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誘われて揺蕩う恋に惑う君

 古本の香りを纏う黒髪が風でゆらめく水面みたいに

 読みかけに挟む栞に目が惹かれあなたの好みを把握しました

 花壇に並ぶ彼の肩が揺れてる寝息は少し苦しそうです

 かさかさのページを捲る指先にささくれがあり少し嬉しい

「あなたについて知りたくて」まっすぐな下心など何年ぶりだ

 風が吹き文庫の頁がふわふわと揺れているのを抑える白い手

 レジ前の陽が射す窓辺にうずくまり眠るあなたは黒猫だった

 鮮烈な痛みを受けて文字の森を彷徨うぼくに手を伸ばすのは

 小説はぼくらの恥部だ ぬめりけを目でなぞっては吐息が漏れる

 見つめ合う暇があるなら本を読む背中の体温が愛しくて

「ぼくはあなたが」そこまでと指先がぼくのくちびるを硬直させる

「最低な大人だなんてわからない、おしえて」瞳に私がいる

 良くないと思っていても「他人には優しくしなさい」という呪いが

 街角の喫茶店でふと見かけたあなたの顔は知らない顔で

 鼻にかけた眼鏡がずるりと落ちて視界が歪む君だけになる

 結ばれることがないとわかっても、あなたの本の栞でいさせて

 感情を本のページにひとしずく落としたところで君はしらない

 憐憫はもらい飽きたと冷たい目こちらに向かなくとも刺さって

 触ってよ私の中に縋るなら空洞に何か見出せるなら

 いちょう散る並木の下で少しずつ腐る私と君の心は
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