銀の狼と青薔薇の姫
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ヒーロー界のアイドルスター『ブルーローズ』は隣に立つパートナーをちらりと見て、無言のまま口元に指先を当てた。
HERO.TVから召集がかかって約15分。
何でも有名貴金属店に連続強盗班が店員や客を人質を取って立てこもり中らしい。
ローズ&ウルフのデビュー戦だから、今日はここぞというタイミングで登場させてあげる、というプロデューサーの意向に従って専用車で貴金属店のそばに待機中だ。
シルバーウルフはデビューを目前に、先ほどからそわそわと落ち着かない髪が獣の尾のように襟首からふさふさと揺れている。
ヒーローとしてクールなお姉さんを演じなければならないそうで、ご愁傷さまと思わずにはいられない。
“そういう”辛さはブルーローズにも痛いほどよくわかる。
車内のモニター画面には既に店の周囲にスタンバッているほかのヒーローたちが映しだされているが、人質をとられていてはさしもの彼らも動き辛い。
百倍パワーコンビあたりなら強行突破できそうだが、短期決戦で終わらせるにはどうしたって何かしらのアクションが必要になるうえ、人質の数が多すぎる。リスクの大きい作戦はアニエスも頷かない。
『閏の好きなヒーローって誰だったかしら。』
食い入るように画面を見つめる相棒の横顔を眺めて、ブルーローズはそんな会話を思い出した。
二度目に聞いた時は『ロックバイソンが好き。』って言うし、三度目は『ファイヤーエンブレムかなあ。』だった。
はっきりしないのねえ、と呆れながら、話を続けるうちにどうやら閏が好きなヒーローは彼女が故郷にいた頃から活躍してテレビに出ていたベテランってことらしいと気づいた。
伝説のヒーロー『レジェンド』とか、正直ローズには分からない話だった。
ジェネレーションギャップね。
あ―とか、う―んとか、いまいちはっきりしないのは日系人特有なのかしら。
彼女は既に大人だけど、まだ若くて、黒髪黒瞳に少しぽやっとしたような表情を浮かべる顔立ちは、どうやら日本人特有のものらしく、幼いとは言わないけど、何ていうか年齢不詳。
男性もそういうところあるけど、女性はなおさらそうなのかしら。
四度目に会って一緒にダンスレッスンした時には『でもいま一番のお気に入りはブルー・ローズよ。』って満面の笑みで言うようになったから、思わず赤面してしまった。
ああ、誰かに似てるなあと思った。
普段はお世辞とか全然言えないくせに、ふとした時に自然体でどーでもいいようなこと言って、それが無性にツボを突いてくる。
それはまるでどこぞのベテランヒーロー……ち、違うわよあのおじさんじゃないわよ!日系人の話よ、そう。
日本贔屓の折紙サイクロンの話によると、本来日系人って、お世辞とか誰かを褒めたりとかは不思議と苦手らしい。
基本的に感情表現が控え目で、女性はお淑やかで『大和撫子』って呼ばれるし、男性は寡黙で豪胆をよしとする……――待って、あの二人とは似ても似つかないじゃないの。日本詐欺だわ。
でも『その性根は優しくて、思い遣りの精神を大事にする素朴な国だそうです。』って付け足したのを聞いて、少しだけ納得した。
二人ともパフォーマンス的な善意は苦手だし、細やかな気配りってタイプでもないけど、他人が気づかないようなところになぜか気づいてたり、優しいのに優しくないふりをしたり。
『相棒』なんてのは仕事上の付き合いだと思ってた。
じっさいまだまだコンビとしてそこまで親しいわけじゃないけど、仕事だと割り切って仲のいいふりをするより、相棒としてほんとうに仲がよくていいんじゃないかって、そう思えるくらいには相性がいいと感じた。
その相棒が、デビューの緊張とはべつの苛立ちで画面を睨みつけている。
『この状況ではさしものヒーローたちもお手上げか――?!』
番組を盛り上げようとする実況者の語り口がブルーローズの神経も逆なでするようだった。
「あのね、ローズ。生意気だと思うかもしれないんだけど。」
「思わないから、言って。」
「この状況に彼らじゃ相性が悪いと思うんだ。人質がいるし、しかも貴金属店でしょう。風や火や雷じゃ被害が大きくなる危険性がある。それで、考えがあるんだけど、ポイントになるかは微妙で……。」
「………OK。マネージャー!プロデューサー!わたしたちも出るからカメラ頂戴!」
「………!!いいの?もしかしたら、活躍っていうほど目立てないかもしれない。」
「あなたのデビュー戦だもの。あなたのしたいようにさせてあげるわ。」
「ありがとう、ローズ。」
小さく頭を下げて立ち上がった閏のきりりとした表情に、新人ながらもヒーローのそれを見てローズは頷き返して微笑んだ。
シュテルンビルド中心街でも大型に入る高級貴金属店は防弾の強化ガラス張りで、店の表を警察車両がぐるりと囲んでいる。
サイレン、テレビ局のヘリのプロペラ音、ライトが交差する中でヒーローたちは市民を守るため前線に立ちながら膠着状態が続いている。
防弾ガラスだからといって彼らの能力をもってすれば打破できないわけではない。
だが、犯人たちは人質の半数を盾のように手前に並べ、奥では女子供に銃を突きつけあからさまに示せば、例えばファイヤーエンブレムの炎では攻撃が広範囲過ぎて人質に被害が及ぶだろうし、スカイハイの風でガラスを割ってしまってはこれも同じ。人質たちが割れた破片を浴びることになる。
では雷はというと、ドラゴンキッドの電撃は比較的直線的で、店の外からは攻撃に不向き。
外から内、ではだめなのだ。
車両の影から店を睨みつけ、『どうにもなんね―のか』『とりあえず突入してみたら』『裏口に回ってだな』とベテランヒーローもやきもきしはじめたその時、青白い光が一台の大型車両をぱっとライトアップし、あたりいっぱいに明るい調子の歌が鳴り響いた。
『お――っとこれは――!』
ぐぐぐ、と車両は小さなステージのように開いてゆく。その中から現れたのは、お決まりの美少女ヒーローの姿。
「わたしの氷はちょっぴりコールド。あなたの悪事を完全ホールド!」
『決まったぁあ――!今回は遅いお出ましだ!待望の氷の女王ブルーローズの登場にファンは歓喜――!』
増えたところで、どうなるってんだ。
べつに彼女を嫌っているわけではないが、この状況に嫌気のさしていたワイルドタイガーはちぇっと舌を打った。
アイドルは冷たい霧煙を纏って車を飛び降りる。
そのままどうするのかと思いきや、ヒールの高い靴を鳴らして真っ先に向かったのはこちらの、つまりタイガー&バーナビーのコンビが身を隠している車両の裏側だった。
「ちょっと、あんたたち!話があるの、伝言!」
「はあ?伝言?つ―か、くんのが遅せ―ぞお姫様よ―。」
「うるさいわね分かってるわよ。今日はそういう日なの!」
「たしか、今日はあなたのパートナーデビューじゃありませんでしたか。」
「パートナー?何だそれ。」
「聞いてなかったんですか。通達があったでしょう。」
相変わらずそういう事務連絡にちゃんと耳を傾けていないらしい。
悪びれのないタイガーに、わたしの相棒がこのおじさんじゃなくてよかったわ、とブルーローズは軽くため息を吐く。
「そのパートナーの子がね、作戦を立ててくれたの。あんたたちも協力して頂戴。」
「僕たちが?どうしてよそのチームの応援なんて……と、言いたいところですが、さすがにこの状況では仕方ないですね。」
「正直、むしろあんたたちにとって得な話よ。彼女いま、着替えてるところなの、女性警察官の制服にね。ついさっき犯人たちから食糧を運ぶように要求があったの、聞いた?」
「おいまさか……。」
は、とようやく二人の表情も緊迫する。
「いくらNEXTとはいっても、素人同然の新人が装備もつけずに店内に入るつもりですか?店に入って一人で太刀打ちできるようなら僕たちがとっくにやっています。危険すぎます、無謀ですよ。」
「それだけで何とかできるとは思ってないわ。ほかの奴らにも作戦を伝えて頂戴。わたしたちだけじゃ絶対に無理な作戦。華をもたせてやるから、失敗なんかしないでよ。わたしは準備をしないといけないから。」
普段はどちらかというとアイドル然として作戦だの戦闘だのには関わろうとしないブルーローズが、
いつになく真剣なのを見てタイガーは彼女の肩を叩く。
ローズは自身でもしらぬうち緊張で力が入りきっていたことに気づいた。
ワイルドタイガーの頼もしくもほどよく気の抜けた笑みが彼女の緊張を解く。
「………ったく、生意気に無茶しやがって。前線は俺に譲れよ。お前らの顔に傷なんかつけたら、ファンに殺されるからな。」
「作戦も聞かないうちから返事をするなんて……まあ、しょうがないですね。」
バーナビーは腰に手を当てて頷く。
『仕方がない』という言葉とは裏腹に、その顔は真剣でやる気に満ちていた。
正直怖かった。何でこんな作戦申し出たんだろうって思った。
ほんの二か月前まではただの一般人で、テレビの前で見守る側だったのに。
大量の食糧を両手の紙袋いっぱいにもって、閏は大きく息を吸う。
ブルーローズはちゃんと作戦を伝えてくれただろうか。間に合っただろうか。
「は、犯行グループのみなさん、お食事を……――。」
ばきゅ――ん
「ひい!」
こちらを狙ったわけではないけれど、店の真ん前に立ったわたしの声を遮って銃声が鳴った。
どっかの開いた窓かららしい。
威嚇なのか何なのか、ガラス越しにげらげら笑う姿が見えた。
『ただいま婦警が要求された食糧を――――。』
「こんな時のためのNEXTじゃねえのかよ?ヒーローしっかりしろよ!あひゃひゃひゃ。」
どこからか野次が飛んだ。
犯行グループの一人らしい、とだけわかる。
ンだとごるぁ、と誰かが叫んだ。続けて誰かが窘めた。
いろんな音がして煩かった。
視線も、騒音も、何もかも怖かった。
テレビ中継されてるんだと思うと、震えた。
「よ―し、警官のおねいちゃん、そのままゆっくりこっちに来な!ほれあんよは上手!」
「まさかこのおね―さんがNEXTってこたあねえよな。ブルーローズの変装だったりしてよ。」
「ブルーローズならさっき現れたところだ、違うだろ。」
「だいたいNEXTやヒーローならこうガッチガチに震えね―だろ。怯えちゃってカワイソウニ。」
「笑いながら言うか――?」
「武器はもってね―だろな、ちゃんと確かめろよ。食糧は全部普通のもんか?」
とにかく入れ、と武器を構えたまま男たちが扉を開き、閏のこめかみに銃口を当てる。
いくらNEXTだとはいえ身体強化系の能力でもないかぎり、装備もなく能力も発動していない時は生身と言っていい。
しかもほかの能力者たちならともかく、閏の使う『水』はそれほど自身を守るのに向いていない。
ぎく、と足元から飛び跳ねそうになった。
「へ。びびっちゃってんの。ケ―サツカンが。」
「し、新人な、もので……。」
咄嗟に口から出た言葉は誤魔化しのつもりでも事実で、だらだらと冷や汗を流す真っ蒼白な顔いろに『こりゃほんとうに素人同然の新人娘が厄介ごとを押しつけられたらしいぞ』とでも思って同情したのか、閏の腕をぐいと強く掴もうとしていた目だし帽の男の態度は幾分か柔らかくなった。
閏から食糧の袋をとり上げ、人質の見張り数人以外の全員が武器を下ろす。
完全に警戒を解いたわけでもなく閏にはずっと銃口が突きつけられ続けていて、それでも閏は人質の方にじっと目を配った。
一瞬でいい。攻撃までに数秒かかる程度の隙があれば十分なのに。
人質たちもまた、食糧を運んできた警察官に救いを求めるような目をする。
その時、店の外でわっと歓声が上がった。
何ごとかと犯人たちも人質たちも思わず視線を外へと向ける。
警戒心があるゆえの反射行動は本能的と言っていいほど否応ないもので、彼らの集中は完全に人質、そして閏から外れた。
『この状況に何と、店の正面でブルーローズのライブがはじまったぁあぁ!』
『人質のみなさん!犯行グループのみなさん!わたしの歌を聞きなさい!』
「あの小娘、ふざけやがって――!!」
いまだ、いましかない!ブルーローズの声を合図に、閏はぱっと銃口から離れた。
さすがにすぐそばにいた何人かが反応してこちらに銃を向けるが遅い。
瞬時に能力を全開発動させると閏の足元から渦のように大量の水が湧き出てそれはあっという間に店内を埋め尽くした。
ショーウィンドウは水槽のように。溺れる魚のように。
そして一瞬にして内側から店の防弾ガラスを外に突き破る。
あまりに唐突な出来ごとに犯行グループは混乱し、人質たちは紐や縄で手足を縛られて泳ぐことができないが、荒波の中、渦が人質をぐるりと包み、溺れることなくぷかぷかとその場に留められていた。
『お――っとお!これはすごい!新展開!いったい何が起こったというのでしょうか?!』
店内は混乱を極めたが、それでも数人の犯人たちは柱や壁に泳ぎついて銃を人質に向けた。
人質たちが溺れないように制御することはできても、閏の能力では、水の外の、それもどこから撃たれるか分からない銃弾ばかりはどうにもならない。
「ブルーローズ!」
「任せて!」
大量の水は瞬時に真っ青な氷に姿を変えた。
何もないところから氷を出すよりも早く、そして格段に巨大な氷が発生する。
ブルーローズの放ったフリーズガンが人質の目の前の水から氷の壁を築き上げ、防ぐ。
そうこうしている間に、店内の水位は徐々に下がり、肩ほどに、腰へ、膝へ。
波に遮られていた店の様子が、外からも次第にはっきりと見えてくる。
『素晴らしいコンビネーション!あの婦警は一体何者なのか?!』
「くそお――!」
「きゃあ!」
「びしょびしょじゃないのよ、もう。」
「俺たちが盾になる!その間に頼むぞ!」
「人質救出は任せたまえ!人質のみなさん、もう大丈夫だ、そして大丈夫だ!!」
「行くでござるよ―!」
「こんなに水が撒かれたら、僕の雷すっごいことになっちゃうよ!」
勢いくるぶしほどの水をばしゃばしゃと蹴るようにしてヒーローたちが飛び込んでくる。
ロックバイソンは鋼の身体で壁となり、水は苦手よと言いながらもファイヤーエンブレムの炎が水と氷を濃霧に変え人質を隠す。
「くそっ、見えねえ!う、撃つな、やみくもに撃つな、味方を殺す気か!」
「ひいぃっ、そんなこと言ったって、あいつらがすぐそこに・・・うぎぇっ!」
その合間に折紙サイクロンとスカイハイが素早く人質を誘導し、ドラゴンキッドは電撃をぴりぴりと光らせ犯行グループが近寄れないよう警戒を発する。
つい数分前まで何も動かないように見えた状況が、瞬く間に盛り上がっていた。
水はもう殆ど引いていて、残るは水たまり程度。
はあ、はあと息を上げながら閏はぐったりと壁に肩をついた。
一気に能力を使うというのはこれほど疲れるものか。
全力疾走したような心地で、心臓が早鐘を打っている。しばらく動けそうにない。
だがもう安心だ。人質さえ何とかなれば、ヒーローたちの敵じゃない。
びしゃ、と背後に水の跳ねる足音が聞こえた。
「てめえ、化け物だったのか……!」
じゃこんと音を立てて何かを背中に突きつけられる。
それが銃でないなんて、思わないはずがない。
全身が一気に冷たくなった。
死ぬのを覚悟するというよりも、『死』という概念そのものが髄をめぐる。
「ッ……!」
「しね!」
がきん。がきん。がきん。
虚しく重たい金属の音に、ぎくりと喉が堅くなる。
がくがくと膝が震えて、生きた心地がしない。
ふらりと倒れる一瞬に背後でどさりと何かが落ちる音がして、
続けて誰かが閏の腕を肩ごと支えた。
「……っとぉ、びびったぜ―。何でさっさと助けに入らねえんだよ!」
「このタイプの銃は火力は相当なものですが、その分デリケートで水に濡れるとまったく役に立たなくなるんですよ。僕たちが現れれば、逆上して彼女を人質にとらないとも限らない。」
「だからってな、万が一・・・!」
「シルバーウルフ!大丈夫?!」
「……ブルーローズ!」
ぎゃんぎゃんと耳元で喚かれて何が何だか分からなかった。
ただ、とりあえず助けられたらしいと、息もできないままに振り返ると、赤い装備をつけた青年が気絶している中年男を片手で吊るしてやれやれと首を振った。
銃を抱えたままの姿勢で、だらりと身体が下がる。
「ちょっとおっさん!いつまでそうしてんのよ、いい加減離しなさい!閏、いまならこっちまでカメラ回ってないし、裏から出られる。車を回してあるわ。」
「あ、ありがとう……そうだね、わたしはもう引っ込ん……。」
「今回の主役なんだから、あいつらばっかり目立たせてたまるかっつ―の!さっさと着替えてきなさい!」
「え、えええ……?」
助けに現れた相棒はいやに興奮して、そして容赦がなかった。
ぐいぐいと背を押しながら『みんながね、主犯逮捕のポイントはわたしにくれるって!』と嬉しそうだ。
ブルーローズの言うとおり、店の裏手から見つからないように外に出ると既に専用車が待ち受けていて、タイタンインダストリーヒーロー事業部の人間が顔を綻ばせながら閏を招き入れあっという間に『シルバーウルフ』に仕立て上げた。
『ヒーローたちの活躍によって見事……――!おおっと、ここで情報が入りました!今回の事件解決には何と影の立役者がいたとの情報です!ブルーローズ!お話をお聞かせください!』
『ええいいわよ。実は、紹介すべきひとがいるの。』
一度装備を身につけてしまうと、通常の何倍もの動きを可能にしてくれる。
疲れなんて、見せずに済む。
人質が保護され、犯人たちが次々と逮捕され、人数もあって今回は全員がポイントを稼げたようでほくほく顔の現場に歓声が上がる。
ブルーローズがこちらを振り返り、いつになく綻んだ笑みを見せた。
「彼女よ。」
「先ほどはありがとう、ブルーローズ。お怪我はありませんか。」
「ないわ。貴女のお陰で。」
颯爽と現れた灰銀の装備で足元を鳴らし、ブルーローズのすぐそばに立つ。
またも歓声が聞こえた。いつの間にか周囲を囲んでいた報道陣が一斉にシャッターを切る。
「我がタイタンインダストリーからわたしのパートナーとしてデビューする、HERO.TV二部代表、『シルバーウルフ』よ!」
「未熟者ですが。」
前以て打ち合わせしていたように、名を挙げると同時にブルーローズが手元に氷を出し、
合わせて閏も水の珠をくるくると重ねる。それを見て誰もが先ほどの第一陣はこの銀の狼によるものだと理解する。
氷と水が重なり合い、美しい輝きを描いた瞬間を見計らって、ローズはいつものように不敵に笑う。
「わたしの氷はちょっぴりコールド……あなたの悪事を完全ホールド!」
「きみの心は、ホールドアップ!」
『決まったぁあ!みなさん、新ヒーロー『シルバーウルフ』誕生の瞬間です!』
数日後――――――
「衆目の前で決め台詞言っちゃうとか、は、恥ずかしい……!」
「あんたそれ、わたしに喧嘩売ってんの?」
タイタンインダストリーヒーロー事業部にて、デビュー映像を渡されて、頭を抱える新人ヒーローとその相棒の姿があったとさ。
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