短編
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「はー、はー、」
静まり返った屋敷に私だけの呼吸音が響く。
通りがかった部屋で血まみれになった女中さんやボコボコになった庭で倒れている男の人達がいて、やっぱり皆死んだんだなぁて他人事のように考えた。
このクソみたいな禪院家で物心ついた時から仕えていたクソみたいな主人、直哉様を探さないと。今まで私が手間隙かけて世話してやったんだから死んでたら許さない。
扇様の娘の真希さんに強く打ち付けられた頭からダラダラ垂れてきた血が乾きかけていた跡を通ってくる。どうして私は他の人たちみたいに死んでいないのだろうか。私の周りにいた人達はみんな即死だったろうに。真希さんの気まぐれかもな。
あれだけ痛んでいた頭も今はぼーっとしてきているだけでもう何ともない。でも体は重くてしんどいままだ。はあつら。死にたい訳じゃないけど別に生きたいとも思っていないから、直哉様の許可がおりたらそのまま殺してもらおうかな。
壁を伝って何とか歩いていた私の目に床の血の跡が飛び込んできた。引きずって伸びた後があるから誰かが移動していたってことだろう。どうか直哉様であってくれ、直哉様、直哉様。
どこか祈るような気持ちで辿っていくと、倒れた襖に乗っかる直哉様の草履と独り言のような声が聞こえた。よかった、直哉様の声だ。まだ生きてる。
しかし彼のすぐ側に女性がいた。フラフラしてて様子がおかしく、着物の前は血まみれで片手に包丁。あ、刺すつもりだ。
「っ、だめ、」
最後の力を振り絞って直哉様がいる部屋を目指したが、まあ、間に合わなかった。彼の左肩下あたりに深深と刺さった包丁に絶望する。
突き刺した女性は扇様の奥方で、包丁の柄を持ったまま絶命していた。なんでこんなことを、まぁ直哉様の性格なら刺されても仕方なかったか。
「...ざっけんなやっ!!」
畳に爪を立てる直哉様は随分と気がたっている。痛いのか悔しいのか。
普段なら絶対近寄らないが、この際直哉様の機嫌なんて気にならない。少しぼやけてきた世界で私の"終わり"が近づいていることを察した。
「直哉様...」
「ドブカス...がぁ!!」
あぁ、私の声なんか耳に入らないのか。結構長く仕えてきたから自信あったんだけど、色々。悲しいな、でももういいや。
「なおやさま」
畳に爪痕が残る程の力の籠った手。筋や血管まで浮いてて相当怖かったけど、私の手を重ねる。
「あ"ぁ"!?なんや歌音ッ!」
血走った左目で私を射抜いてくる直哉様に、いつもなら恐縮して機嫌を伺っていただろう。けど不思議と怖くない。
ていうか顔半分がぐちゃぐちゃじゃないか、血塗れで右側の歯が数本無くなっていた。痛そう、真希さん凄いなぁ、炳筆頭で次期当主の直哉様までやっちゃうなんて。そう考えたら私の頭がかち割れなかったのも凄い気がする。
「やっと見つけた、間に合わなかったけど...ふふ」
「何がおかしいんやッいてまうぞ!!俺を助けろや!!」
「無理です、ごめんなさい...」
「チッッ!」
私にもそんな余力は残ってないんだよ、逆にその元気を分けて貰いたいくらいだ。
乱暴に手が振り払われたが、その衝撃もほんの少ししか感じなくなっているのだから相当やばくなってきている。間もなく頭がぐらりとして倒れた。床で頭を打ったけど何も感じない。
「この役立たずが!!」
はは、ほんとに元気だこと。
死に際の人間に向かってなんて酷いことを言うのだろう、しかし罵倒に慣れてしまった私は最早ダメージのひとつも受けない鋼のハートを手に入れてしまっている。
動けるなら助けたいよ、直哉様のこと。
「ね...なおやさま」
「なんやカス」
ほとんど感触を感じない手で直哉様の頬を撫でても抵抗はしてこなかった。やっぱり相変わらず残った半分でも顔だけはいいな。
ホントに顔だけ、今までその性格でいっぱい損してきたよね、ずっと隣にいたから知ってる。
「地獄に行っても、私を仕えさせてください」
私の人生は直哉様ありきのもの。彼がいなくては私が生きる意味が見いだせない。生まれる前から世話役が決まっていたらしいから私はその為に産み育てられた。直哉様の好き嫌い、機嫌の取り方、声色でして欲しいことを判断すること、私の頭には最低限の教養とそれしか詰まっていない。
禪院家という閉鎖的な一族が私の生活スペースだったから世間知らずだし最低限のことしか外のことを知らなかった。1人になったら途方に暮れる日を繰り返すだけだろう。
直哉様の相手は骨が折れたし暴力を振るわれたりもしたけれど、割と良いこともあった。まぁ、たまにご飯が豪華で美味しかったり色んなところに連れて行ってもらったりとか些細なことだけど。
直哉様のために生きてる私をどこに行っても傍に置いてもらえたのが嬉しかったし、これからもこの命が尽きるまで仕えたいと思っていた。だって坊っちゃんで1人じゃ何も出来なくてひねくれた性格で口が悪くてぶっちゃけ顔と相伝に見合った強さだけが取り柄な直哉様の相手がまともにできるのは私だけだろうから。
「お前みたいなでくのぼうは要らんわ」
「ふふ、さいごくらい労って...」
あなたはわたしのすべてだから、捨てないで。
最後はちゃんと言葉にできたかは分からないけど、私の手はゴトっと落ちた。ヒューヒューと息が漏れて、視界は霞んで何も見えなくなった。
最期に聞こえたのは直哉様が私を呼ぶ声。
「は...?...歌音...歌音?」
☆☆☆
世界観まとめ
・この後直哉もちゃんと死んだはず(ただし芥見先生)
・この2人の間に恋とかはなくて純粋な主従関係
・同じ禪院だけど歌音は分家の女
・仕えて20年近い。直哉に関してはなんでも分かる。ニコイチ状態。ツーカーの仲
・それなりにいい扱いをされてた(美容院とかセルフネイル施してくれたり)(任務でプチ旅行)(コスメも買い与えてくれ)
・肉体関係があったかはご想像におまかせ
・直哉が傍に置くくらいだから多分顔はいい
静まり返った屋敷に私だけの呼吸音が響く。
通りがかった部屋で血まみれになった女中さんやボコボコになった庭で倒れている男の人達がいて、やっぱり皆死んだんだなぁて他人事のように考えた。
このクソみたいな禪院家で物心ついた時から仕えていたクソみたいな主人、直哉様を探さないと。今まで私が手間隙かけて世話してやったんだから死んでたら許さない。
扇様の娘の真希さんに強く打ち付けられた頭からダラダラ垂れてきた血が乾きかけていた跡を通ってくる。どうして私は他の人たちみたいに死んでいないのだろうか。私の周りにいた人達はみんな即死だったろうに。真希さんの気まぐれかもな。
あれだけ痛んでいた頭も今はぼーっとしてきているだけでもう何ともない。でも体は重くてしんどいままだ。はあつら。死にたい訳じゃないけど別に生きたいとも思っていないから、直哉様の許可がおりたらそのまま殺してもらおうかな。
壁を伝って何とか歩いていた私の目に床の血の跡が飛び込んできた。引きずって伸びた後があるから誰かが移動していたってことだろう。どうか直哉様であってくれ、直哉様、直哉様。
どこか祈るような気持ちで辿っていくと、倒れた襖に乗っかる直哉様の草履と独り言のような声が聞こえた。よかった、直哉様の声だ。まだ生きてる。
しかし彼のすぐ側に女性がいた。フラフラしてて様子がおかしく、着物の前は血まみれで片手に包丁。あ、刺すつもりだ。
「っ、だめ、」
最後の力を振り絞って直哉様がいる部屋を目指したが、まあ、間に合わなかった。彼の左肩下あたりに深深と刺さった包丁に絶望する。
突き刺した女性は扇様の奥方で、包丁の柄を持ったまま絶命していた。なんでこんなことを、まぁ直哉様の性格なら刺されても仕方なかったか。
「...ざっけんなやっ!!」
畳に爪を立てる直哉様は随分と気がたっている。痛いのか悔しいのか。
普段なら絶対近寄らないが、この際直哉様の機嫌なんて気にならない。少しぼやけてきた世界で私の"終わり"が近づいていることを察した。
「直哉様...」
「ドブカス...がぁ!!」
あぁ、私の声なんか耳に入らないのか。結構長く仕えてきたから自信あったんだけど、色々。悲しいな、でももういいや。
「なおやさま」
畳に爪痕が残る程の力の籠った手。筋や血管まで浮いてて相当怖かったけど、私の手を重ねる。
「あ"ぁ"!?なんや歌音ッ!」
血走った左目で私を射抜いてくる直哉様に、いつもなら恐縮して機嫌を伺っていただろう。けど不思議と怖くない。
ていうか顔半分がぐちゃぐちゃじゃないか、血塗れで右側の歯が数本無くなっていた。痛そう、真希さん凄いなぁ、炳筆頭で次期当主の直哉様までやっちゃうなんて。そう考えたら私の頭がかち割れなかったのも凄い気がする。
「やっと見つけた、間に合わなかったけど...ふふ」
「何がおかしいんやッいてまうぞ!!俺を助けろや!!」
「無理です、ごめんなさい...」
「チッッ!」
私にもそんな余力は残ってないんだよ、逆にその元気を分けて貰いたいくらいだ。
乱暴に手が振り払われたが、その衝撃もほんの少ししか感じなくなっているのだから相当やばくなってきている。間もなく頭がぐらりとして倒れた。床で頭を打ったけど何も感じない。
「この役立たずが!!」
はは、ほんとに元気だこと。
死に際の人間に向かってなんて酷いことを言うのだろう、しかし罵倒に慣れてしまった私は最早ダメージのひとつも受けない鋼のハートを手に入れてしまっている。
動けるなら助けたいよ、直哉様のこと。
「ね...なおやさま」
「なんやカス」
ほとんど感触を感じない手で直哉様の頬を撫でても抵抗はしてこなかった。やっぱり相変わらず残った半分でも顔だけはいいな。
ホントに顔だけ、今までその性格でいっぱい損してきたよね、ずっと隣にいたから知ってる。
「地獄に行っても、私を仕えさせてください」
私の人生は直哉様ありきのもの。彼がいなくては私が生きる意味が見いだせない。生まれる前から世話役が決まっていたらしいから私はその為に産み育てられた。直哉様の好き嫌い、機嫌の取り方、声色でして欲しいことを判断すること、私の頭には最低限の教養とそれしか詰まっていない。
禪院家という閉鎖的な一族が私の生活スペースだったから世間知らずだし最低限のことしか外のことを知らなかった。1人になったら途方に暮れる日を繰り返すだけだろう。
直哉様の相手は骨が折れたし暴力を振るわれたりもしたけれど、割と良いこともあった。まぁ、たまにご飯が豪華で美味しかったり色んなところに連れて行ってもらったりとか些細なことだけど。
直哉様のために生きてる私をどこに行っても傍に置いてもらえたのが嬉しかったし、これからもこの命が尽きるまで仕えたいと思っていた。だって坊っちゃんで1人じゃ何も出来なくてひねくれた性格で口が悪くてぶっちゃけ顔と相伝に見合った強さだけが取り柄な直哉様の相手がまともにできるのは私だけだろうから。
「お前みたいなでくのぼうは要らんわ」
「ふふ、さいごくらい労って...」
あなたはわたしのすべてだから、捨てないで。
最後はちゃんと言葉にできたかは分からないけど、私の手はゴトっと落ちた。ヒューヒューと息が漏れて、視界は霞んで何も見えなくなった。
最期に聞こえたのは直哉様が私を呼ぶ声。
「は...?...歌音...歌音?」
☆☆☆
世界観まとめ
・この後直哉もちゃんと死んだはず(ただし芥見先生)
・この2人の間に恋とかはなくて純粋な主従関係
・同じ禪院だけど歌音は分家の女
・仕えて20年近い。直哉に関してはなんでも分かる。ニコイチ状態。ツーカーの仲
・それなりにいい扱いをされてた(美容院とかセルフネイル施してくれたり)(任務でプチ旅行)(コスメも買い与えてくれ)
・肉体関係があったかはご想像におまかせ
・直哉が傍に置くくらいだから多分顔はいい
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