ランスロット×ヴェイン
「ランちゃん、ランちゃん、これあげる!」
そう言ってヴェインが差し出してきたのは紙袋。
「あのね、バレンタインのチョコと、あともう一つあるんだけどね、それはランちゃんが騎士団の入団試験に受かったお祝いだよ!」
そう言うヴェインの笑顔が可愛くて、守りたいな。と思う。
「有難う、ヴェイン、チョコもお祝いもすっごく嬉しい!」
ぎゅう、と小さな身体を抱きしめれば、おずおずと背中に腕を回してくれる。
それから、今日は俺の部屋で、ヴェインに勉強を教えながら過ごした。
「じゃぁね、ランちゃん」
ヴェインと居るとあっという間に時間が過ぎて、ヴェインが家の中に入るのを見送ってから、
俺も自室に戻る。
そうして、ヴェインがくれた、もう一つのプレゼントを開ける。
「わぁー。すっごいなぁ。」
そこに入ってたのは所々、ほつれがある青色の手作りのマフラーだった。
普段は遊びに行くときに邪魔になるから、マフラーも手袋もしないけれど、
王都に行くことになるんだから、とそう思ってヴェインが編んでくれたのだと思うと、胸が一杯になる。
「有難う、ヴェイン。」
しゅんしゅんという、ケルトが発する音で意識が浮上する。
「ん」
「あ、ランちゃん起きた」
「ああ、俺寝てたのか」
隣に腰掛けるヴェインの手には、毛糸が収まっている。
「お疲れだもんなぁ。ランちゃん。
お湯沸いたけど、紅茶飲む?」
その問いにこくりと頷けば、ヴェインは毛糸を机の上に置いてから、静かに席を立つ。
「さっきさ、」
「んー?」
ヴェインが紅茶の準備をしているのを眺めながら、ゆっくりと口を開く。
「ヴェインが初めて、手作りマフラーくれた時の事夢見てた」
「…すっげぇ失敗ばっかして、所々ほつれてた青色のマフラーの事か」
「ああ。でも、俺にはそれがすっげぇ、嬉しかったんだよ」
世界で一番大切で大事な幼なじみが初めて編んだマフラーをくれた事が。
それを他の誰でもない、俺にくれた事が。
「その頃から、家事全般得意だとは思ってたけど、まさか編み物までするなんてな」
本当に、見た目と違ってギャップが沢山あって良い。
「ほい、ランちゃん。」
ことりと目の前に置かれた紅茶を一口飲む。
「俺が騎士団の入団試験に受かった時もランちゃんがあのマフラー使ってくれてるって知って嬉しかった」
二年くらい経ってたはずなのに、ボロボロになっても使い続けてくれてて嬉しかったんだ。とヴェインは零す。
「でもさ、流石にもう使えないだろ、だからさ」
ヴェインは、自分の荷物から包みを取り出す。
「ほい、コレ。昔とは違って、もう少しまともに編めてるとは思うけど…」
小さな箱の包みと大きな包みを俺の前に差し出す。
「開けてみて良いか?」
「おう」
小さな包みは机の上に置いて、大きな包みを開く。
「ランちゃん、オフの日に出かけるとき、マフラーしてなくて首元寒そうだからさ、また、使ってくれると嬉しい…」
顔を背けながら言葉を紡ぐヴェインの横顔は紅く色づいていて、美味そうだな。って思う。
「有難う、ヴェイン。お前からのプレゼント、すっげー嬉しいよ」
あの時と同じ、青色のマフラー。
それは、机の上に置かれている毛糸と同じ色で。
あの時と違うのは、編み目がしっかりしていて、ほつれてる部分が何処も無い所。
ああ、やっぱりあの時と同じで胸が一杯になる。
だけど、それだけじゃなくて。
「ヴェイン」
名前を呼んで、こっちを向いたヴェインの唇を奪う。
「らん、ちゃ…」
ぎゅう。と俺の肩に腕を回す、その仕草にさえ煽られる。
ちゅ、くちゅ。と甘い唇をしっかりと堪能してから離れれば、ヴェインは肩で息をしている。
鍛錬の最中でも、肩で息をする姿を無いのに。
「ほんとうに、マフラーもチョコも嬉しいよ。有難う。」
机の上に置いた、小さな包みに視線をやりながら言う。
「ランちゃんが、喜んでくれて、良かった」
受け取ってくれて、ありがとう。
なんて、言葉を拾って、
目の前の幼なじみが、恋人がより一層愛おしくて、いじらしくて仕方がない。
「来月は楽しみにしてろよ」
ヴェインの耳元でそう囁けば、逞しい体がふるり、と小さく震えたのが分かって、俺は笑みを深めた。
終。
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