うさぎのモンスターと骨兄弟
その日のゆきは、自分でも驚くほどのエネルギーに満ちあふれていた。
ウォーターフェルでサンズから「星の味」の金平糖をもらい、すっかりご機嫌になったゆきは、小さな手足をフル回転させてぴょんぴょんと突き進んだ。いつもなら引き返す薄暗い洞窟の奥を抜け、見たことのない景色をどんどん進んでいく。
そして、とうとうウォーターフェルを完全に抜け――目の前に現れた、真っ赤に燃え盛る未知の世界「ホットランド」の入り口にたどり着いたのだ。
「わあ……! すごい、あったかい……っていうか、すっごく暑い!」
目の前に広がるマグマの海と、近代的なテクノロジーの建物。スノーフル育ちのゆきにとって、それはあまりにも刺激的な大冒険のゴールだった。ゆきは自慢の大きな耳をピンと立てて、大達成感に胸を張った。
しかし、たどり着いたまではよかった。本当によかったのだが……。
「……ふぅ。……はぁ」
ゆきはその場に、へにゃりとへたり込んでしまった。
小さな身体の全体力を、ホットランドに来るまでの「片道切符」として使い果たしてしまったのだ。うさぎ族のスタミナは、お世辞にも長続きする方ではない。おまけに、ホットランドの容赦ない熱気が、ただでさえ底を突いたゆきの体力をガリガリと削っていく。
「あ、足が動かないよぅ……。お耳も暑くて、でろーんってなっちゃう……」
いつもはピコピコと元気に動く長い耳が、完全に脱力して地面に垂れ下がっている。スノーフルに戻るための体力のことは、1ミリも考慮していなかった。ここからあの長い道のりを歩いて帰るなんて、今のゆきには絶対に不可能だった。
じわじわと押し寄せる暑さと疲労に、ゆきが「どうしよう……」と泣きそうになった、その時。
「おいおい……。やっぱり、とんでもないところまで大ジャンプしてたか」
聞き馴染みのある、低くて気怠げな声。
ゆきが重い頭を上げると、そこには、この猛暑の世界だというのにいつもと変わらず青いパーカーを着込んだスケルトン――サンズが立っていた。さすがにこの暑さは堪えるのか、いつもの笑顔のまま、少しだけ気怠げに首の骨を傾げている。
「サ、サンズぅ……」
「よお、大冒険家さん。ウォーターフェルから急に足音が聞こえなくなったから、どこかの川にでも流されたかと思って探してやれば……まさかこんな『ホット(HOT)』な場所にいるとはねぇ」
サンズはポケットに両手を突っ込んだまま、へたり込んでいるゆきの前に屈み込んだ。でろーんと垂れ下がったゆきの耳を、骨の指先でちょんちょんとつつく。
「サンズ……。私、がんばってここまで来たんだけど……もう一歩も歩けないの……。お家に帰れないよぅ……」
ゆきが情けない声を出すと、サンズは「やれやれ」と、誇張するように大きなため息をついてみせた。
「だから言っただろ、お前さんは計画性がなさすぎるって。行きは良い良い、帰りは『骨(ほね)』が折れる、ってな。……でも、まぁ」
サンズはポケットから両手を取り出すと、ぐったりとしたゆきの小さな身体を、壊れ物を扱うようにそっと両腕で抱き上げた。
サンズの骨の身体はひんやりとしていて、ホットランドの熱気にやられていたゆきにとって、最高に気持ちのいい「ひんやりベッド」だった。ゆきは安心感から、サンズのパーカーにすり寄る。
「……お前さんがこれ以上干からびて『干し肉』になっちまったら、パピルスにオイラが怒られるからな。今日だけは特別に、オイラの特等席に乗せてってやるよ」
「特等席……?」
「ああ。とびきり早くて、歩かなくていい、オイラの『ショートカット』さ」
サンズはゆきを片腕でしっかりと抱き抱えると、空いた方の手でゆきの目を優しく覆った。
「ちょっとだけ、目を閉じてな」
次の瞬間、ホットランドのモワッとした熱気と機械の駆動音が、一瞬で消え去った。
代わりに肌を刺したのは、ツンと冷たい、でもどこか懐かしくて安心するスノーフルの空気。
ゆきがパチリと目を開けると、そこはもう、見慣れたサンズとパピルスの家の前だった。
「わあ……! すごい! 一瞬でお家についちゃった!」
「へへ、だろ? オイラのサボり技術は世界一だからな。……ほら、もう動けるか?」
サンズが地面に降ろそうとすると、ゆきはまだ体力が回復していないのをいいことに、サンズのパーカーの首元を小さな手でぎゅっと掴んで離さなかった。
「ううん、まだ足がピコピコ動かないの。サンズ、お部屋の中まで運んで?」
甘えるように大きな瞳で見つめてくる小さな大ファンに、サンズは一瞬だけ呆れたように目を丸くしたが、すぐにいつもの永久不変の笑みを浮かべ、ゆきの頭をぽんぽんと叩いた。
「調子のいい奴め。……まぁ、これだけ歩き回ったんだ、今日くらいは甘やかしてやるよ。」
「うん! サンズ、大好き!」
小さな手足をぴったりとサンズに預け、嬉しそうに耳を震わせるゆき。サンズはそんなゆきを愛おしそうに抱き直すと、不器用な優しさをその足音に滲ませながら、暖かい家の中へと歩みを進めるのだった。
ウォーターフェルでサンズから「星の味」の金平糖をもらい、すっかりご機嫌になったゆきは、小さな手足をフル回転させてぴょんぴょんと突き進んだ。いつもなら引き返す薄暗い洞窟の奥を抜け、見たことのない景色をどんどん進んでいく。
そして、とうとうウォーターフェルを完全に抜け――目の前に現れた、真っ赤に燃え盛る未知の世界「ホットランド」の入り口にたどり着いたのだ。
「わあ……! すごい、あったかい……っていうか、すっごく暑い!」
目の前に広がるマグマの海と、近代的なテクノロジーの建物。スノーフル育ちのゆきにとって、それはあまりにも刺激的な大冒険のゴールだった。ゆきは自慢の大きな耳をピンと立てて、大達成感に胸を張った。
しかし、たどり着いたまではよかった。本当によかったのだが……。
「……ふぅ。……はぁ」
ゆきはその場に、へにゃりとへたり込んでしまった。
小さな身体の全体力を、ホットランドに来るまでの「片道切符」として使い果たしてしまったのだ。うさぎ族のスタミナは、お世辞にも長続きする方ではない。おまけに、ホットランドの容赦ない熱気が、ただでさえ底を突いたゆきの体力をガリガリと削っていく。
「あ、足が動かないよぅ……。お耳も暑くて、でろーんってなっちゃう……」
いつもはピコピコと元気に動く長い耳が、完全に脱力して地面に垂れ下がっている。スノーフルに戻るための体力のことは、1ミリも考慮していなかった。ここからあの長い道のりを歩いて帰るなんて、今のゆきには絶対に不可能だった。
じわじわと押し寄せる暑さと疲労に、ゆきが「どうしよう……」と泣きそうになった、その時。
「おいおい……。やっぱり、とんでもないところまで大ジャンプしてたか」
聞き馴染みのある、低くて気怠げな声。
ゆきが重い頭を上げると、そこには、この猛暑の世界だというのにいつもと変わらず青いパーカーを着込んだスケルトン――サンズが立っていた。さすがにこの暑さは堪えるのか、いつもの笑顔のまま、少しだけ気怠げに首の骨を傾げている。
「サ、サンズぅ……」
「よお、大冒険家さん。ウォーターフェルから急に足音が聞こえなくなったから、どこかの川にでも流されたかと思って探してやれば……まさかこんな『ホット(HOT)』な場所にいるとはねぇ」
サンズはポケットに両手を突っ込んだまま、へたり込んでいるゆきの前に屈み込んだ。でろーんと垂れ下がったゆきの耳を、骨の指先でちょんちょんとつつく。
「サンズ……。私、がんばってここまで来たんだけど……もう一歩も歩けないの……。お家に帰れないよぅ……」
ゆきが情けない声を出すと、サンズは「やれやれ」と、誇張するように大きなため息をついてみせた。
「だから言っただろ、お前さんは計画性がなさすぎるって。行きは良い良い、帰りは『骨(ほね)』が折れる、ってな。……でも、まぁ」
サンズはポケットから両手を取り出すと、ぐったりとしたゆきの小さな身体を、壊れ物を扱うようにそっと両腕で抱き上げた。
サンズの骨の身体はひんやりとしていて、ホットランドの熱気にやられていたゆきにとって、最高に気持ちのいい「ひんやりベッド」だった。ゆきは安心感から、サンズのパーカーにすり寄る。
「……お前さんがこれ以上干からびて『干し肉』になっちまったら、パピルスにオイラが怒られるからな。今日だけは特別に、オイラの特等席に乗せてってやるよ」
「特等席……?」
「ああ。とびきり早くて、歩かなくていい、オイラの『ショートカット』さ」
サンズはゆきを片腕でしっかりと抱き抱えると、空いた方の手でゆきの目を優しく覆った。
「ちょっとだけ、目を閉じてな」
次の瞬間、ホットランドのモワッとした熱気と機械の駆動音が、一瞬で消え去った。
代わりに肌を刺したのは、ツンと冷たい、でもどこか懐かしくて安心するスノーフルの空気。
ゆきがパチリと目を開けると、そこはもう、見慣れたサンズとパピルスの家の前だった。
「わあ……! すごい! 一瞬でお家についちゃった!」
「へへ、だろ? オイラのサボり技術は世界一だからな。……ほら、もう動けるか?」
サンズが地面に降ろそうとすると、ゆきはまだ体力が回復していないのをいいことに、サンズのパーカーの首元を小さな手でぎゅっと掴んで離さなかった。
「ううん、まだ足がピコピコ動かないの。サンズ、お部屋の中まで運んで?」
甘えるように大きな瞳で見つめてくる小さな大ファンに、サンズは一瞬だけ呆れたように目を丸くしたが、すぐにいつもの永久不変の笑みを浮かべ、ゆきの頭をぽんぽんと叩いた。
「調子のいい奴め。……まぁ、これだけ歩き回ったんだ、今日くらいは甘やかしてやるよ。」
「うん! サンズ、大好き!」
小さな手足をぴったりとサンズに預け、嬉しそうに耳を震わせるゆき。サンズはそんなゆきを愛おしそうに抱き直すと、不器用な優しさをその足音に滲ませながら、暖かい家の中へと歩みを進めるのだった。
