うさぎのモンスターと骨兄弟

ウォーターフェルの薄暗いエコーフラワーの小道を、いつもとは明らかに違う、不自然な「音」が通り過ぎていこうとしていた。

ズ、ト、ズ、ト……。

いつもならピョンピョンと軽快に跳ね回っているはずの足音が、重く引きずるような音に変わっている。うさぎのモンスター、ゆきが、明らかに左足を庇ってびっこを引きながら歩いていた。

ちょうどウォーターフェルの出口付近にある木製の詰所に腰掛けていたサンズは、その違和感だらけの足音にすぐさま気づき、フードの奥の目を細めた。

「よお、ゆきじゃん。なんだその歩き方。ついにうさぎをやめて、新種のゾンビにでも転職する決意を固めたか?」

いつもの気怠げなトーンで声をかけたサンズだったが、近づいてくるゆきの姿を見て、その永久不変の笑顔の奥が一気にこわばった。

ゆきの左足の足首は、いつもの倍近く、見た目にもハッキリわかるほど不自然に腫れ上がっていた。それだけじゃない。白い毛並みには、泥と薄く血の混じったような汚れがこびりついている。誰がどう見ても大怪我だった。

しかし、声をかけられたゆきは、大好きなサンズの姿を見るなり、いつも通り満面の笑みを浮かべて、小さな手をブンブンと振ったのだ。

「あ! サンズ! ちょうどいいところにいた! 聞いて聞いて、さっきね、あそこの坂道で派手にゴロゴロ〜ってこけちゃったの! そしたらね、足が変な向きになっちゃって、なんか動かなくなっちゃったんだよね! えへへ、おもしろいでしょ!」

真っ赤な顔をして、まるで今日学校で見つけた面白い虫のことでも報告するかのように、元気に、無邪気に言い放つゆき。

「……は?」

サンズの思考が、本日何度目かも分からない完全停止を起こした。

(おもしろい……? 足が変な向きに曲がって動かないのが、おもしろいだと……?)

あまりの危機感のなさに、サンズはめまいを覚え、思わず額の骨を手で押さえて深く頭を抱え込んだ。

「……おいおいおい、勘弁してくれよ、ゆき……」

サンズの声は、完全に引きつっていた。
人一倍耳が良いはずのお前さんが、自分の足の骨が悲鳴を上げている「音」にはどうしてそんなに鈍感なんだ。骨折か、あるいは酷い脱臼だ。モンスターの体は魔法でできているとはいえ、こんな小さな子供がこれほどの痛みに耐えられるはずがない。いや、こいつは痛みを痛みとして、ことの重大さを全く理解していないのだ。

「サンズ? どうしたの? 頭痛いの?」

不思議そうに首を傾げ、腫れ上がった左足を引きずってさらに近づこうとするゆき。その無防備で壊れそうな小さな身体を見つめていると、サンズの胸の奥で、心臓もないのにバクバクと焦燥感が暴れ出す。放っておいたら、このバカは足を引きちぎってでもピョンピョン遊びに行きかねない。

「動くな!……頼むから、そこから一歩も動くんじゃねえ」

サンズは詰所のカウンターを飛び越えるようにして、ゆきの前に一瞬で移動した。いつになく素早い動きでその小さな身体の前に膝をつくと、腫れた足に触れないよう、細心の注意を払いながらゆきをひょいと抱き上げ、詰所の椅子に座らせた。

「あのさぁ、ゆき。よく聞きな」

サンズはポケットから両手を取り出し、ゆきの小さな両肩をがっしりと掴んだ。いつものおふざけの光は一切なく、フードの奥の黒い眼窩が、真剣そのものの圧を放っている。

「これは『おもしろい』ことじゃねえ。大怪我だ。普通のモンスターなら、痛くて泣き叫んでその場から動けなくなるレベルのやつだ。お前さん、もしオイラがここにいなかったら、そのままスノーフルまで歩いて帰るつもりだったのか?」

「う、うん……。お家に帰れば治るかなって……」

サンズの本気の迫力に気圧され、ゆきは大きな耳をへにゃりと寝かせ、大きな瞳をうるうると潤ませ始めた。

その怯えたような、でも自分を全面的に頼り切っている姿を見て、サンズはこれ以上強く叱ることもできず、ただただ深い、深いため息を吐き出した。この小さな大ファンは、本当に目を離すと一瞬で塵になって消えてしまいそうな危うさがある。だからこそ、自分の後ろで、全力で守ってやらなきゃいけないんだと、嫌というほど思い知らされる。

「……はぁ。まったく、お前さんのその世間知らずなところには、オイラも『骨(ほね)』が折れるどころか、全身の骨が粉々になりそうだわ」

サンズはゆきの頭を、普段の彼からは想像もつかないほど優しく、包み込むようにぽんぽんと叩いた。

「……うん。サンズ、ごめんなさい……」

小さな手でサンズの青いパーカーをぎゅっと握りしめるゆき。その小さくて温かい手の感触を確かめるように、サンズはゆきを優しく、しっかりと腕の中に抱き上げた。

「謝るな。……ただ、次からは何かが『動かなくなった』ら、それがオイラのサボり癖以外だったら、すぐにオイラを呼びなよ」

いつもの永久不変の笑みを少しだけ寂しげに、でも確かな温かさを込めて浮かべながら、サンズは一瞬でスノーフルの我が家へと視界を切り替えるのだった。
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