第一段◇古の物語


 ご存知の方はおられるだろうか。
 遠い遠い、遥か昔。古(いにしえ)の時代に存在した夫婦桜(めおとざくら)のことを。
 それは寄り添うように立ち並び、長い枝は互いに触れ合いたいが如く、隣の木へと真っ直ぐ伸びている。
 そしてついには枝同士が絡み合い、決して二つの木を引き離すことなど出来なくなってしまった。
 ──しかし、その摩訶不思議な桜はある時を境に忽然(こつぜん)と姿を消してしまう。
 そればかりか夫婦桜(めおとざくら)のことを記した数々の歴史書からも、一切の記載を残す事なく消えてしまった。
 ゆえに、桜にまつわる話が人々の記憶から忘れ去られてしまうのは必定(ひつじょう)。
 けれど、ある一族にだけ伝えられる逸話(いつわ)がある。
 それは────……

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