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「おはよう、主」
「おはよう光忠」
翌朝、毎日の日課を終えてから朝食の準備をしていると燭台切がやって来た。
「今日は歌仙君も一緒なんだよ」
そう言った燭台切の後ろには、歌仙兼定が立っていた。
「………僕も料理は嗜むのでね」
そう言う歌仙に、桜は微笑んだ。
「そうだ、お二人に渡すものが…」
そう言うと、テーブルにあった段ボールを開封する。
「早速用意したんだ、料理本」
和食から始まり洋食、中華、更にはお菓子の本まで中には詰まっていた。
「君、これ…!」
「光忠に料理本を用意するって約束しただろ?」
「ありがとう!主!」
目をキラキラ輝かす燭台切に笑みが溢れる。
「勿論、歌仙さんも見ていいんですからね?」
「……本当かい?」
勿論と頷くと、歌仙は照れ臭そうにしていた。
「君、光忠君みたいに僕にも敬語使わなくていいんだよ」
「え?いいの?」
頷いた歌仙に、桜は笑った。
「じゃあ改めてよろしく、歌仙。僕の事も好きに呼んでね」
さてさて、料理を完成させようと言って朝食の準備の続きを始めた桜を見て、歌仙は笑っていた。
今日の朝もなるべくお腹に優しいものでいこう。
桜達が3人で献立を決めて手際よく調理を進めていると、パタパタと複数の走ってくる足音が聞こえて来た。
「あるじさまー!」
「主ー‼」
「はいはい?」
大広間の方に振り返ると、短刀達の中に昨日は見なかった3人が増えていた。
「………おはようちびっこ達。それに鯰尾、骨喰、鳴狐」
挨拶をすると皆は元気よく返事をしてくれた。(鳴狐はそのちっこい狐が話すのね)
「主、今日も美味しいものが食べれるって聞いたんだけど、本当?」
キラキラとした目の鯰尾に少し驚きつつ、笑う。
「美味しいかどうかはわからないけど、皆に美味しく食べてもらえるように一生懸命作るつもりだよ」
どうやら、短刀に紛れてやってきた3人は短刀達に何か話しを聞いてやって来たみたいだ。(序でに主と呼んでくれてるのがとても嬉しい)
「何か手伝う事はあるかい?大将」
そう言った薬研に頷く。
「大広間に、テーブルを皆で用意してほしいな。昨日みたいに。それが終わったら人数分のお箸の用意とかしてほしいな」
はーいと用意を始めた皆に思わず微笑んでしまう。
「主、顔がだいぶ緩いよ」
「……久しぶりに母性が溢れている気がするんだ、許してくれ」
燭台切のツッコミにそう答えると、料理を仕上げていく。
「久しぶりって…子供でもいたのかい?」
「んーまあ、昔はね~」
幾つもの世界を渡って、一応人生は全うして来た(途中で飛ばされたのは実は今回が初めて)ので、各世界で結婚と出産は経験して来た。(結婚しないと言い張る私に粘ってくれた歴代の旦那様に感謝………言っておくけど、◯ッチってわけではないからね!)
そんな事情を知らない2人は、桜の言葉を聞いて気まずそうにしていた。
「………雅じゃない事を聞いてしまったね」
「………え?」
そんな事に気付いていない桜は首を傾げた。
「…………あっ、そっか。2人をはじめ皆、僕の事情を知らないのか。後で話してあげる」
桜は笑い、食器の準備を終えた皆に手伝ってもらい、料理を運び始めた。
「さて、2人ともお疲れ」
朝食を食べた後、洗い物やら洗濯やらを手分けして行った。
2人は吸収がとても早く教えたことは何でも卒なくこなしてくれた。
そんな2人を労い、今はプチブレイクタイムだ。
綺麗に干された洗濯物達を前に、縁側でお茶を飲む。
「さて、2人……うん、2人には僕の話でもしよっか」
あちこちに隠れている様子の人達は放っておこう。聞かれて困る話でもないし。
「僕…えっと、私はまず200年位前の此処とは違う日本に産まれたのね」
「え、200年…?」
「此処とは違う…?」
「うん、200年且つ此処とは別。まあまあ、ツッコミたい所があっても最後にね」
その言葉に、2人は口を閉ざす。
「大学生の時に、いきなり『このゲームの付喪神なんですー、ちょっと一回死んで、この世界に来ませんか?』って頭おかしい奴が来てね、ちょっと色々飽きてた私は行ったんだよね、その世界に」
そこで私は鬼として、女ながら新選組隊士として戦い抜いて最後は結婚して子供を授かり人生を全う、次に目覚めたら赤子でどうやら別世界に生まれ変わった、ってのを転々として、ここに来る直前までは戦国時代で伊達家の忍者として生きてたんだー。
淡々と話をし終えた桜に2人が思わずツッコミを入れてしまったのは仕方がない。
「え、なに?君頭おかしいの?」
「失敬な!全部事実だからね!」
「雅じゃないね」
「いやいや、本当なんだから!」
僕が持ってる神気は、転々とした時に毎回神様に会ってたから宿ったって言ってたよ!
必死に説明する桜を2人はジト目で見ていた。
「忍者の説は信じてよねー。じゃないと分身なんか出来ないでしょー?」
不貞腐れる桜だったが、2人は確かに分身して刀達を手入れ部屋に運ぶところを見ている。
「……本当なの?」
「本当だよ?」
問いかけに桜が頷くと、あっちこっちでガタつく音がした。
「……………とんでもない、とてもぶっ飛んだ話ではあるけど、僕達の本丸には凄い主が来たんだね」
「ぶっ飛んでる分、暇しないかもよ?」
桜は笑った。
「それに、僕が渡って来た世界は1つズレてるパラレル的な所もあるから、君達が知ってる主とは違う所もあるかもだけど、そのズレた話は面白いかもしれないよ?」
「ズレてる?」
「だって…僕が此処に来る直前まで仕えてた光忠の持ち主は、刀を6本持って戦うんだよ?」
「…………確かに、僕が知ってる政宗公とは違うね」
「一番初めに言っていた新選組の話も、鬼がどうこうと言っていたけど、そんな話聞いた事ないしね」
「でしょ?信憑性増して来た?」
その問いかけに、2人は頷いた。
「何か聞きたいことがあれば、答えれる範囲では話すし、どんどん聞いちゃってね」
桜は周りをぐるりと見渡して、もう一度笑った。
「ああ、ここにいたのか大将」
縁側でこんのすけをもふもふしていると、声をかけて来たのは薬研だった。
「あ、薬研。どうしたの?」
ついでにその白衣と眼鏡はなんだと言いそうになったが、そこは飲み込んでおく。
「昨日言ったみたいに、色々と教えてもらおうと思ってな」
「あ、言ってたね。何から教え…よし、医療系を教えようか」
桜は少し悩んだ後、そう言った。
決して服装で決めた訳じゃないよ?
「医療か…うん、いいな。もし大将が怪我しても俺が手当てしてあげれるもんな」
「薬研…!」
ニッと笑う薬研が男前で私は、私は…
「大将?」
「あ、ごめん。ちょっと待ってね」
医療の本を出そうと巾着を漁っていると、こんのすけが目を輝かせていた。
「本日は、薬研殿が近侍となるのですね!」
「……近侍?」
桜は首を傾げた。
近侍って確か、その日の助手みたいなやつだよね。
別に仕事を手伝ってもらうわけじゃないし、近侍って訳でもないんだけどなぁ…
こんのすけの言葉には返事をせず、見つけた医療の本をどんどんと巾着から出す。
薬研君、そんなに変な目で見ないの。
「あの、主さま?」
「ん?ああ、近侍ね。近侍かぁ。どうなんだろうねえ」
こんのすけの呼び掛けに適当に返事を返していると、薬研がニッと笑った。
「大将、ずっと俺が近侍しててもいいぜ?」
「え?」
「大将の近侍って、なんか面白そうだし」
「………そう?」
桜の言葉に薬研は頷いた。
「んー正直、近侍を付けるつもりは無かったけど、やりたいって言ってるのを拒否するつもりはないよ」
そう返事をすると、バタバタと大人数が走ってくる音が聞こえた。
「主君!」
「僕たちも!」
「近侍!」
「したい!」
やって来たのは元気の良いちびっ子達だった。
「え、皆も近侍したいの?」
コクコクと頷くちびっ子達に、桜はほっこりとする。
「したいなら、良いよ」
「やったー!」
喜ぶちびっ子達に明日からの順番を決めておいてねと伝えると、遊んでおいでと送り出した。
「元気で良いねえ」
「大将、顔が緩々だぞ」
「仕方ない。癒されたからね」
桜はそう言った後、気持ちを切り替えて医療の本を積み上げた。
「さて、やろっか薬研」
纏う空気の変わった桜に、薬研も気を入れなおして頷いた。
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