ACT.2
名前変更
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「静香っていうのはね、前のマネージャーなんだ」
「前の?」
「うん。逸嶋静香、俺達と同い年でね…優秀なマネージャーであると同時にテニスプレイヤーでさ、1年の時から皆で楽しく全国目指してやってたんだ…」
俯きながら、ポツリポツリと話し始めた。
「氷帝ってエスカレーター式だから昔から仲がいい奴らもいるわけでさ、絆も深くて、ほんとに楽しくやってたんだ。だけど…」
「だけど?」
「2年に上がると同時に、太田が入ってきて…草川君と同じ状況になったんだ」
ギュッと握られたままだった手に力が入る。
「よく考えたらさ、静香がそんなことする筈ないのに、皆太田を信じるんだよ。跡部君とか滝君とか気付いてた奴らもいたみたいだけど、周りの勢いが激しくて…静香は…静香は…!!」
芥川はその場に泣き崩れた。
同じようにしゃがみこむと背中を擦ってやる。
「前田さんも太田にはめられたみたいで、そのうち暴力がまた始まって…跡部君も俺も、助けようとしたけど、力になれなくて…転校したって聞いて安心したけど、次は草川君が…」
「芥川先輩、太田先輩がハメたって証拠はあるんですか?」
「え?」
芥川は顔を上げた。
頬を伝う涙を拭い、もう一度問い掛けた。
「証拠は…ないけど、俺見たんだ…太田が…自分の頬叩いて、叫んで、静香が悪者扱いされて…それこそ静香がやった証拠ないのに…」
「最後まで、その人を信じてあげれましたか?」
「え?」
「その現場を見ていなくても、その逸嶋さんを信じてあげれましたか?守ろうとしてあげれましたか?」
草川の問い掛けに芥川は視線を泳がせた、一度目を閉じると真っ直ぐ晴樹を見た。
「自信はないけど…話を聞いて信じてあげる事は出来ると思う。その現場を見てないなら、どっちが悪いなんて決めれないし…」
「……そうですか」
草川は力なく笑うと、立ち上がった。
「あ、あのさ!」
「はい?」
「昨日のドリンク作ったの…草川君だよね?」
「そうですが…」
「静香と同じ味がしたC~」
「…偶々じゃないですか?」
歩き出そうすると、立ち上がった芥川に腕を掴まれた。
「まだなにか?」
「俺の事、ジローでいいC~だから、晴樹って呼んでもいい?」
「…どうぞ、ジロー先輩」
嬉しそうに笑った芥川を見て、歩き出した。
「面倒だ…」
てっきり氷帝テニス部全員が敵だと思っていたら、敵は一部を除くレギュラー陣と太田だけ。
テニス部そのものを潰そうとしていたのだから、ターゲットを変えなければいけない。
先ずは太田。
アイツには静香と同じ痛みを受けてもらう。
暴力だけではすまさない。
逃げたところで女であることを後悔するような目に合わせてやる。
お前のせいで家族も苦しみ、疎外されるように仕向けてやる。
次は…加害者の連中だな。
忍足・向日・宍戸・鳳
跡部…さんに芥川さんに樺地は見逃してやるか…
そういや静香が言ってたしな。
『景吾は悪くないのよ?私を守ろうとしてくれたわ。部長だし、雰囲気を悪く出来ないし皆が大事だから暴力事になる前に止めてくれたわ…最後の方は間に合わなかったけど』
芥川さんは嘘を吐いてるようには見えなかった。
一先ず信じよう、だが他の奴等は容赦しない。
お前らは静香からテニスを奪ったんだ。
人生を奪ったんだ。
だから俺も奪ってやるよ…お前らからテニスを、人生をな。
ニィと笑った晴樹の脳裏には、苦しむ奴等の顔が浮かんでいた。
「ゴミは捨てねぇとな」
「今なんて言った」
「辞めると言いました」
跡部は顰めっ面をした。
「理由を言え」
「辞めろと言われました」
「…今辞めるとお前がやったと認める事になるぞ」
「何もしないし言わない跡部先輩に言われたくありません」
次の日の朝、跡部を呼び出した晴樹は退部する事を伝えた。
更に眉間に皺を寄せた跡部を見ながら伝える。
「監督に話は通してます。家庭の事情としか言ってませんが」
「もう通してるだと?」
跡部は溜め息を吐いた。
「静香、前田さん、ボクの後釜を探させないように、しっかり太田さんを見張っててくださいね?」
「お前…!!あ、おい!!」
静香の名前を出した事に跡部は酷く驚いたが、無視して歩き出した。
「そうそう、今日1日分のドリンク、ボクがもう作って置いてますので」
1度振り返り笑うと、再び歩き出した。
「え?草川君が辞めた?」
「序でに転校したそうです」
鳳の言葉に、太田は目を見開いた。
放課後、跡部に集められたレギュラー陣と日吉、それに太田は晴樹の事を告げたのだ。
「はっ…!イジメの元凶おらんようなって良かったわ」
「そうだぜ!!」
喜ぶ面々を余所に、ジローは顔面蒼白だった。
「樺地、日吉、ジローを保健室に連れていけ。具合が悪そうだ」
「ウス」
「わかりました」
去っていく3人を見た後、忍足達を見た。
「お前もいい加減にしとけ」
跡部はそう言って部室へ向かった。
「跡部のやつ、なに言ってんだ?」
「さぁ…」
顔を見合わすダブルスペアに囲まれた太田は酷く歪んだ顔で跡部を見ていた。
「なるほど、な」
それを学校のフェンス越しに1人の男が見ていた。
END ACT.2