本丸での新生活
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(とりあえず、皆の行動パターンを覚えよう。なるべく姿を見せないようにしないと、彼等も落ち着かないだろうし)
そう決めて1つ頷くと、疲れた心を癒す為に神山から貰ったアルバムを開いた。
「ああー!ほんと、愛姫様可愛い…!!」
アルバムには愛姫を始め、桜が今までの世界で可愛がってきた仲間、家族等の写真が入っていた。
(癒される、やばい、可愛い………会いたいな)
感傷に浸りかけ、ダメだダメだと首を振ると、立ち上がった。
(とりあえず、部屋を荒らされたく無いから結界はそのままにして…)
ご飯でも食べるか。
丁度時刻は昼過ぎ、こんのすけもお腹を空かせているかもしれない。
周囲の気配を確認して誰にも遭遇せずに台所にやってくると、袖を捲る。
(戦国時代から現代に戻ってきたんだし、肉を食おう肉を)
肉をあまり食べない時代から、肉を食べれる時代に来たら、どうしても反動で肉を沢山食べたくなる。
新たに発注した業務用冷蔵庫から食材を取り出す。
今日はがっつり牛丼でも作ろう。
出した食材をそれぞれ調理していく。
既に匂いが良い。我ながらどんどん料理の腕は上達していると思う。
上機嫌で調理を進めつつ、先程から気になる気配に声をかけてみる。
「何か御用ですか?姿を見せないんじゃねえのかよってお小言は一旦無しでお願いしますね。僕も食事をしたいので」
振り返らないでそう伝えると、ガタリと音がした。
驚いた拍子に襖か何かに当たったのだろう。
特に気にせず料理を仕上げると、丼とこんのすけ用の油揚げを手にテーブルへと移動する。(間取りとしては、大広間の横に台所があり、4人が座れる位のテーブルもある。大広間には折りたたみ式のローテーブルを出せる仕様だ)
「貴方は…燭台切光忠さんですね。どうされました?」
「あ、いや…その…誰かが料理をしている音がしてね」
そういえば彼は料理が趣味の伊達政宗公の刀だ。
襖の向こうからこちらを見る彼に桜は笑う。
「貴方も政宗公のように料理をされるのですね」
「えっと…」
あまり敵意の感じられない彼にそう問いかけると、困った様に視線を逸らされた。
「実は…ここに来てから厨に立ったことは一度も無いんだよね」
この体になって、沢山料理が出来ると思ったのになと呟いた彼の言葉に、前の審神者に対して再び殺意が湧いたが、ここは抑えよう。
「これから、沢山料理を作れば良いですよ。貴方が望むのなら、料理本を沢山ご用意致しましょう」
「えっ!本当かい!」
パッと目を輝かす燭台切に、頷く。
「あーでも、その前に…」
言葉を濁す燭台切に首を傾げる。
「改めて、僕の名前は燭台切光忠。よろしくね、主」
「………僕のことは主なんて呼ばなくても良いですよ、燭台切さん」
「そうはいかないよ。君はこの本丸の主人になるんだろう?」
譲りそうにない燭台切に、溜息を吐く。
「好きな様に呼んでください」
自分は基本下に付く人間なので、慣れない。だけど彼に呼び方は任そう。
「僕の事も好きに呼んでほしい。それに、敬語で話さなくてもいいさ」
「え、ほんと?じゃあ遠慮なく」
桜はにっこりと笑った。
「ねえ、燭台切さん」
「……………なんだかしっくりこないね」
「……光忠さん」
「うーん……」
「……………光忠」
「なんだい?主」
好きに呼べと言ったのに、敬称を付けさせてくれないなんて、なんて奴だ。
「えっと…あの人間のこと、ほじくり返して申し訳ないんだけど、ちょっと教えてほしい事がある」
桜は牛丼を食べたそうにしている燭台切に牛丼を分け与え(冷蔵庫が壊れていたから食事を抜いていた可能性もあるので、胃が驚かない様にお出汁を入れてかなりふやかした)、こんのすけを呼んで油揚げを渡しながらそう言った。
「………僕に答えれる事なら」
真剣な顔してるけど、口元にご飯粒付いてるよ伊達男。
桜は自分も牛丼を食べながら、最低限の質問をした。
あの人間から食事はさせてもらっていたのか、風呂には入っていたのか。
その質問に、燭台切は首を横に振った。
刀剣は食事をしなくても問題ない、そんな理由で食事はさせてもらえなかった。
お気に入りの刀は一緒に風呂に入らされていたが、それ以外は濡らした手拭いで体を拭いたりはしていた。
お気に入りの刀も、結局入れられている状態だったので、現在の本丸にある設備(シャワー等)の使い方が分からず一人では入れない。
燭台切が語った内容に、想像より酷かった内容に、桜の中に再び怒りが湧いてきた。
(あの女、やっぱり殺した方が良かったな)
物騒な事を考えてしまうのは今まで戦いに身を投じる事が多かったからなので、許して頂きたい。
「…………決めた」
「え?」
「主さま?」
牛丼を食べ終えた桜がポツリと呟いた言葉に、1人と一匹が注目する。
「風呂、入るよ。それから皆でご飯も食べよう。関わらない様にするみたいな事言ってたの、一旦取り消す。僕は君達がまずマトモな生活を送れる様にする」
そう意気込む桜に、燭台切は目をパチクリとさせた。
「良い?光忠、今から言う僕の計画聞いてね」
「は、はい」
「まず、君達皆にお風呂に入ってもらうから。入り方は僕から教える。光忠を見本にしたいから、よろしく。次にご飯。僕が作ったのは食べたくないかもだから、光忠が手伝ってね。これからの為に台所の…厨の使い方を教えるから、こっちも手伝ってほしい。いい?」
桜の勢いに、燭台切は只々頷いた。
「こんのすけ!」
「は、はい!」
「皆を風呂場に集合させて!」
よろしくねと伝えると、燭台切の手を掴んで風呂場に向かう。食器は後で洗います。
風呂場に着くと、燭台切にタオルを渡す。
「服を脱いで、腰にタオル巻いて。僕はお湯を溜めるから」
「え、あ、ちょっと!」
後ろで光忠がなんか言ってるけど無視無視。
風呂場に入った桜は湯船にお湯を溜める。
「主さま!皆様を連れてまいりました!」
「ありがとう、こんのすけ」
桜はこんのすけに礼を言うと、脱衣所に向かう。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
ざわついていた皆は、桜の声に静かになる。
「俺達を集めてどうするつもりだ。遂に本性を現したのか…!」
刀を抜こうとする真ん中分けの男、へし切長谷部に桜は掌を向けてストップをかける。
「本性云々の話は後で、皆様1人1人はそこまで気にならなかったのですが…集まるととても臭いですね」
「ちょと、直球すぎだよ君…」
溜息を吐いたのは腰にタオル一枚巻いた燭台切だった。
「仕方ないです、事実ですから。さて…皆様にはここにいる彼の様に服を脱いで、腰にタオルを巻いてもらいます。そしてお風呂に入ってもらいます」
お風呂に入ってもらうとの言葉に、少し騒ついた。
今まで入ったことが無いから、突然の事に戸惑っているのだろう。
「いいですか。人の形を成したなら、風呂に入って身形を清潔に保ち、食事をして適度な運動をして健康を保つのが一番だと僕は考えてます。なので、兎にも角にもお風呂に入って、この後食事をしてもらいます」
桜はそう言って笑った。
「僕は、貴方達がマトモな生活を送れるようにしたいのです」
そこんとこ、よろしく。
そう伝えると、静寂が訪れた。
馬鹿らしいと思った何人かが出て行こうとしたがその可能性も考えていた桜が先手を打って脱衣所の出入り口を念で封鎖して出られない様にしていた。
別世界で手に入れた力の無駄遣いだって?気にしない気にしない。
他にも刀剣達から悪態が聞こえたが無視無視。
桜は燭台切を連れて風呂場に入ると、先にお風呂の入り方を教え始めた。
「いいです?先ずはここを捻るとお湯が出て、こっちが水」
シャワーの使い方から、頭の洗い方、湯船に浸かる前にかけ湯はすること等を教える。
気持ちよさそうな燭台切を見てほっこりしていると、ワラワラと皆が入ってきた。
「光忠、何人かに入り方を教えてあげて。で、教えた相手にまた次の人に入り方を教える様に伝えてほしい」
「わかった」
「今まで貴方達が着ていた服は洗濯するから、一旦回収するね。着替えは適当に置いとくから」
桜はそう伝えると、脱衣所に移動する。
こんのすけにも手伝って貰って全員分の服を回収、その後に着替えを用意した。(巾着便利)
かなりの量で若干前が見えないが大丈夫だろうと、とてとて歩いていると、突然視界が良好になり少し軽くなった。
「………もう出てきたの?」
「君の手伝いをしようと思ってね」
ちゃんと入り方は教えたよと言って笑ったのは、洗濯物を半分以上待ってくれた燭台切だった。
「こんな沢山の量、一人で無茶したらいけないよ」
「んー…ありがとう」
桜は笑った。
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