未変換の場合、寿(ことぶき)命(みこと)になります。
1.「はじまったロク」
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「雄英高校へようこそ!壽命くん!今日からキミはここで己の"個性"を磨き正義の心を育てていくだろう!僕たちはそれを全力でサポートする!それでは、未来のヒーローに歓迎の拍手を!」
パラパラパラ……少ない拍手が広い体育館に粗末に響いた。当然だ。甚だ疑問ではあるけれど、この場にいるのは私と先生らしき人が2人と喋るネズミ一匹しかいないのだから。
「以上!入学式でした!」
えー!?今の入学式だったの?!私しか生徒いないけど!というか始まってから一分しか経ってないよ!?
「というのは冗談さ!」
「……………」
今後もこんなノリが続くのであれば転校したい。そんなことを言っても私は国の判断に従うしかないのでどうしようもないのだけれど。
舞台に設置された教卓に乗っているスーツを着たネズミは自己紹介を聞く限り、この学校の校長らしかった。おかしな話ではあるけれどネズミが服を着て喋っているだけでそれが彼の"個性"だということはわかるし、何より校長というトップに君臨しているあたり決してなめてかかってはいけないということだ。
続いて、根津校長先生は舞台下手側に並んで座っている二人の先生を振り返った。向かって右側に座っている小さな老婆はリカバリーガールといって養護教諭だという。私の月に一度の精神診断を担当してくれるらしい。そして、最後に全体的に黒く、首に何重にも白い布を巻き付けている男性の紹介があった。
「彼は相澤消太先生だよ。君のパートナーさ!」
「パートナー…?」
視線があった。無造作に伸びた黒髪の隙間からこちらを静かに見ている。私は、その瞳に違和感を覚えた。と言ってもそれは漠然としたもので、何がどうしておかしいのか分からなかった。ただ、私を見る彼はとても辛そうだ、とだけ思う。
「壽」
生徒が私ひとりだけという奇妙な入学式が終わり、体育館を出ると呼び止められた。振り返れば私のパートナーと紹介された相澤先生がこちらに向かってきているところだった。
いざ面と向かってみると彼は背が高かった。猫背なのが気になるけれど。
「相澤先生」
何でしょうか、と聞けば彼は眉間に皺をよせた。一瞬怒っているように見えて緊張したけれど、よく観察してみれば彼はどうやら悲しんでいるように見えた。最初に目が合った時にも思ったけれど、彼には哀愁が漂っている。
相澤先生は一度長く目を閉じたあと、白い布から口を半分覗かせながら言った。
「カリキュラムを渡すから職員室まで来てくれ」
そう言って歩き出した相澤先生の後ろをついて歩く。職員室の場所がわからなかったのはもちろん、この後どこへ行けばいいのかわからなかったので先生の一言にはかなり助かった。
無言で階段を上っていく相澤先生。少し話しかけ辛い雰囲気が彼にはあった。しかし、私は決めたのだ。自分から話しかけると。友達を作ると!まあ、相手は先生なので友達も何もないのだけれど。しかし、先生と絆を深めることも大切だ。
私はとりあえず気になっていることを質問しようと頭の中で質問を繰り返して緊張しながらも口を開いた。
「あの、どうして入学式なのに私しか生徒がいなかったんでそっ………しょうか?」
見事に噛んでフラグ回収は大成功だった。
踊り場で足を止め振り返った相澤先生は言わずもがな怪訝な顔をしている。私は恥ずかしさのあまり視線をそらした。
「……壽は"国家指定個性"だからクラスメイトはいない壽専用の特別クラスに割り当てられた。入学式はしてもしなくても良かったんだが校長の希望でする運びになったんだ」
相澤先生は私が噛んだことには触れず質問に答えてくれた。気を遣ってくれたのだろうけれど逆にそれが恥ずかしかった。というか入学式やらない方向もあったのか。驚きだ。
「ちなみに特別クラスと言っちゃいるが、ぶっちゃけ壽にクラスは関係ない。友達作りには困らないだろう。詳しく話すと長くなるからあとは職員室に着いてから話すな」
「……わかりました」
正直いまの説明ではほとんどわからなかったので再び階段を上りだした相澤先生に大人しくついていくことにした。それにしても、なぜ先生は私が友達作りを懸念していることがわかったのだろう。読心術でも心得ているのだろうか。
職員室に入った瞬間、圧倒された。プロヒーローが集っている。ヒーローにはそれほど詳しくない私だけれど、彼らのカリスマ性はビリビリと肌に電流が流れるように感じられた。
「こっちだ」
職員室の中へ一歩を踏み出せないでいる私をよそに相澤先生はプロの空気一色の部屋の中へ何食わぬ顔で入っていく。やる気のない風貌の相澤先生だけれど、この学校の教師をやっている限り彼もまたプロヒーローなのだろう。スタスタと歩いていく様は流石と言うべきだった。
私も行こう。ここで立ち止まっていても仕方がない。なんとなく相澤先生は時間を大切にする性格のように思える。早々にルーズな生徒だと決められるのは嫌だったので、高揚する心を落ち着かせて早足で相澤先生の後を追いかけた。
「うちの生徒である以上どうやっても注目の的になることは避けられない」
すでに自分の担当机についている相澤先生の横に立つと、先生は手元の資料を整えながら話し始めた。
「加えて壽は国の監視下にある個性を持っているからいつ何が起こるかわからない。だから壽には常に俺が付き添う形になる。と言っても、俺も他クラスの授業があるから壽が俺に付き添う形にはなるんだが……カリキュラムだ。目を通しとけよ」
「あ、はい」
手渡されたホチキスで止められている紙束の一枚目をめくってざっと目を通してみる。そうすれば開いた口が塞がらなかった。
「常に付き添うって……私生活も該当するんですか?!」
思わず出た大声にハッとなり周囲を見渡せば案の定プロヒーローの先生たちがこちらに注目していた。そして苦笑しながら「大変だよな」「頑張れよ」と声をかけてくれた。勝手にシビアな性格を想像していたけれど、存外接しやすそうだ。申し訳なさとありがたさで何度も頭をさげているとビッと親指をたてるパンクな見た目の先生が目に入った。
「それなんだが……壽の自宅に俺が厄介になるか、壽が寮に入るかのどっちかになる。どっちにしろ合理性に欠くが、どうする?」
「めっちゃ寮でお願いします」
「めっちゃ寮ね」
相澤先生は、まるで私がそう即答するとわかっていたかのようにすかさず一枚の書類を取り出し何やら書き込み始める。
渡されたのは寮へ入ることへの同意書だった。最後には相澤先生の承認サインが書かれている。
「本人と保護者のサインしてハンコ押したら俺か校長に提出してね」
「わかりました」
カリキュラムと同意書をクリアファイルに入れてスクールバッグに詰め込んでいる間も相澤先生は話し続けた。
「そのカリキュラムにも書いてるが、普通科の授業はその都度各教室に移動して受けてもらうことになる。そのほか実技や訓練の授業は俺とマンツーマンだ」
そして、休憩時間や終業後は相澤先生と共に過ごすと。想像すれば困難しかないように思える。しかし、仕方のないことではあるし、何よりありがたいことでもあった。
雄英高校にはかつてのオリンピックと同等のイベント、雄英体育祭なるものがある。それは多くのマスメディアが集まり全国放送される催し物だ。それに参加する以上、今まで国から守られそういうものに露出していなかった私の"個性"が体育祭を機に注目されることは間違いない。それは、敵への紹介にもなるということだ。
「最初は慣れずに気疲れすることが多いかもしれんが自分のペースで頑張れよ。……と言っても時間は有限だ」
どこか痛むのか顔をしかめる相澤先生。
「……3年間、しっかり将来を見極めろ」
ついさっきまでは普通だったのに、今この瞬間の先生はとても辛そうだった。ひどく痛むのを必死に我慢している、そんな雰囲気があった。
「……わかりました、先生」
そう応えれば、相澤先生は少しだけ微笑んでくれた。
パラパラパラ……少ない拍手が広い体育館に粗末に響いた。当然だ。甚だ疑問ではあるけれど、この場にいるのは私と先生らしき人が2人と喋るネズミ一匹しかいないのだから。
「以上!入学式でした!」
えー!?今の入学式だったの?!私しか生徒いないけど!というか始まってから一分しか経ってないよ!?
「というのは冗談さ!」
「……………」
今後もこんなノリが続くのであれば転校したい。そんなことを言っても私は国の判断に従うしかないのでどうしようもないのだけれど。
舞台に設置された教卓に乗っているスーツを着たネズミは自己紹介を聞く限り、この学校の校長らしかった。おかしな話ではあるけれどネズミが服を着て喋っているだけでそれが彼の"個性"だということはわかるし、何より校長というトップに君臨しているあたり決してなめてかかってはいけないということだ。
続いて、根津校長先生は舞台下手側に並んで座っている二人の先生を振り返った。向かって右側に座っている小さな老婆はリカバリーガールといって養護教諭だという。私の月に一度の精神診断を担当してくれるらしい。そして、最後に全体的に黒く、首に何重にも白い布を巻き付けている男性の紹介があった。
「彼は相澤消太先生だよ。君のパートナーさ!」
「パートナー…?」
視線があった。無造作に伸びた黒髪の隙間からこちらを静かに見ている。私は、その瞳に違和感を覚えた。と言ってもそれは漠然としたもので、何がどうしておかしいのか分からなかった。ただ、私を見る彼はとても辛そうだ、とだけ思う。
「壽」
生徒が私ひとりだけという奇妙な入学式が終わり、体育館を出ると呼び止められた。振り返れば私のパートナーと紹介された相澤先生がこちらに向かってきているところだった。
いざ面と向かってみると彼は背が高かった。猫背なのが気になるけれど。
「相澤先生」
何でしょうか、と聞けば彼は眉間に皺をよせた。一瞬怒っているように見えて緊張したけれど、よく観察してみれば彼はどうやら悲しんでいるように見えた。最初に目が合った時にも思ったけれど、彼には哀愁が漂っている。
相澤先生は一度長く目を閉じたあと、白い布から口を半分覗かせながら言った。
「カリキュラムを渡すから職員室まで来てくれ」
そう言って歩き出した相澤先生の後ろをついて歩く。職員室の場所がわからなかったのはもちろん、この後どこへ行けばいいのかわからなかったので先生の一言にはかなり助かった。
無言で階段を上っていく相澤先生。少し話しかけ辛い雰囲気が彼にはあった。しかし、私は決めたのだ。自分から話しかけると。友達を作ると!まあ、相手は先生なので友達も何もないのだけれど。しかし、先生と絆を深めることも大切だ。
私はとりあえず気になっていることを質問しようと頭の中で質問を繰り返して緊張しながらも口を開いた。
「あの、どうして入学式なのに私しか生徒がいなかったんでそっ………しょうか?」
見事に噛んでフラグ回収は大成功だった。
踊り場で足を止め振り返った相澤先生は言わずもがな怪訝な顔をしている。私は恥ずかしさのあまり視線をそらした。
「……壽は"国家指定個性"だからクラスメイトはいない壽専用の特別クラスに割り当てられた。入学式はしてもしなくても良かったんだが校長の希望でする運びになったんだ」
相澤先生は私が噛んだことには触れず質問に答えてくれた。気を遣ってくれたのだろうけれど逆にそれが恥ずかしかった。というか入学式やらない方向もあったのか。驚きだ。
「ちなみに特別クラスと言っちゃいるが、ぶっちゃけ壽にクラスは関係ない。友達作りには困らないだろう。詳しく話すと長くなるからあとは職員室に着いてから話すな」
「……わかりました」
正直いまの説明ではほとんどわからなかったので再び階段を上りだした相澤先生に大人しくついていくことにした。それにしても、なぜ先生は私が友達作りを懸念していることがわかったのだろう。読心術でも心得ているのだろうか。
職員室に入った瞬間、圧倒された。プロヒーローが集っている。ヒーローにはそれほど詳しくない私だけれど、彼らのカリスマ性はビリビリと肌に電流が流れるように感じられた。
「こっちだ」
職員室の中へ一歩を踏み出せないでいる私をよそに相澤先生はプロの空気一色の部屋の中へ何食わぬ顔で入っていく。やる気のない風貌の相澤先生だけれど、この学校の教師をやっている限り彼もまたプロヒーローなのだろう。スタスタと歩いていく様は流石と言うべきだった。
私も行こう。ここで立ち止まっていても仕方がない。なんとなく相澤先生は時間を大切にする性格のように思える。早々にルーズな生徒だと決められるのは嫌だったので、高揚する心を落ち着かせて早足で相澤先生の後を追いかけた。
「うちの生徒である以上どうやっても注目の的になることは避けられない」
すでに自分の担当机についている相澤先生の横に立つと、先生は手元の資料を整えながら話し始めた。
「加えて壽は国の監視下にある個性を持っているからいつ何が起こるかわからない。だから壽には常に俺が付き添う形になる。と言っても、俺も他クラスの授業があるから壽が俺に付き添う形にはなるんだが……カリキュラムだ。目を通しとけよ」
「あ、はい」
手渡されたホチキスで止められている紙束の一枚目をめくってざっと目を通してみる。そうすれば開いた口が塞がらなかった。
「常に付き添うって……私生活も該当するんですか?!」
思わず出た大声にハッとなり周囲を見渡せば案の定プロヒーローの先生たちがこちらに注目していた。そして苦笑しながら「大変だよな」「頑張れよ」と声をかけてくれた。勝手にシビアな性格を想像していたけれど、存外接しやすそうだ。申し訳なさとありがたさで何度も頭をさげているとビッと親指をたてるパンクな見た目の先生が目に入った。
「それなんだが……壽の自宅に俺が厄介になるか、壽が寮に入るかのどっちかになる。どっちにしろ合理性に欠くが、どうする?」
「めっちゃ寮でお願いします」
「めっちゃ寮ね」
相澤先生は、まるで私がそう即答するとわかっていたかのようにすかさず一枚の書類を取り出し何やら書き込み始める。
渡されたのは寮へ入ることへの同意書だった。最後には相澤先生の承認サインが書かれている。
「本人と保護者のサインしてハンコ押したら俺か校長に提出してね」
「わかりました」
カリキュラムと同意書をクリアファイルに入れてスクールバッグに詰め込んでいる間も相澤先生は話し続けた。
「そのカリキュラムにも書いてるが、普通科の授業はその都度各教室に移動して受けてもらうことになる。そのほか実技や訓練の授業は俺とマンツーマンだ」
そして、休憩時間や終業後は相澤先生と共に過ごすと。想像すれば困難しかないように思える。しかし、仕方のないことではあるし、何よりありがたいことでもあった。
雄英高校にはかつてのオリンピックと同等のイベント、雄英体育祭なるものがある。それは多くのマスメディアが集まり全国放送される催し物だ。それに参加する以上、今まで国から守られそういうものに露出していなかった私の"個性"が体育祭を機に注目されることは間違いない。それは、敵への紹介にもなるということだ。
「最初は慣れずに気疲れすることが多いかもしれんが自分のペースで頑張れよ。……と言っても時間は有限だ」
どこか痛むのか顔をしかめる相澤先生。
「……3年間、しっかり将来を見極めろ」
ついさっきまでは普通だったのに、今この瞬間の先生はとても辛そうだった。ひどく痛むのを必死に我慢している、そんな雰囲気があった。
「……わかりました、先生」
そう応えれば、相澤先生は少しだけ微笑んでくれた。