キッカケ
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「どうだ!バレー部に入らないか!」
「すいません、遠慮します」
笑顔で言われた言葉に笑顔で返すとピシリと相手は固まった。
3年の澤村大地さん、バレー部主将。
他にも3年の菅原孝子さんや2年の人達にも声をかけられたが笑顔で断っておいた。
なんか試合がどうのこうのと言ってた気もするがまあ関係ない。
だって部員じゃないし。
「どうしてもか…?」
「うっ…」
別の事を考えていた時に澤村さんが急に寂しそうな声を出すから思わずドキッとしたじゃないか!(恋愛的な意味合いじゃないがなんか恥ずかしい!)
ふう…と息を吐くと、相手の目を見た。
「何でそこまで俺に拘るのですか?経験者だから?コート上の鷹と言われてたから?ならお門違いですよ。俺は確かに経験者ですがコート上の鷹とは別の人物です。そして俺はリベロです」
一気に言い終えると、澤村は少し口籠った。
「それは重々承知で、お前が確かに入部してくれたらこちらとしたら万々歳だが無理矢理入部させる気もないし…」
「なら何故?そのご様子だと、訳ありなんですか?」
申し訳なさそうな澤村さんに良心が痛んで思わず聞いてしまった、俺のお人好し!
澤村が実は…と話した内容にくらりと目眩がした。
『今度青葉城西高校と練習試合を組めたのだがな…ある条件を出されて』
『条件?』
『影山をセッターとして、眞島をスパイカーとしてフルで出す事だ』
そんな会話をしたのは昼休みで、今は放課後。
顧問の武田先生にお願いして青葉城西の顧問に連絡を付けてもらうと自分の口からバレーはしてないと説明した。
色々聞かれる前に自分の方の条件だけ取り下げてもらい電話を切った。
その事を先生に伝えて帰ろうとしたのだが先生は手が離せないから条件の取り下げの話を皆に伝えてきて欲しいと言い出した。
勿論断ろうとしたが本当に申し訳なさそうな先生を前にノーとは言えず、今現在バレー部が練習する体育館前にいる。
(あー帰りたい。てか大体なんで俺がスパイカーで試合出るのが条件に組み込まれるんだよ。まあ大体の予想はつくけど)
大きくため息を吐くと、覚悟を決めて扉に手をかけた。
そーっと扉を開けて中の様子を覗くと、スパイク練習をしていた。
セッターに影山がいて、ちょうど日向がスパイクを打つ番なのだが…絶句した。
気が付いたらボールが撃ち抜かれていた。
日向が運動神経いいのは知ってるから素早いのも高く飛ぶのも何ら驚きはないが、あの影山が…
(日向にトスを合わせてる)
俺の知ってる影山はコート上の王様で、合わせる事など知らなかった筈だ。
天才だとは知っていたがあそこまで出来るのかと驚いた。
日向が一番のスピードとジャンプで跳びそこに影山がボールを持って行く。
目を瞑りながら打っていた日向にも驚いたが、二人が繰り出す速攻にはもっと驚いた。
(凄いな…)
そして、羨ましい。
日向が目を瞑っていられるのは影山を信頼しているからで、影山が迷うことなく日向に早いトスを出すのも信頼しているからで。
知らず知らずにギュッと拳を作っていた。
しかし、いつまでもこんな風に見ていてもダメだ、伝えなきゃ。
キョロキョロと中を見渡すと、澤村を見つけて声をかけた。
「あのー澤村さん」
「ん?おお!眞島か!遂に入部してくれる気に「なってません「そうか…」
笑顔で近付いて来た後急にシュンと落ち込むから良心が傷んだ。
なんか烏野に来てから良心が痛んでばっかだ。
出そうになったため息を飲み込み、皆から集まる視線を無視し口を開いた。
「青葉城西の試合の件なのですが、俺の方の条件だけですが取り下げてもらえました」
「本当か!?」
「はい。バレーをしてないこととポジションはリベロだったと言うことをちゃんと伝えましたので」
伝える事は伝えたし帰ろうと頭を下げると視線を感じた。
「眞島!!入部するのか!!?」
ああ、やはり日向か。
キラキラと見つめてくる日向に違うと告げると思いきり落胆された。
「何だー?入部しねえのか?」
「田中、その顔ヤメロって」
威嚇全開の顔で近付いて来た田中先輩に頬が引き攣るのが分かった、え?俺なんかした?
困っていると、菅原先輩が助けに入ってくれた。
「田中はね、いい奴なんだけど女子にモテそうな人を見たらね…」
「モテそう?俺がですか?」
ないないと否定して田中先輩のが格好いいと正直な気持ちを伝えたら嬉しそうに肩を叩かれた。
え、いや本当に思ったし…じゃなくて話が脱線したな。
「と、とりあえずそういう事ですので」
愛想笑いを浮かべると体育館からそそくさと退室したのに。
「おい」
うん、視線にも近付いて来てるのにも気付いてたけど捕まえるの早いよ影山。
体育館を出てほんとすぐのところで影山に捕まった。
なんなんだと振り返ると眉間に皺を寄せる影山に思わず怯んだ。
「なんだよ」
「お前がバレーをしない理由を知りたい」
「あ、僕も知りたい」
「おい!影山!月島!」
誰かが二人を怒る声が遠くに聞こえる、しつこいな影山と思った時、俺の中で何かが弾けた感じがした。
「うるせえよ王様」
「あ?」
「俺がバレーをしない事でお前になんか迷惑かけんの?お前に不都合あんの?ないよな、別に。ならなんだ?興味本意?それならスッゴいウザイって事だけ言っとくわ」
ギロッと睨み付けると、影山がグッと唇を噛み締めた。
「……話すことなんかない」
そう言うと影山に胸ぐらを掴まれた。
「俺は!」
「………」
「俺は、コート上の鷹に…惚れてるんだ」
「………はあ?」
コイツは何を言ってるんだ。
呆気にとられていると、影山に睨まれる。
「初めて鷹を見た時、何て言うか全部持っていかれた感じがした。あんなに高く、あんなに鋭く、あんなに綺麗に打ち込む奴がいるんだって。いつか俺からのトスを打ってもらいたいって。だから、お前がバレーをしない理由が知りたい。お前がバレーをしてないのが悔しい」
皆、影山の言葉を黙って聞いていた。
「……俺も、知りたい」
沈黙の中、口を開いたのは日向だった。
「鷹は俺の憧れでもあるんだ。高く飛ぶその姿に憧れてるんだ」
真っ直ぐに見てくる二人が眩しく感じる。
そんな2人を視界に入れたくなくて、顔を反らす。
「影山、いい加減にしろって」
近くにいた縁下さんが影山の手を剥がしてくれる。
ぺこりと頭を下げると、逃げるようにその場を離れた。
――お前ほんと凄いよな!
ありがとう、努力の成果だ
――何でも出来て天才だな!
天才じゃない、どのポジションも出来るようになりたくて努力した結果だ
――お前は俺達の誇りだよ。よっ!エース!コート上の鷹!
まだまだ未熟だけど、そう思ってもらえて凄く嬉しいよ
明るい場所に1人ポツンと立っていた。
回りからは嘗ての仲間達の声が聞こえて来て自然と笑みが浮かんだ。
しかし少しすると急に回りは暗くなった。
そして聞こえて来るのは―
――何でこんな大事な時に怪我なんかしてんだよ!
悪い、でもわざとじゃない
――おいおい、相手無茶苦茶強いとこだぞ
頑張って飛ぶから
――全然飛べてねえじゃんかよ、あーもうお前にトス上げねぇわ
何で…俺はまだ!
――悪いな、落ちた鷹はいらないわ
俺はまだ、落ちてない…!!
「……!!?」
ハッと目が覚め勢いよく起き上がる。
ドッドッと素早く脈打つ感覚に胸を抑えた。
「………チッ」
嫌な夢を見たせいで汗をかいていた。
不快感を拭いたくて風呂へと向かった。
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