キッカケ
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おはよ!って、なんか機嫌悪いな」
「……そう?」
席に着くなり前田に言われて今朝の夢を思い出した。
「あ~ちょっと嫌な夢見たせいで早く起きたんだ。機嫌悪いというか、眠い」
「なるほど、朝からなんか怒らせたのかと思って焦ったわ」
「なんか悪いな」
前田と会話をしているとチャイムが鳴った。
1限目は何だっけと会話しながら先生が来るのを待った。
(かったりー)
昨日の出来事に続き今朝の夢の事もありやる気が全く出ない。
全くだ!授業も頭に入ってこないしもう帰りたい!
なんて投げやりに過ごして今は昼休み。
人に会いたくなくて校舎裏で目を瞑り昨日の事を考えていた。
自分なんかに憧れてくれてる人、一緒にプレーをしたいと言ってくれる人、自分の事じゃないのに悔しがってくれる人、何も言わなくても気にかけてくれてる人。
そういった人達がいるのもわかってるし、バレーもまだ好きだし続けたい気持ちはあるが。
一度怪我をしたらそれが軽度でも重度でも気になる。
気にしすぎて違う部分を壊す。
それに…と、ぐるぐると回る嫌な思考を捨てたくて思いきり息を吐いていると足音に気付いた。
立ち上がり、ちらりと足音の主が現れるのを待っているとひょこっと眼鏡をかけた女生徒が現れた(因みに麗しすぎて動悸が激しくなった)
「……いた」
「えっと…」
微笑まれてドキッとした。
「私、清水潔子。バレー部のマネージャーの」
「清水先輩ですか…俺は眞島晴樹です」
ペコリと頭を下げるとフフッと笑われた。
ヤバイ女神がいる。
「えっと、何用でしょうか?」
「ついてきて」
「え、はい」
歩き出した清水先輩についていくとどこに向かってるのか直ぐにわかった。
体育館に向かっている。
解ってしまったが大人しく付いていった。
体育館に着いて中に入る先輩に続くとバレー部勢揃い。
「リンチっすか」
「ハハッ!違う違う」
そう言って澤村さんは眉尻を下げた。
「怪我の事、悪いけど聞かせてもらったよ。今は完治してる事も」
「……情報はどっかの眼鏡が勝手に調べたんですよね、後で殴る。確かに怪我は完治してますよ」
膝を指差して笑う。
「だけどバレーは続けないです。なんか気乗りしなくて」
へらっと笑う自分に対し澤村さんが真剣な表情を崩さなかったので表情を引き締めた。
「どうしても俺を入部させるつもりですか?」
「ああ、出来ればな」
頷いた澤村さんから視線を外した。
「…気持ちは嬉しい…ですがお断りします」
「でも…」
「嫌がってるのに無理矢理入部させなくてもよくないですか?」
そう言うと澤村さんは黙ってしまった。
「逆に、何でそこまで嫌がるんだよ!」
そう怒ったように声を上げたのは日向だった。
「怪我治ったんだろ?じゃあまたやればいいじゃん!」
「………簡単に言うなよ」
晴樹はギュッと手を握り締めた。
「お前に…」
「え?」
「お前に、要らないと言われた人の気持ち解るのか?」
晴樹の日向を見る目はとても冷たかった。
「俺に付いてきてくれて俺を必要としてくれて俺と戦ってくれた奴等に、要らないと言われたんだ。お前にはこの気持ち解るか?所詮アイツ等にとって俺は注目を浴びるための道具だったんだ一度も心を通わせた事なんか無かったんだ」
淡々と話す晴樹に日向は何も言えなかった。
「喩えに出して悪いけど、王様みたいにトスの先に人がいない、でも打ってくれる奴が現れたとかじゃない。俺にはトスが来ないボールが来ないコートから弾き出されチームから弾き出され怪我をした過去があるせいでスパイカーとして不能なのではと判断される」
お前にその辛さ、解る?
「結局…怖いだけでしょ?」
そう言ったのは月島だった。
「また誰かに否定されるのが怖くてひねくれてるだけデショ?」
「そうだ、怖いんだよ」
だから、やりたくないんだ。
(俺はただの臆病者なんだよ)
体育館に沈黙が訪れたので、もう話は終わったと思い体育館から出ようとした。
「ここには!」
突然大きな声が響いたので一瞬足が止まる。
「否定の前にアドバイスをしてくれる人がいる。心配をしてくれる人がいる。俺は少しは変われた…と思う」
だから、お前も…変われる。
「眞島!俺達は誰もお前を要らないなんて言わない!怪我がなんだ!バレーが好きならいつまでもやり続けていいんだよ!」
背中に影山や先輩の言葉を受けながら、体育館を出た。
「じゃあなー!」
「おう」
手を振る友達に手を振り返すと鞄を手にして立ち上がる。
「………」
鞄から見える紙を取り出すと、唇を噛み締めた。
「好きなら…か」
怪我をした過去があった俺を必要してくれる人は確かにいた。
でもやっぱり怖くて、ただ逃げていた。
でもバレーはやっぱり、好きなんだ。
「……もう、終わるか」
自分の気持ちに嘘はつけないんだから。
紙を握り締めると、ゆっくり歩き出した。
「失礼します」
「ん?……眞島!」
男子バレー部が練習する体育館へと足を運ぶと、澤村さんが笑顔で迎え入れてくれた。
「俺、まだ怖い気持ちはあります。でも、やっぱりバレーが好きなんです。だから、よければ」
「眞島」
「っ、はい」
「歓迎するよ」
ニッと笑う澤村さんに思わず目が潤んだ。
「俺、ただ切っ掛けが欲しかっただけなんだと思います。怪我でバレーを辞めて、その時にあった出来事で怖くなり、いじけてバレーをしなくなって。でもバレーは本当は好きだからやりたくて、でも辞めると一度言ってしまったのだからやり辛い、ただそれだけの事だったんだと思います」
自嘲気味に笑うと澤村さんを見た。
「だから、昼休みにああやって皆さん揃って誘って貰えて説得して貰えて、嬉しかったです。切っ掛けも出来たって思いました。ありがとうございます」
ニコッと笑うと澤村は照れたように頬を掻いた。
「これからよろしくお願いします、キャプテン」
「ああ、よろしくな」
手を差し出されたので握手しようとしたら横から伸びてきた手に掴まれた。
「改めてよろしくな眞島!」
「よ、よろしくお願いします」
キラキラとした笑顔の菅原さんに苦笑いしてしまったが気付いてないみたいでよかった。
「さて、清水アレ頼む」
澤村さんの言葉に頷いた清水先輩は用具室と思わしき場所に向かい何かを手にして戻ってきた。
「ハイ、これ」
渡されたのは烏野排球部のジャージだった。
「用意周到ですね」
「何がなんでも入部してもらうつもりだったからな」
笑う澤村さんに苦笑すると田中先輩にジャージを着ろと言われたので羽織る。
「眞島!!」
「は、はい!!」
大声で呼ばれたので驚いて返事をすると田中先輩はニカッと笑った。
「ようこそ!!烏野排球部へ!!」
皆(一部眼鏡と不慣れなセッター除く)がポーズを決めながらニカッと笑った。
「格好いい…」
「そうだろそうだろ!!ポーズはこうだ!」
上機嫌の田中先輩がポーズ指導をしてくれるからそれに倣う。
ゲッ、なんて言ってる眼鏡マジ覚えてろよ。
「なあなあ!」
「ん?」
「早速練習しようぜ!!」
キラキラワクワク、そういった表情で声をかけてきた日向に笑った。
「そうだな、練習するか!後昼はごめんな、翔陽」
「!?おう!!」
さあ練習だ!と意気込んで一歩踏み出そうとしたら腕を掴まれた。
「おい、トスを打て」
ソワソワしながら言ってきた影山にニッと笑った。
「いいトス頼むぜ、飛雄ちゃん」
「その呼び方ヤメロ!」
お近づきの印にちゃん付けで呼んだら怒られたけど俺はやめないからな!
おおそうだ忘れてはいけないと思い、我関せずを貫く眼鏡に近付いた。
「ツッキー、色々と世話になったな」
「ドウイタシマシテ」
鼻で笑う月島に少しイラッとしたが笑った。
「お前が勝手に調べたにしろ、それがもとでまたバレーに携わる事が出来るようになった。ありがとうな」
「別にお礼言われる事はしてないデショ」
「ツッキー照れなくても!」
「うるさいよ山口」
「ごめんツッキー!!」
そっぽを向く月島の後ろからひょっこり顔を出した山口に笑いかける。
「忠!これからよろしくな!」
「うん!よろしく!」
「僕と山口の扱いの差激しくない?」
「愛故だよツッキー。山口は本当に癒しだからな」
うん、気持ち悪い事言った自覚はあるからその全力で引いてますって表情やめろツッキー。
「よし!いつまでもじゃれてないで練習するぞ!」
全くじゃれてるつもりはなかったのだが…まあいいや。
今日からまたバレーが出来る。
その事実に胸が震えた。
.