未変換の場合、寿(ことぶき)命(みこと)になります。
2.「寮生活開始」
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「すみません、相澤先生は今どこにいらっしゃるかご存知ですか?」
「相澤くん?どこだったかなぁ……わかんないや」
「そうですか……お忙しいところすみません」
これで何回目だろうか。相澤先生の居場所を求めて早2時間。尋ねる先生は誰一人として相澤先生が授業をしているクラスを知らなかった。自分の時間割しか把握していないといったふうだ。
外は夕方もいいところで、怖いくらい綺麗な夕焼け空が広がっている。窓から差し込む西日のせいで廊下は橙色一色。とても幻想的だったもう最後の授業も終わってしまっている。あとは日が暮れて下校時刻を待つのみだ。
ふと、相澤先生は私から隠れているのではないかと思う。きっとそうだ。私が諦めて帰るのをどこかから眺めながら待っているんだ。
「そうなると私の頑固な性が出てきちゃうんだな!」
不思議な気持ちだった。やる気がみなぎってきて、普段より10倍速く走れている気がする。いつもなら相手の反応を気にして後ろ向きなことばかり考えてしまうのに相澤先生のことに関しては前向きになれる。そういう変な自信さえ湧いてきた。
「相澤せんせー!」
呼べば出てくるかもしれないと思うけど、やっぱりそんなことはない。代わりに居残りをしている生徒が教室から驚いた顔を出した。
各階にある準備室を順番に覗いていくけれど、相澤先生の姿はない。こうなったら全教室を片っ端から開け放っていってしまおうか!そんなことを考えながら廊下の角を曲がると目の前に壁が出現した。驚いたけれど避ける間もなくぶつかってしまう。
「うわっと!Hey hey!大丈夫かリスナー!?」
壁かと思ったものは背の高い人で、よろけた私の肩をつかんで倒れるのを防いでくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いーえ」
その格好には見覚えがあった。派手な髪に派手なサングラス、そして派手な声。私が職員室で相澤先生に今後の説明を受けていたときに親指を立てていた先生だ。
「よそ見してたら危ないぜ!」
そう言って、派手な先生は私の頭をぽんぽん叩くと隣を通り過ぎていってしまう。私は慌ててその背中に尋ねた。
「あの!相澤先生はどちらにいらっしゃいますか?」
答えには期待していないけれど一応聞いておこう。派手な先生は「Uh-huh?」とアメリカ人さながらの発音で振り返った。
「イレイザーを探してるのか?」
「イレイザー…?相澤先生です」
「そのアイザワセンセーがイレイザーだよ。イレイザーヘッド」
「へぇ…」
そういえば、ヒーローには必ずヒーロー名というものがある。そっか…相澤先生のヒーロー名はイレイザーヘッドっていうんだ。そういえば相澤先生の"個性"ってなんだろう。使っているところはおろか、聞いたこともなかった。
「イレイザーヘッドっていう名前はなぁ……このオレがつけたんだぜ!」
「えぇ…!」
ビッと立てた親指を自分に向けて満面の笑みを浮かべる派手な先生。
「ヒーロー名って自分でつけるんじゃないんですか?」
「フフン、まあ普通そうだよな。でもイレイザーの名前をつけたのはオレ!イレイザーを生んだのは!この!オレなんだぜ!!」
「相澤先生を生んだのが…!」
それはすごい。もちろんこの先生がお腹を痛めて相澤先生を産んだというわけではない。
「もしかして相澤先生って有名なんですか?」
「Hmmmm……知る人ぞ知る!ってやつだな。アイツはメディア嫌いだからあんま公には出ねーし」
つまり、影で密かに敵を捕まえているヒーローということか。
「か、かっこいい…」
「Huh?………HAHA!」
派手な先生は夕焼けに負けないオレンジ色のサングラスの向こうの目を丸くしたあと、真っ白な歯を見せて笑った。まるで自分が褒められたかのように喜んでいる。この先生と相澤先生は仲がいいのだろう。
「そういやイレイザーの居場所を探してるんだったよな?アイツなら十中八九屋上にいると思うぜ」
「!」
相澤先生の居場所を聞けたことにはもちろん、このアメリカかぶれの先生が「十中八九」という小難しい日本語を使ったことに驚いた。
「あ、ありがとうございます。えっと…」
お礼を言った後に名前を呼ぼうとして失敗したことに気づく。私はこの先生の名前を知らない。顔は一発で覚えることができたのだけれど。しまった。職員室にいた時、本人でなくても相澤先生に聞いておけばよかった。
口ごもっている私に派手な先生は不思議そうに首をかしげた。そして、ハッとしてショックを受けた表情になる。
「もしかしてオレのこと知らねーの?!」
控えめに頷くと先生は左胸をわし掴んでよろめいた。リアクションもアメリカンだ。
「嘘だろオイオイ……試験のとき絶対会ってるじゃねーか!」
「し、試験…ですか?」
それは入学試験のことを言っているのだろうか。それならば私は筆記試験だけを個別で受けただけだ。そのとき使用した教室にこんな派手な先生はいなかった。絶対に。
そのことを伝えると先生はサングラスを指で押し上げて涙をふいた。うそ、泣くほどショックだったの。
「そうならそうと早く言ってくれよ!オレのガラスのハートが粉々になるところだったぜ、リスナー!」
「す、すみません」
泣いていたかと思えば次の瞬間にはHAHAHA!と眩しいほどの白い歯を見せた笑顔を向けてくる。
「オレはプレゼント・マイク。聞いたことないとは言わせねーぜ!」
そう言ってプレゼント・マイク先生はお決まりの親指を立てたポーズをとる。
確かに、その名前には聞き覚えがあった。たしかラジオのパーソナリティの名前だ。最も、ラジオは聞かないので中学のクラスメイトが話題にしているのを聞いただけだけれど。
そうか、だから私のことをしきりに"リスナー"と呼んでいたんだ。ようやく納得がいった。
「っと、イレイザーだったよな。早く行きな。下校時刻までもう少しだぜ。行き方はわかるか?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
そう言って頭を下げるとマイク先生はさっきと同じようにポンポンと撫でてくれた。なんだか今日はやけに頭を撫でられる。
もう一度軽く頭をさげて屋上へ続く階段を上った。
「……個別で試験……イレイザー………あの女子リスナー"国家指定個性"の子か!」
一瞬、マイク先生の声が聞こえたけれど階段を駆け上る自分の足音で何を叫んでいたのかまでは聞こえなかった。
「相澤くん?どこだったかなぁ……わかんないや」
「そうですか……お忙しいところすみません」
これで何回目だろうか。相澤先生の居場所を求めて早2時間。尋ねる先生は誰一人として相澤先生が授業をしているクラスを知らなかった。自分の時間割しか把握していないといったふうだ。
外は夕方もいいところで、怖いくらい綺麗な夕焼け空が広がっている。窓から差し込む西日のせいで廊下は橙色一色。とても幻想的だったもう最後の授業も終わってしまっている。あとは日が暮れて下校時刻を待つのみだ。
ふと、相澤先生は私から隠れているのではないかと思う。きっとそうだ。私が諦めて帰るのをどこかから眺めながら待っているんだ。
「そうなると私の頑固な性が出てきちゃうんだな!」
不思議な気持ちだった。やる気がみなぎってきて、普段より10倍速く走れている気がする。いつもなら相手の反応を気にして後ろ向きなことばかり考えてしまうのに相澤先生のことに関しては前向きになれる。そういう変な自信さえ湧いてきた。
「相澤せんせー!」
呼べば出てくるかもしれないと思うけど、やっぱりそんなことはない。代わりに居残りをしている生徒が教室から驚いた顔を出した。
各階にある準備室を順番に覗いていくけれど、相澤先生の姿はない。こうなったら全教室を片っ端から開け放っていってしまおうか!そんなことを考えながら廊下の角を曲がると目の前に壁が出現した。驚いたけれど避ける間もなくぶつかってしまう。
「うわっと!Hey hey!大丈夫かリスナー!?」
壁かと思ったものは背の高い人で、よろけた私の肩をつかんで倒れるのを防いでくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いーえ」
その格好には見覚えがあった。派手な髪に派手なサングラス、そして派手な声。私が職員室で相澤先生に今後の説明を受けていたときに親指を立てていた先生だ。
「よそ見してたら危ないぜ!」
そう言って、派手な先生は私の頭をぽんぽん叩くと隣を通り過ぎていってしまう。私は慌ててその背中に尋ねた。
「あの!相澤先生はどちらにいらっしゃいますか?」
答えには期待していないけれど一応聞いておこう。派手な先生は「Uh-huh?」とアメリカ人さながらの発音で振り返った。
「イレイザーを探してるのか?」
「イレイザー…?相澤先生です」
「そのアイザワセンセーがイレイザーだよ。イレイザーヘッド」
「へぇ…」
そういえば、ヒーローには必ずヒーロー名というものがある。そっか…相澤先生のヒーロー名はイレイザーヘッドっていうんだ。そういえば相澤先生の"個性"ってなんだろう。使っているところはおろか、聞いたこともなかった。
「イレイザーヘッドっていう名前はなぁ……このオレがつけたんだぜ!」
「えぇ…!」
ビッと立てた親指を自分に向けて満面の笑みを浮かべる派手な先生。
「ヒーロー名って自分でつけるんじゃないんですか?」
「フフン、まあ普通そうだよな。でもイレイザーの名前をつけたのはオレ!イレイザーを生んだのは!この!オレなんだぜ!!」
「相澤先生を生んだのが…!」
それはすごい。もちろんこの先生がお腹を痛めて相澤先生を産んだというわけではない。
「もしかして相澤先生って有名なんですか?」
「Hmmmm……知る人ぞ知る!ってやつだな。アイツはメディア嫌いだからあんま公には出ねーし」
つまり、影で密かに敵を捕まえているヒーローということか。
「か、かっこいい…」
「Huh?………HAHA!」
派手な先生は夕焼けに負けないオレンジ色のサングラスの向こうの目を丸くしたあと、真っ白な歯を見せて笑った。まるで自分が褒められたかのように喜んでいる。この先生と相澤先生は仲がいいのだろう。
「そういやイレイザーの居場所を探してるんだったよな?アイツなら十中八九屋上にいると思うぜ」
「!」
相澤先生の居場所を聞けたことにはもちろん、このアメリカかぶれの先生が「十中八九」という小難しい日本語を使ったことに驚いた。
「あ、ありがとうございます。えっと…」
お礼を言った後に名前を呼ぼうとして失敗したことに気づく。私はこの先生の名前を知らない。顔は一発で覚えることができたのだけれど。しまった。職員室にいた時、本人でなくても相澤先生に聞いておけばよかった。
口ごもっている私に派手な先生は不思議そうに首をかしげた。そして、ハッとしてショックを受けた表情になる。
「もしかしてオレのこと知らねーの?!」
控えめに頷くと先生は左胸をわし掴んでよろめいた。リアクションもアメリカンだ。
「嘘だろオイオイ……試験のとき絶対会ってるじゃねーか!」
「し、試験…ですか?」
それは入学試験のことを言っているのだろうか。それならば私は筆記試験だけを個別で受けただけだ。そのとき使用した教室にこんな派手な先生はいなかった。絶対に。
そのことを伝えると先生はサングラスを指で押し上げて涙をふいた。うそ、泣くほどショックだったの。
「そうならそうと早く言ってくれよ!オレのガラスのハートが粉々になるところだったぜ、リスナー!」
「す、すみません」
泣いていたかと思えば次の瞬間にはHAHAHA!と眩しいほどの白い歯を見せた笑顔を向けてくる。
「オレはプレゼント・マイク。聞いたことないとは言わせねーぜ!」
そう言ってプレゼント・マイク先生はお決まりの親指を立てたポーズをとる。
確かに、その名前には聞き覚えがあった。たしかラジオのパーソナリティの名前だ。最も、ラジオは聞かないので中学のクラスメイトが話題にしているのを聞いただけだけれど。
そうか、だから私のことをしきりに"リスナー"と呼んでいたんだ。ようやく納得がいった。
「っと、イレイザーだったよな。早く行きな。下校時刻までもう少しだぜ。行き方はわかるか?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
そう言って頭を下げるとマイク先生はさっきと同じようにポンポンと撫でてくれた。なんだか今日はやけに頭を撫でられる。
もう一度軽く頭をさげて屋上へ続く階段を上った。
「……個別で試験……イレイザー………あの女子リスナー"国家指定個性"の子か!」
一瞬、マイク先生の声が聞こえたけれど階段を駆け上る自分の足音で何を叫んでいたのかまでは聞こえなかった。