予選前
名前変更
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「皆、まだ居るー!?」
話が終わり暫くしてから武田先生が体育館に走り込んできた。
「遅くなってゴメン!会議が長引いちゃって…それで、出ました!IH予選の組み合わせ!!!」
武田先生に渡された予選表には、烏野と伊達工の名前が並んでいた。
1回戦、両方が勝ち進めば2回戦で当たる、それだけじゃなくうちの区画のシードにいるのは青葉城西だった。
その組み合わせに武者震いした。
「おい」
「!」
「さっき言ったこと忘れて無えよな」
「―わかってます。目の前の一戦、絶対に獲ります」
澤村さんの言葉に皆頷いた。
「あぁー!!!?」
片付けも終え部室で着替えていると突然大きな声が響いた。
「どうした龍!!」
声を上げたのは田中先輩だったみたいで、西谷先輩が近付く。
「こ、これ…」
「ん?……あぁー!!!?晴樹!」
「えっ!?」
呼ばれて驚いて振り返ると2人は雑誌を見ていた。
凄く嫌な予感がして冷や汗を大量に流していると皆が雑誌に群がりだした。
「ほんとだ!晴樹だ!」
「なになに?“コート上の鷹再び”?」
「“あの超高校級エースも認めたスパイカー”だって」
「え、ちょ、見せてください!!」
慌てて近寄り雑誌を奪うと目を見開いた。
中学時代の写真がでかでかと載っており、御丁寧に牛島若利のコメントも添えられていた。
内容を要約すると一度はバレーを辞めた鷹が再び復活したと聞いたので試合がしたい、なぜ白鳥沢に来なかったのか等々書かれていた。
(やっぱり…)
そりゃ及川さんに知られたんだもんな~そりゃ話広がるよな~あの人なんでか俺の事自慢気に話すもんな~そりゃ広がるよな~(二回目)
深い溜め息を吐くと同時に携帯が鳴った。
「ちょっとすいません」
謝りを入れて雑誌を返し、鞄に近づき中から携帯を取り出す。
「…………」
「どうした眞島、出ないのか?」
「………及川さんなんで出なくてもいいんです」
そう言って着信を切ると、再び携帯が鳴った。
今度は岩泉さんだった。
「はい」
『あっ、なんで及川さんの電話に出ないのに岩ちゃんのには出るのさ!!!晴樹ちゃん酷いよ!』
ギャーギャー電話越しに聞こえる声に苛ついてプチっと再び電話を切った。
「…………」
「あ~眞島、大丈夫か」
「……はい」
黙り込んだ晴樹を心配して澤村が声をかける。
返事をしたものの目付きが座ったままの晴樹に面々は頬を引き攣らせた。
再び晴樹の携帯が鳴ったので烏野排球部に緊張が走った。
これ以上晴樹の機嫌を損ねるような相手じゃありませんように!と願いながら晴樹が電話に出るのを見守った。
「……はい」
『晴樹!大丈夫か!』
「岩泉さん…!!」
電話の相手が岩泉だったことに面々はほっと息を吐いた。
『及川がすまない。アイツは再起不能にしておいたからな』
「うぅ…ありがとうございます」
岩泉さんホント神、思わず涙が出ちゃいますよ。
「それより、あの雑誌…」
『あー及川が自慢そうに話してるのをたまたま通りかかったウシワカに聞かれてよ。たまたま通りかかったバリボーの編集者の奴等にも聞かれてたみたいで色々聞かれてよ』
え、なんすかその偶然もうなんか仕組んでたようにしか思えないんですけど。
『とりあえず元凶は及川であることには違いない、悪いな』
「いえ!岩泉さんが謝る事ではないですよ!」
そこから少し他愛ない話をして電話を切った。
「岩泉さんか?」
「うん、元凶は及川さんだから悪いなって」
聞いてきた飛雄ちゃんに頷いた時再び電話が鳴った。
「ん?研磨だ」
「研磨!!?」
反応した翔陽に頷くと電話に出た。
「もしもし」
『もしもし、晴樹?雑誌見たよ』
「あ~うん、そっか」
そうだよな~販売されてるよな~
出そうになった溜め息を飲み込んだ。
『すっごく……格好よかった』
「え、あ、ありがと」
褒められて思わず照れてしまった。
『今度は中学時代のじゃなくて、今の姿の晴樹を載せてほしいね』
「え、う、うん。そうだな」
別に載りたくはないが研磨が楽しそうに話すからそうだなって思わず返事しちゃったよ!
そこから研磨とも少し会話して電話を切った。
「相変わらず人気者だねー鷹さんは」
「うるさいツッキー」
軽く睨むと溜め息を吐いた。
IH予選二週間、一週間前と時間は過ぎていった。
各々色々な思いを抱えながら練習に耽り、バックアタックや色々な攻撃パターンを考え、セッター組はスパイカーとの連係練習をしたりと過ごしていた。
そういえば、忠が嶋田さんにジャンプフローターサーブを教えにもらいに行っていた。
(俺も)
忠みたいにもっと向上心を持たないと。
もっと高く、もっと早く、もっと強く。
俺はまた飛ぶと決めたんだ、だから誰にも負けないように。
「ふぅ…」
流れる汗を拭うと、再びボールを手にした。
IH予選前日。
「―俺からは以上だ。今日は良く休めよ」
繋心さんの言葉に皆返事をし、練習が締められようとした時、武田先生から待ったが入った。
「あっ、ちょっと待って!もうひとつ良いかな!?清水さんから!」
その言葉に皆不思議そうに清水先輩を見た。
「………激励とか…そういうの…得意じゃないので…」
そう言って紙袋から黒い何かを取り出した。
「先生、お願いします」
「任せて!!」
2人は梯子を登って体育館の上段へ移動するとごそごそと黒い何かを広げ始めた。
「せーのっ」
黒い何かは布だったみたいで、武田先生の合図でバサッと手摺にかけられた。
「!!!」
それは飛べ、と描かれた弾幕だった。
「こんなのあったんだ…!」
「すげえ…」
烏野高校男子バレーボール部OB会からの物なのか下には名前が書かれていた。
「掃除してたら見つけたから、きれいにした」
「うぉぉぉ!!燃えて来たァァ!!」
「さすが潔子さん、良い仕事するっス!!」
「「よっしゃああ!!じゃあ気合い入れて―」」
「まだだっ」
盛り上がる田中先輩と西谷先輩に静かに澤村さんは近寄り、そう囁いた。
「多分―まだ終わってない」
澤村さんがそう言ったとき、小さく清水先輩の声が響いた。
「…が」
(が?)
「がんばれ」
頬を赤らめながらそう言い、恥ずかしそうに清水先輩は駆けていった。
それと同時に、3年生と田中先輩と西谷先輩の目からぶわっと涙が溢れた。
「清水っ…!!」
「こんなのハジメテッ」
その様子を1年は驚いた様に見ていた。
田中先輩と西谷先輩にいたっては言葉無くただ感涙していた。
「西谷先輩、良かったですね…!!」
何度も頷く西谷先輩に釣られ少し涙目になっていると後ろでツッキーが引いていたあの野郎。
「一回戦絶対勝つぞ!!!」
気合いの入ったその言葉に、皆勢い良く返事をした。
―翌6月2日、全国高等学校総合体育大会(通称インターハイ)
バレーボール競技 宮城県予選 1日目
(ついに、始まる)
気を引き締めると、家を出た。
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