本丸へ
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「あー疲れた」
「主さま!お怪我は⁉ご無事ですか⁉」
騒ぎたてるこんのすけを抱き上げると、無事であることを告げる。
「いやー、ごめんね?そこそこ久しぶりの機械だからテンション上がってしまって」
悪びれることなくそう告げると、本丸内に戻る。
遠巻きから見てくる霊体達は無視だ。
その後はお腹が空いた事もあり、厨に備え付けられている冷蔵庫を見たがそもそも壊れていて機能していなかった。
ため息を吐くと、本丸に支給されているタブレット起動して、通販サイトに繋げる。まあなんて便利な事で。
新しい(業務用の特大)冷蔵庫と、ある程度の食材やその他諸々を頼むと、腰にしていた巾着を漁り、ある物を取り出す。
「じゃじゃーん」
「主さま、それは…?」
不思議そうに見てくるこんのすけに、ニッと笑う。
「現代人…僕は現代人なのか?まあ、いいや。兎に角、現代人の味方のカップ麺だ」
今日は赤いうどんだ。
鍋で湯を沸かせて数分待ち、出来上がると蓋をあける。
久しぶりのカップ麺に感動したのはここだけの話だ。
こんのすけには一緒に取り出していた油揚げをあげた(かなり喜ばれて何よりだ)
(結局影分身はもう使えないみたいだし、残念だな…)
そんなことを考えながらうどんを啜っていると、足元に気配を感じた。
「ん?」
視線を落とすと、そこには半透明の虎がいた。
「こんのすけ、この子はどこの子?」
「その虎は、五虎退さまの虎かと!」
はぐはぐと油揚げを頬張りながら答えたこんのすけにふーんと返事をすると、広間の遠くの出入り口からこちらを覗く一人の少年がいた。
「……君、この子の?」
問いかけると驚いた表情になり、あたふたとした後涙目で頷いた。
ごめん、なんかわからないけど謝るから泣かないで。
「あー、なんもしないし、おいでよ」
そう言って手招くと、少し考えた後ゆっくりと近づいてきた。
(えっと、五虎退はっと…)
小心者、臆病、泣き虫。
刀帳なるものの横に添えられているメモの情報を見て、おやっと考える。
いくら虎を引き取る為とはいえ、臆病なのにこうやって近づいてくるとは…何か興味が唆られるものでもあるのかな?(もちろん、私以外に)
そう考えていると、虎を抱き上げた少年はジッと桜の手元を見ていることに気づいた。
「君、五虎退君で合ってる?」
ビクッと肩を震わせた少年は数歩離れた後、頷いた。
「今更だけど、かなり手荒なことしてごめんね。傷の調子はどう?良くなってきた?」
まだそんなに時間は経っていないけど、多少は回復に向かっているだろうと考えての問いかけだった。
桜の言葉に、五虎退は少し考えた様子を見せた後、頷いた。
「なら良かった」
桜は微笑むと、うどんを啜る。
そしてちらりと五虎退を見ると、やはり手元を見ていた。
「………食べる?」
「⁉」
その言葉に驚いた五虎退は全力で首を振ると、全力で走り去っていった。
残された桜は少しポカンとした後、まあいいかと食事を続けた。
「さて」
食事を終えた頃には既に夜になっていた。
「こんのすけ、風呂に入るか」
「お風呂、でございますか?」
「あんたも随分汚れてるから、綺麗にしてやるよ」
ニッと笑って抱き上げると、感極まって声にならない声を上げていた。なんだこいつ。
風呂場について中を見ると、随分と広かった。
銭湯のようになっており、おそらく刀剣男士が一気に入れるような仕様になっているのだろう。
「贅沢だなー」
関心しつつ、風呂を入念に洗うと湯を溜める。
自身も風呂に入るために止血していた布を取ると、結構な傷になっていた。
「………」
まあ、仕方ない、これも名誉の勲章だと思い込む(愛姫様達を守るために、元々傷は多い体だったし)
忍装束を脱いでいくと、こんのすけから待ったが掛かった。
「あ、主さま!お待ちください!」
「え?何?」
胸の晒に手を掛けるポーズで不思議そうに見ると、タオルを向けられていた。
「そ、その、主さまは女性なのでしょうか…?」
「あー、そっか。一応女」
そう答えると、一際大きなこんのすけの悲鳴が上がった。
「ごめん、隠してるつもりは全然なかったんだよ?髪の毛長いし、わかるかなーって。ごめんね?ほら、出ておいで?」
タオルに包まって「私は、私は」と呟くこんのすけに謝っていると、複数の気配がした。
こんのすけの声に集まってきたのだろう。
にゅっと扉の向こうから姿を現した刀剣達は、上半身裸(晒はまだ巻いている)の桜を見て固まっていた。
「…………神様も助平だね」
いつまで見てんの、と言えば慌てて出て行った。
一つ溜息を吐くと、残りの服も脱ぎ捨て、未だ隠れるこんのすけをタオルごと持ち上げた。
「とりあえず、汚いのどうにかしないとダメだから、入るよ」
まだこんのすけは何か騒いでいたが、知ったこっちゃない。私は汚いのは嫌いだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと!」
慌てて帰ってきた仲間達は、自分と所縁のある者のもとへ戻ってくると、頭を抱え出した。
一体なんなんだとその様子を見ていると、1人の仲間がポツリと呟いた。
「女人だった…」と。
その言葉に、今度は皆の驚きの声が上がった。
「んーお風呂も入ってさっぱりだ」
わしゃわしゃと気持ちよさそうにしているこんのすけを拭きながら、空を見上げる。
(とりあえず、審神者の捕縛は終わった、浄化も完了、手入れは現在進行中、刀剣達が望まないなら自分で出陣すればいいし、どうにでもなりそうだな)
そう思い、フッと笑った。
どこの世界に行っても戦いとは離れられないみたいだ。もう慣れてしまったが。
「よし、拭き終わったぞ……こんのすけ?」
動く気配がなかったので様子を見ると、どうやら眠っているようだ。
桜は微笑んで抱き上げると、とりあえず今日の寝床にしようとしていた部屋に向かった。
布団を用意してこんのすけを先に横たわらせると、手入れ部屋に向かった。
「調子はどう?」
ポンポンと手入れを続けてくれている式神達に問いかけると、グッと親指を向けられた。
「ありがとうね、でも君らもしっかり休むんだよ」
式神達に自分の霊力を分けると、ちらりと周りを見た。
来た時に比べて随分と大人しく見えるのは気のせいではないみたいだ。
「随分と大人しくなりましたね。僕が女と知ってですか?」
そう言葉をかけると何人かが肩を揺らした、ちょっと意外だ。
「まあ、その辺りはお気になさらず。もう何百年と戦い続けてますので性別なんかどうでもいいですよ」
桜がそう言って立ち上がると、恐る恐る近づいてくる気配があった。
「君は…五虎退君だね。どうしたの?」
そう問いかけると、手元をジッと見つめて来た。
「…………怪我?」
そう尋ねると、コクリと頷いた。
「これくらい、大丈夫だよ。貴方達が人間を拒絶するのは当たり前の事です。貴方達に限らず、嫌なことをされたら相手の事を拒絶するのは当たり前の反応です。どうか気にしないで」
桜はそう言って微笑んだ。
(え、なんでこの子涙目が増してるの)
今にも溢れちゃう、涙溢れちゃうよ、落ち着いて。
桜が困っていると、青い髪の青年が近づいてきて五虎退をそっと抱き上げた。
きっと彼が保護者なのだろう。
「とにかく、僕は寝るとします。手入れが終わるまでは霊体のままなのをお許しください」
桜はぺこりと頭を下げると、その場を去った。
その姿を、刀剣達は黙って見ていたが、ポツリと誰かが呟いた。
「何百年も戦っているとは、どういうことだ…?」と。
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