気がしたが、サンズはそれすら無視して、ゆきの胃の中のものを強制的に吐き出させ、魔力を直接流し込んで毒素を中和し続けた。

文字通り、骨の髄まで削るような素早い対処。
サンズの執念が、辛うじてゆきの小さな命を、あの世のフチから引きずり戻した。

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数日後。
ゆきはサンズの家のベッドの上で、目を覚ました。
身体の激痛は消え、血に染まった毛もパピルスが綺麗に洗ってくれたのか、いつも通りの白いふわふわに戻っていた。

「……お、気がついたか」

ベッドの脇の椅子に座っていたサンズが、いつものパーカー姿で声をかけてきた。その目元には、普段のぐうたらな彼からは想像もつかないほどの色濃い疲労が刻まれていた。

「よかったぜ。お前さん、三日も眠りこけてたんだからな。……まったく、オイラのライフだけじゃなくて、寿命まで縮める気かよ」

サンズはいつものように、少しおどけた調子でウインクしてみせた。
大好きなサンズのダジャレ。大好きなサンズの声。

普段のゆきなら、すぐに長い耳をピコピコと揺らして「サンズ、心配してくれてありがとう!」と跳ね回るはずだった。

けれど、ゆきは、何も言わなかった。

「……ゆき?」

サンズが眉の骨をひそめる。
ゆきの自慢の大きな耳は、頭の後ろに力なくへにゃりと伏せられたまま、ピクリとも動かない。その大きな瞳は、確かに開いてサンズの方向を向いているのに、焦点がどこにも合っていなかった。

まるですべての感情を、あの激痛と恐怖のなかに置いてきてしまったかのように、ゆきの意識はどこか遠い、遠い暗闇の底を彷徨っているようだった。

「わたしが……わるい子だから……」

カサカサに乾いた小さな唇から、ぽつり、と掠れた声が漏れる。

「わたしが……なにか、しちゃったから……だから、お腹が痛いの……?」

それは、かつて「お腹の中に赤ちゃんがいるのかな」と無邪気に笑っていた頃の面影など微塵もない、完全に壊れてしまった子供の呟きだった。自分が毒を盛られた理由を、今も自分の罪の中に探し続けているのだ。

サンズの胸の奥が、今までにないほど冷酷に、そして激しくひび割れる音がした。

あのがらんとした望遠鏡の奥を覗かせた時のように、金平糖を星だと言って笑わせた時のように、優しく頭を撫でてやっても、今のゆきには何も届かない。耳が良いはずのゆきが、サンズの声を、音を、完全に拒絶して閉じこもってしまっている。

「……違うよ、ゆき」

サンズはポケットからゆっくりと骨の手を出し、微かに震えるゆきの小さな手を、壊れ物を触るようにそっと包み込んだ。

「お前さんは何も悪くない。悪いのは……あの、最悪なガキだ」

サンズの声から、完全に温度が消えていた。
その低い声の奥で、ドス黒い殺意と、ゆきを救いきれなかった激しい後悔が、静かに、だが狂おしいほどに燃え上がっていく。

「あいつには、きっちり『ツケ』を払わせてやる。……だから、お前さんは何も考えなくていい。今はただ、ゆっくり眠りなよ」

サンズはゆきの虚ろな瞳を優しく手で覆い、静かに目を閉じさせた。
いつかこの小さな大ファンが、また自分のくだらないダジャレを聴いて笑ってくれる日が来るまで。あの人間を骨の髄までバラバラに引き裂いてでも、この小さな命の光を、絶対に自分の後ろで守り抜くと、サンズは暗闇の中で冷たく誓うのだった。
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