うさぎのモンスターと骨兄弟

いつもなら、スノーフルの朝はパピルスの元気な叫び声で始まる。けれど、その日のパピルスの家は、しんと静まり返っていた。

偉大なるパピルス様は、なんと風邪を引いて寝込んでしまっていたのだ。骨だけの身体とはいえ、こじらせるとそれなりに辛いらしい。

「うう……ゆき……。ボクとしたことが、不覚にもロイヤル・ガード(見習い)の訓練を休まねばならん……。アンダインに……伝言をお願いしてもいいか……?」

ベッドの中で真っ赤なマフラーにくるまり、ヘロヘロになりながら頼んでくるパピルスを見て、ゆきは小さな胸をドンと叩いた。自慢の長い耳が、使命感でピンと跳立っている。

「任せて、パピルス! 私、耳が良いからアンダインの声がする方にまっすぐ走っていけるもん! ちゃんと伝えてくるね!」

ゆきは小さな手足をパタパタと動かし、勢いよく家を飛び出していった。

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その様子を、リビングの影からじっと見送っていた男がひとり。

「……ったく。あいつ、やる気満々なのはいいけどさ」

サンズはポケットに両手を突っ込んだまま、やれやれと頭を振った。スノーフルからウォーターフェルへの道は、小さなうさぎのモンスターが一人で歩くには少し距離があるし、何よりウォーターフェルには足場の悪い場所も多い。何より、あの熱血すぎるロイヤル・ガードの隊長、アンダインが相手だ。

心配じゃないと言えば、大嘘になる。あの小さな大ファンに何かあったら、それこそオイラのライフがいくつあっても足りない。

「ちょっと、先回りしておくか」

サンズは誰もいない部屋の真ん中で、ふっと気配を消した。

次の瞬間、サンズが立っていたのは、ウォーターフェルの滝の近く。いつもアンダインが激しい訓練を行っている場所だ。

「おい、サンズ! こんな時間に珍しいじゃないか! パピルスはどうした!?」

青い鎧をカチャカチャと鳴らしながら、アンダインが豪快に近づいてくる。サンズはいつもの永久不変の笑みを浮かべ、気怠げに手を挙げた。

「よお、アンダイン。いやさ、うちのバカ弟がちょっと風邪を引いちまってね。今日の訓練は休みだってことを、オイラが直々に伝えにきたわけ」

「なんだって!? パピルスが風邪だと!? ったく、あの熱血漢が珍しいこともあるもんだな! よし、わかった、今日はゆっくり休めと伝えてくれ!」

「ああ、ありがとよ。……あ、それとさ」

サンズは踵を返し、ショートカットで戻ろうとしたところで、ふと立ち止まってアンダインを振り返った。その黒い眼窩の奥の白い光が、少しだけ真剣な色を帯びる。

「これからさ、スノーフルから小さなうさぎの女の子――『ゆき』ってガキが、パピルスの伝言を伝えにここに向かってくるはずなんだ。一生懸命、小さな足で走ってさ」

「ん? パピルスの代わりに伝言を? なら、お前がもう伝えたんだから来る必要はないんじゃないか?」

「まあ、そうなんだけどよ」

サンズは苦笑混じりに、顎の骨をトントンと叩いた。

「あいつ、パピルスのために役に立ちたくて、大冒険のつもりで走ってきてるんだわ。だからさ、もしゆきがここにたどり着いたら……オイラが先に来たことは内緒にして、パピルスの代わりに『よく頑張ったな』って、思いっきり褒めてやってくれないか?」

アンダインは一瞬きょとんとしたが、すぐにサンズの意図を察し、ニカッと牙を剥き出して笑った。

「ハハハ! なるほどな! お前、相変わらず過保護な兄貴だな! よし任せろ、ロイヤル・ガードの隊長として、その勇敢なチビ助を最高の言葉で迎えてやるよ!」

「へへ、助かる。じゃ、オイラは一足お先にドロンするわ」

サンズはそう言い残し、再びショートカットでその場から姿を消した。

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それからしばらくして。
ウォーターフェルの湿地帯を、ゼーゼーと息を切らしながらも、ぴょんぴょんと懸命に跳ねて進む小さな影があった。

「アンダイン……! アンダイン、どこーーー!?」

ゆきが大きな声を張り上げると、岩陰から「待っていたぞ、勇敢な戦士よ!」と、地響きのような大声と共にアンダインが飛び出してきた。

「お前がゆきだな! パピルスからの伝言を、わざわざスノーフルから一人で届けにきたんだろ!? その強い意志、しかと受け取ったぞ!」

「えっ……! わかるの!?」

ゆきが驚いて大きな耳をパタパタさせると、アンダインはゆきの小さな肩をガシガシと叩いた。

「ああ! パピルスの風邪のことは今、お前からしっかり聞いた! 誰もいない暗い道を、仲間のために一人で走りきったその勇気……まさにロイヤル・ガードの素質ありだ! よく頑張ったな、ゆき!」

「……! うん! 私、パピルスのために頑張ったよ!」

アンダインに全力で褒めちぎられ、ゆきは疲れも吹き飛んだように、真っ赤な顔をして満面の笑みを浮かべた。

遠くの物陰から、その様子をじっと見つめていた青いパーカーの男。サンズは、ゆきが本当に嬉しそうに胸を張る姿を確認すると、ようやく肩の骨の荷が降りたように、いつもの笑みを深くした。

(へへ……。名探偵、大成功じゃん。あいつがあんなに嬉しそうな顔をするなら、オイラのショートカットの使い道としては、これ以上ないくらい満点だな)

自分の後ろをぴょんぴょんと跳ね回る小さな大ファンが、またひとつ強くなったのを見届けて、サンズはゆきに見つからないよう、静かにその場を去るのだった。
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