うさぎのモンスターと骨兄弟

ウォーターフェルの薄暗い洞窟の奥、きらきらと光る天井の結晶が、まるで本物の星空のように広がっている場所。

そこに設置された1台の大きな望遠鏡の前に、ゆきはいた。

「う〜〜ん……? まっくら。なんにも見えないよ?」

ゆきは一生懸命に小さな身体を伸ばし、望遠鏡にしがみついている。だが、その姿はあまりにも奇妙だった。ゆきが大きな目を押し当てて必死に覗き込んでいるのは、星に向けるべき大きな「対物レンズ」の側。本来覗くべき小さな「接眼レンズ」は、虚しく夜空(天井)の方向を向いていた。

つまり、完全に前後を逆に、しかも太い方を顔面に押し当てて覗き込んでいたのだ。

たまたま通りかかったサンズは、その光景が目に入った瞬間、持っていたケチャップのボトルを落としそうになった。

「ぶっ……! くははははは! おいおい、ゆき、お前さんマジかよ!」

サンズはポケットに両手を突っ込んだまま、腹の骨がよじれんばかりに大爆笑し始めた。いつもは気怠げな彼が、涙を流さんばかりに声を上げて笑っている。

「サンズ!? なんで笑うの!? これ、全然おもしろくないよ! まっくろだもん!」

ゆきは望遠鏡に抱きついたまま、真っ赤な顔をして、へにゃりと長い耳を寝かせた。

「ハハハ! いや、ごめん、ごめん。だけどさ、お前さん……いくらなんでも世間知らずが過ぎるぜ。それ、覗く方向が180度違ってやがる」

「え? むきが違うの?」

「そうだよ。そんな太い方を顔にくっつけたら、お前さんの綺麗な目が『星(ほし)』がっちゃうだろ。……ほら、こっちのちっさい穴から覗くんだ」

サンズは笑い交じりに近づくと、ゆきの小さな身体をひょいと抱き上げ、正しい位置へと誘導した。

「これって何するのー? なんでこんなのがあるの? つまんなーい」

宙に浮いたまま手足をバタバタさせ、不満げに口を尖らせるゆき。望遠鏡の目的も、天井の結晶が「星」に見立てられていることも、この小さなうさぎにはまだ何も理解できていないようだった。

「つまんねえことあるかって。このウォーターフェルじゃ、これが最高のお楽しみなんだぜ? ほら、この穴に目を近づけてみな。……じっと、奥を見るんだ」

サンズに支えられながら、ゆきは恐る恐る小さな接眼レンズを覗き込んだ。

すると、そこにはただの真っ暗闇ではなく、レンズのガラスに細工された「おふざけ」のピンク色の模様が、天井の光に照らされてドアップで映し出された。

「……あ! なんか変なのが見える!」

「だろ? それ、オイラがちょっと前に仕込んどいた特製の『星(ホシ)』さ。……お前さんのその良い耳で、この望遠鏡の『おもしろさ』を聴き取ってほしかったんだけどな。まあ、目は騙せても、耳は騙せねえか」

「なにそれ! サンズのいたずらだったの!? もう、やっぱりサンズは意地悪だぁ!」

ゆきはケラケラと笑いながら、サンズの骨の手をポカポカと叩いた。

あまりの無知さに呆れつつも、サンズの胸の奥には、やっぱりこの世間知らずで小さな大ファンを、ずっと自分の後ろで守ってやりたいという心地いい温かさが広がっていくのだった。
14/35ページ
スキ