ACT.4
名前変更
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「よう、何話してんだ」
少しして後ろからジャッカルが会話に混ざりにきた。
「ジャッカル先輩、いやあ、こっちのマネージャー最悪なんスよ」
ジャッカルに話を始める切原。
ジャッカルは苦笑しながらもちゃんと愚痴を聞いてやる。
(なんだかんだいい先輩だ)
それを見て微笑んでいると、柳が口を開いた。
「こちらへ来るぞ」
何が?なんて質問する事はなかった。
直ぐに奴が来たからだ。
「皆で何話してるの?」
上目遣いで見てくる太田に苛っとする。
(コイツの何が可愛いのか解らない明らかに静香の方が可愛いじゃねえか、マネージャー業も完璧プレイヤーとしても優秀、非の打ち所のないのに一体なん「高城君?」
「(気安く呼ぶな)ん、はい?」
不思議そうにする太田を見る。
「黙り込んじゃってたからどうしたのかなって」
「あ、えと…」
照れたように頬を掻く。
(ああ、私に照れてるのね)
気を良くする太田に舌打ちが出そうになる。
(ほんと、騙されやすいやつ)
早く休憩終れと願いつつ、会話を続けた。
練習後半はあっという間だった。
言われた事をこなし、片付けも終え、選手達より少し遅れて食堂へ向かう。
「高城先輩!!」
前方からパタパタと駆け寄ってくるのは桜乃と朋香。
慌てた様子の二人にただ事じゃないと察し、自分も駆け寄る。
「どうした?」
「食堂で、唯ちゃんが!!」
前田になにかあったらしい。
食堂に走ると、中へ駆け込む。
「!!?」
中に入ると、皆何かを囲む様に立っていた。
中心には水を被ったのかびしょ濡れの前田。
(始まったか)
破滅への、遊びが。
笑いそうになるのを耐え、皆に近づく。
「皆さん、なにして…これは?」
「高城君…!!」
晴樹の名を読んだのは太田だった。
涙を浮かべるその様子に、心配そうに眉を下げる。
「太田先輩…?どうして泣いて…一体これは何が…?」
「立海の高城か。お前の為にも言っとくわ、コイツには気いつけや」
太田の傍にいた忍足の言葉に首を傾ける。
「コイツは前、氷帝におったんや。愛に仕事押し付けて、気に喰わんかったら手を上げて、最低な奴や」
「こんなとこで再会するなんて、最悪だぜ…」
舌打ちをする向日から太田へ視線を移すと、近寄る。
怯えた様子の太田へタオルを差し出すと、優しく微笑む。
「少し汗の匂いするかも知れないですが、涙を拭いてください」
「高城君…」
「太田先輩に涙は似合いませんよ?」
タオルを受け取った太田に満足気に笑うと、向日を見る。
「氷帝の向日さんでしたよね?太田先輩を一度出した方が…」
「ああ、そうだな」
太田の背に手を添えて歩き出す。
背中に視線を感じながら晴樹はただ前田を見ていた。
その横で忍足がまた口を開く。
「前田…覚悟しときや」
そう言い放つとその場を去る。
それを機に野次馬達も、各自色々な思いを胸に散っていった。
「前田さん、立って」
そう言って立ち上がらせると、心配そうにこちらを見ていた桜乃と朋香に前田を預ける。
3人が出ていくのを見送っていると、ガッと腕を掴まれた。
「何で…」
「え?」
振り返ると、芥川がキッと睨んでいた。
「何で、アイツに優しくするんだよ…!!」
「芥川さん、高城は知らないんですから」
彼の言うアイツとは、太田の事だろう。
芥川の言いたい事は分かっているが、分からないと言うように眉を下げる。
芥川はまだ何か言いたげだったが、日吉に連れられ食堂を出ていった。
晴樹は息を吐くと、自分も食事をとるため歩き出した。
「あの!!」
食後、風呂に入り廊下を歩いていると後ろから声をかけられる。
振り返ると、頬を少し赤くした太田が立っていた。
「さっきは、ありがとうね…」
「あ、いえ、気にしないでください」
微笑むと晴樹と対照的に、太田は涙ぐむ。
「あの…太田先輩が良ければ、今まで何があったのか聞いても…?」
その問い掛けに、太田はゆっくり頷いた。
「あの、ね…」
近くのベンチへと太田を座らせると、ゆっくりと奴は口を開く。
紡がれるのは、嘘、嘘、嘘。
ああ、彼女は俺が何も知らないと思っているから、次々と嘘を吐く。
(俺が何も知らないと思ってんのかよ)
お前が、お前らが前田や静香にしてきた仕打ちを、誰も知らないと思ってんのかよ。
今すぐ潰してやりたい衝動を抑え、太田の話を聞く。
全て話し終えた太田は泣いていて、晴樹は笑いそうになるのを再び耐え、優しく抱き締めた。
「高城君…?」
「辛かったですね」
頭を撫でてやると、ピクッと彼女は震えた。
(よし、高城は私に落ちたわ)
(とか思ってんだろうな)
実際はお前が俺に落ちてんのに。
お前の事は分かってる。
本当の拠り所がないお前は、少し優しくすると直ぐに落ちる。
相手が純粋に自分を愛して守ってくれる存在なら、尚更。
高城は太田の一番拠り所に、今なった。
(こんな簡単なのに)
逆になぜあの四人がコイツを落とせ無かったのかが不思議だ。
「あの、高城君」
「晴樹で、いいですよ」
少し体を離し、ニッコリと笑えばその頬が更に赤くなる。
「今日はもう遅いですし、ゆっくり休んでください」
部屋まで送ります。
そう告げると、太田の部屋へ向かった。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
部屋へ着き、挨拶を交わすとパタンと扉が閉まる。
晴樹は微笑みから一気に無表情になると、歩き出した。
(なに、これ)
心臓が煩い。
跡部君の方がかっこいいのに、跡部君の方が魅力的なのに、今頭を染めているのは。
(晴樹…君)
太田はフフッと微笑んだが、直ぐに首を振る。
(なに考えてるのかしら…)
たくさんのナイトを作らないといけないのに、一人に現を抜かしてられないわ。
太田は頬をパチンと叩くと、ベッドへ向かった。
「………」
同室の太一の寝息が部屋に響く。
少し捲れた布団を直してやると、外へ視線を移した。
(太田は上々だな)
ニィッと口端が上がる。
太田は腹黒いしちやほやされたいが為に人を陥れるクズだが、誰かを想うと一途だ。
跡部に気持ちを寄せているのは一目瞭然ではあった。
だから四人が必死になっても靡かなかったというのもあるが、晴樹はどうだ。
少し前に跡部に注意され、自分のしている事が実は彼にはバレていた。
それを知って、傷心の太田の所に上手く入り込んだ。
根本は簡単な奴だ、靡かない筈がない。
既に自分へ気持ちが向いているのを確信し、再び笑うと前田の事を考えた。
(アイツが思っていたより)
青学の奴らとの関係は良好じゃねえか。
パッと見た感じ、誰一人忍足達の言葉を信じていなかった。
これならば、彼らから前田に危害が及ぶ事はない。
問題は他校だ。
前田がそんな人物だったと聞けば、同じマネージャーを心配するだろう。
それが過剰になるかならないかは、賭けでしかない。
マネージャーを連れてきていない学校は尚更だ。
それについてはバカな奴がいない事を祈るしかない。
(もう網は張り巡らされてんだ)
くだらねぇ邪魔はしてくれるなよ…
END ACT.4