本丸での新生活
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(燭台切光忠は、主夫だな主夫)
私への興味と監視もあるだろうから接触してきたんだろうと思っていたが、少し話していてそれ以外にも思った、彼は根っからの主夫気質がある。
ならば彼に一通りの家事を教えると良いのかもしれない。
桜はその後、洗濯機の使い方を教え、髪の毛をしっかり乾かすためにドライヤーの使い方も教え、次に料理を作りながら台所の使い方を燭台切に教える。
飲み込みが早くてとても助かる。
「これ位でいいかな?」
「うん、だいぶ柔らかくなってるだろうし、初めてでも食べやすいと思うよ」
桜は野菜たっぷりの雑炊を見て微笑んだ。
「これは何の匂いだい?」
そう声をかけてきたのは、薄紫の髪でちょんまげが似合う青年、歌仙兼定。
「野菜たっぷりの雑炊だよ。今から皆で食べるからね」
桜の言葉に歌仙は目を丸くしていた。
「………皆で食べるのかい?」
「そう、皆で食べるんだよ」
燭台切は嬉しそうに返事をすると、大広間にテーブルを用意している桜の手伝いをする。
「よし。こんのすけ、何回もごめんね。他の皆を呼んできてもらっていいかな?」
「勿論です!」
ぴょこぴょこと走り去るこんのすけを見て微笑んでいると、ハッとした様子の歌仙が近づいてきた。
「………何か手伝うことはあるかい?」
余所余所しい態度に彼は人見知りの気があるなと考えつつ、にっこりと笑った。
「ならば、光忠と一緒に土鍋を運んでくれないです?熱いから、気をつけてね」
「わかった」
桜の言葉に歌仙は頷くと、燭台切に近づいて土鍋を一緒に運ぶ。
食器の用意なども終わった時、ぞろぞろと皆がやってきた。
「主さま!皆様を呼んで参りました!」
「ありがとう、こんのすけ。さてと…皆さん、適当な場所に座ってください。ほらほら文句言うのは後にして」
桜に対し悪態を吐くものがいたが、一々気にしていられないと座るように促す。
全員がなんとか座り終えたのを確認し、燭台切を見て頷くと、土鍋の蓋を開く。
「うわぁ…!」
漂ってくる匂いに、短刀達は目を輝かせ、それ以外の面々も唾を飲み込んだりと様々な様子を見せていた。
「食事は元気の源です。しっかり食べないと強くはなれません。これ以上強くなる必要はないって方もいるかもしれませんが、人型でいるならば食事は行った方がいいに決まってます。なので…皆でご飯を食べましょう」
桜はにっこり笑った。
その後、器に取り分けた雑炊を配り終え、周りを見渡す。
「光忠から食事は行ったことが無いと聞きましたので、胃を驚かせないように雑炊にしました。熱いのでどうぞ気をつけてお召し上がり下さい。では、いただきます」
桜が手を合わせてそう言うと、燭台切も真似をして食べ始めた。
困惑していた面々も、食欲が湧いてきたのか真似をするように手を合わせ、雑炊を食べ始めた。お行儀が良くて大変よろしい。
(ああ…お母さんやってる気分)
特に、短刀達が幸せそうにご飯を食べているのを見ていると母性が溢れてくるね。小さい子は無邪気に食欲旺盛で元気なのが一番。
ホクホクした気分で食事を終えると、他の面々も食事を終えていた。
あっという間に土鍋の中はすっからかんになっており、気持ちよかった。
「皆様に食べていただけて良かったです。これからは三食きちんと食べましょう」
勿論、無理強いはしませんからね。
生活が安定するまでは、関わらないと言った事を撤回するのでよろしくお願いします。
そう言って食器の片付けを始める桜を、短刀達がキラキラとした目で見ている事は気付かなかった。
(なんだかんだとしていたら、すっかり夜だ…)
桜は本日の報告書を部屋で作成しながら欠伸を1つした。
「本日の出来事は…皆の生活改善活動開始ってところかな」
提出先は神山らしいし、適当でいいだろうとタブレットに文字を打ち込み、送信する。
その作業を終えると、いそいそと通販サイトを開く。
(光忠に料理本と一緒にお菓子の本も渡してみよう)
そう思って片っ端からカートに入れていく。
結構な量になった事に関しては気にしないでほしい。
ポチリと購入ボタンを押すと、明日お届けの文字にちょっとブラックな空気を感じたが、管轄外なので心の中でごめんなさいと謝っておいた。
「やっぱり、止めようよ…」
「ここまできたんですし、いいじゃないですかー」
「でも…」
部屋の前で幼い声が複数聞こえる。
序でにペチペチと結界を叩く音もする。
「……………」
桜は少し考えた後、襖に近寄って開くと同時に結界を解いた。
「うわっ⁉」
その直後、驚いた様子の声と同時に複数の子供が倒れこんで来た。
「え、ちょっ」
桜は慌てて受け止めようとしたが、受け止めきれるわけもなく一緒に倒れこんだ。
「け、怪我ない⁉」
慌てて子供達を見る。
既に何回も会ってる五虎退を筆頭に複数人の短刀がいた。
「ったく…早く上から退かないと、困ってるぞ」
少し離れた場所に立っていた黒髪の少年が、呆れたように言う。
「お気遣い、ありがとう。薬研藤四郎君」
薬研の言葉に皆が慌てて立った後、お礼を言うと気にしなくていいと微笑まれた。イケメンだな。
「さて、どうされました?もう夜も遅いですよ」
刀剣に大人になるなどの意味合いの成長はないかもしれないが、よく寝てよく食べないと成長しないぞ。
桜が首を傾げると、全体的に白い少年が一歩近づいて来た。
「きょうたべたごはん、とってもおいしかったです!」
「へ?…ありがとう。今剣君」
「明日も食べれるの?」
「勿論、ご用意しますよ。乱藤四郎君」
キラキラした目の二人にそう答えると、周りにいた皆も目を輝かせた。
よく見れば今本丸にいる短刀達皆揃ってるじゃないか。
「暫くは僕から光忠へと生活のイロハをお伝えして、光忠が色々覚えたら僕は身を引くつもりですが…」
今後のことを伝えると、皆が少し不満そうになった。
「主君は、作ってくださらないのですか?」
「………僕のご飯でいいのですか?僕はあの女と同じ人間ですよ」
前田藤四郎の言葉にそう答えると、後ろにいた薬研が口を開いた。
「大将があの女と違うことはこの1日、2日で皆分かってる。素直になれなくて悪態を吐いてしまうだけでな」
「………」
嬉しい言葉だ。
同じ人間という括りなのに、あの女と違うと言われてここまで嬉しい気持ちが溢れるとは思わなかった。
「あるじさま…?」
黙ったままの桜を不思議そうに皆は見る。
「…ごめんなさい。あの女とは違うって言われて、かなり喜んでいました。貴方達が望んでくださるのなら、今後も食事を用意させて下さい」
桜のその言葉に、皆は喜んだ。
「それよりも、無理して僕の事を主なんて呼ばなくてもいいんですよ?」
「誰も無理なんてしていない。それぞれがあなたを自分の主だと認めたから、そう呼んでいるんだ」
「ついでに、敬語じゃなくてもいいんだぜ?主さん」
小夜左文字と愛染国俊の言葉に思わず感極まったのは許してほしい。
「嬉しい事ばっかり言ってると…撫でくりまわすよ!」
桜がそう言って短刀達を抱きしめると、きゃー!っと皆から子供特有の喜びの声が漏れた。(小夜は静かにしていて、薬研には避けられたけど)
「さてさて、もう寝る時間ですよ。わざわざ会いに来てくれてありがとう」
僕の事、好きに呼んでいいからと伝えて、皆を部屋に返した。
「そうだ、大将」
「はい?」
帰る前に振り返った薬研に首を傾げる。
「明日から、俺にも色々と教えてくれよな」
そう言った薬研に頷くと、嬉しそうに去っていった。
「…………皆、良い子」
桜はほっこりした気持ちでそう呟くと、結界を張るのはもう止めにして、そのまま眠ることにした。
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