ACT.1
名前変更
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「ほら、行きましょ!!」
「あ、はい!」
少女に促され、少年は慌てて走り出す。
校庭を走り抜けてやって来たのはテニスコートだった。
「じゃあ、また後でね」
「はい!」
微笑む少女を見送り、少年は少女の向かったテニスコートとは反対の方向へ向かった。
ここは氷帝学園。
東京で一番リッチで学力も高い学校だ(俺の記憶が正しければ)
俺は金持ちでもなければ学力も並みだ。
つまり、普通ならこの学校へ入るのは難しい筈なのだ。
だけど、ある目的の為に、それだけの為に死にもの狂いでここへ転入してきた。
残念な見た目の為に初めは学園の皆に変なものを見る目で観察された。
慣れて来たら観察はされなくなった。
そこである程度の交友を抱き…能力を認められた俺は目的の奴等へと近付けた。
氷帝学園中等部テニス部。
約200人いると思われる部員を束ねるのは3年の部長兼生徒会長の跡部景吾。
今俺は部長が率いるレギュラー陣…ではなく準レギュラー・平部員と言われる者達のマネージャーをしている。
先程の少女はレギュラー陣のマネージャーだ。
俺は文句も言わず与えられた仕事をこなす。
テニス部の人達との交友も良好だ。
何もかも良好だ。
だけど、俺はこんな事をしに来た訳じゃない。
1年の途中から転入し、この半年で俺は皆から好意と信用を得る為に尽くした。
2年になった今、そろそろ動く頃合いだ。
俺も、アイツも。
「It's show time」
さあ、お前と俺の一本勝負、始めようぜ。
「こんなもんか」
何時もの通りにドリンクとタオルを準備する。
1人でレギュラーを除く約200人近くの部員達の相手をするのにも慣れた。
1人1人に配る余裕は無いから籠に入れて移動だ。
「皆さんお疲れ様です!!!」
休憩時間を見計らい、先に準レギュラーのもとへ籠を置き、頭を下げて他の部員達の分を持って移動する。
「また後で回収しに来ますね!!」
「ああ」
同じ2年の日吉に見送られ、走り出した。
「お疲れさまです!!」
「草川さん!!」
「おー晴樹、いつも悪いな」
部員達の所に来れば皆笑顔で迎えてくれる。
この瞬間は好きだ。
「また後でボトルとタオル回収しに来ますね」
「おう」
先輩達に頭を下げ、晴樹は駆け出した。
「……ほんと、アイツは良くやってくれるよな」
「見た目にも気を使えば良いのに」
あの前髪と瓶底眼鏡はどうにかならないもんか、と部員達は顔を合わせて笑った。
部員達の部室とはまた別にドリンクや洗濯をする建物があり、マネージャーの部室にもなっている。
そう、彼女は何時も俺がいない間に来るのだ。
チラリと窓から中を確認し、中に彼女がいるのを確かめると、ニイッと笑った。
唐突に扉を開けると、中にいた彼女は大袈裟に肩を揺らし、晴樹の顔を見ると顔面蒼白になった。
「あ…あの、私…」
パニックになりかける少女にそっと微笑む。
「1年の前田さん、だよね?ボクの事知ってる?」
「は…い。草川晴樹先輩…」
少女の言葉にゆっくりと近づく。
「うん、正解。ねえ前田さん、同じマネージャーなのに全然外では見掛けないね」
「っつ…」
少女は視線をキョロキョロと忙しなく動かす。
そう、彼女をコートで見掛けた事は殆どないのだ。
「ねえ前田さん、ボクが助けてあげる」
「え?」
腕を掴んで引き寄せると、自分の眼鏡を取る。
「ボク知ってるよ、君が何をされて、ここに何があるか」
「っつ!?」
制服の上から腕をなぞると彼女は息を飲んだ。
「辛かったね、痛かったね」
抱き締めて背中を撫でると、彼女は服を掴んで泣き出した。
「俺が助けてやるよ。だからさ…協力してくれないか?」
「え?」
変わった一人称に顔を上げると長い前髪からは想像していたよりも端正な顔が覗いており、少女は息を呑んだ。
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