最後の戦い
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「こんのぉおお!」
「ぐっ…無駄に数を増やすと、的が増えるだけだというのに…」
そう言いながら老女に振り払われ、桜は遂に手を離してしまった。
(くっそ…刀は……⁉)
分身達のダメージも体に受け、焦点が定まらない。
だが…最後は手の中に感じていたものが無くなっていた。
恐らく、埋まったのだろう。
「主!」
地に打ち付けられる前に誰かに受け止められ、視線を向けると目に入ったのは髭切だった。
「髭切…ありがとう」
「桜をこんなにして…許さないよ」
鬼の形相を浮かべる髭切に苦笑すると、その腕を掴む。
「髭切、貴方が鬼になってはダメ。それより…お願いがあるの」
「……なんだい、主」
老女を睨みつけながらも、こちらに返事をする髭切の掌を握る。
「少し…力を分けてほしい。さっき、刀に注ぎすぎちゃってね」
所謂、神気・神力を分けてほしいと髭切に伝えると、髭切は微笑んだ。
「それくらい、お安い御用だよ」
「主、俺の力も分けよう」
駆け寄ってきた膝丸にも手を握ってもらい、力が分けられる感覚に息を吐く。
「今度は何をするんだい?」
面白そうにこちらを見る老女に、フッと笑う。
「あんたがそうやって余裕ぶってる間に…わかるよ」
桜は二人の肩を借りて立ち上がると、掌を老女に向けた。
「私の神気があんたの中で溢れたら…どうなるだろうね?」
「なんだって……まさかっ」
老女は自分の腹部に埋まった短刀を見た。
「そのまさか、ってね!!」
桜がグッと手を握ると、刀に込められていた力が老女の中で弾けた。
「ぐっ……がぁああっ」
悲鳴を上げる老女の体に、ひびが入っていく。
ひびからは光が溢れており、老女が動くたびにひびと光は増えていく。
「この…小娘が………!」
「小娘にしてやられた気分は、どうよ」
こちらを睨みつける老女に、ニイッと笑うと駆け出す。
「主!?」
「その体では無茶だ!」
後ろで二人が声を上げたが、振り返らずに老女へと向かう。
「そろそろ終わらせたいところだし…大人しく、やられろ!」
「ぐぁあああぁ!」
懐から取り出した札を手に幾つも貼り付け、力を込めて短刀が埋まる腹部に突き出した。
札の効力もあり、老女の体は更にひび割れていく。
桜は拳を抜くとふらりと後ろへ倒れそうになったが、誰かが受け止めてその場から距離が取られる。
「随分と無茶をしたものだ」
「三日月…まあ、少しくらい無茶をしなくちゃね」
笑みを浮かべる三日月にそう答えると、老女を見た。
断末魔を上げて崩れ去っていく体。
それは徐々に消えていき…最後は跡形もなくなった。
「や、やられた…」
「嘘だろ…あんたがやられたら誰が歴史改変をするんだ!」
老女と共に行動をしていた歴史改変主義者の人物達が次々と声を荒げる。
既に捕らえられているから良いものの、野放しにしてたら好き放題に暴れ出したかもしれない。
三日月に支えられながらチラリと周りを見渡すと、時間遡行軍も根絶やしにされ他の本丸から来ていた審神者達は刀と共に勝利に喜んでいた。
「歩けるか?」
「うん、少しだるいけど」
「そうかそうか。ならばじじいが運んでやろう」
「え?」
何を言っているのだこいつはと思っていたらヒョイっと横抱きにされた。
「ちょ、恥ずかしいから降ろしてくれ!」
「なに、よいではないか」
「いや、よくない!」
抵抗するが三日月はただ笑うばかりで降ろしてくれる気はなさそうだった。
深い溜息を吐いて好きにさせていると、本丸の皆が集まる場所へと降ろされた。
「あ、主…」
声をかけられ、周りを見る。
皆、傷付きながらも最後まで共に戦い抜いた大切な刀で誇らしい仲間。
「皆…ありがとう。皆のおかげだよ」
そう言って微笑むと、感極まった面々に飛び付かれて体が痛かったがここは我慢しよう。
暫くそうして皆と戯れていると、政府の人間がやってきた。
後始末をする人々の間を抜けて、こちらへやってきたのは神山だった。
「お疲れ様」
「…うん」
「凄く助かったよ」
そう言って笑う神山を殴ってやろうかと思ったけど、今日はやめておいた。
本当に感謝しているように見えたからだ。
「さて、遡行軍も根絶やしにした事だし各本丸の今後の話をしないといけないのだが…君のところは最後に話そうか。今はゆっくり体を休めておくれ。後日、そちらにお邪魔させてもらうよ」
「ならば、お言葉に甘えて…疲れたし今日は帰らせてもらうよ」
桜は周りの手を借りて立ち上がると、ひらっと手を振り皆を連れて本丸への帰路についた。
その背を見て神山は微笑むと、テキパキと動いている部下達を見た。
数日後、諸々の処理を終えた神山が本丸へと来ていた。
人払いをしており、自室には神山と二人だ。
「さて、改めて今回は凄く助かったよ」
「どういたしまして。まぁ…私はあんたの眷属みたいなものだからね」
「それでも、嫌ならば断ればいいんだよ」
「……出来ないの、知ってるくせに」
目の前でニコニコと笑う神山に対してため息を吐いた。
「そうだね、君は出来ないね。優しいから」
「……うるさい」
桜は神山を睨むと、お茶を一口飲み「ふぅ」と息を溢した。
「…あの後、歴史改変主義者や遡行軍は?」
「主義者の人たちはまだ政府に捕らえているよ。色々と聞くことがあるからね。遡行軍は今のところ発生はしてないかな」
「そう…よかった」
桜が微笑むと神山も笑った。
「あ、そういえば君に手紙を預かってきてたんだった」
「手紙?」
神山は胸元から手紙の束を取り出した。
それを受け取ると、微笑んだ。
有明や梔子、他に助けに行った本丸の刀達からだ。
「また読ませてもらうよ」
そう言って机にそっと置くと、気になっていたことを聞くことにした。
「以前言っていた、各本丸の今後の話、聞かせてもらえる?」
「うん、説明するよ」
そう言って話し出した神山の話を無言で聞く。
戦いが終わった今、審神者と刀達には幾つかの選択肢があるようだ。
一つ、審神者の寿命が尽きるまで今のまま過ごす
二つ、本丸は解散。審神者も刀も本来の場所へと還る
三つ、恋仲関係にある場合は互いの合意のもとその刀の神域へ
などなど。
大体は今のまま過ごす本丸が多いみたいだ。
「そうそう、君の場合は…前回の世界へ帰るって選択肢もあるね」
「前回の…愛姫様!」
「そう。その世界」
私は今回、転生ではなくトリップに近い状態でこの世界へときた。
仕えるべき主を残して。
また会える事に喜びが湧いたが、胸に引っかかりもあった。
「もし、私が戻る場合……この本丸は?」
「………二つ目の選択肢、解散という形になるかな」
「そっか」
目を閉じ、愛姫達のことを思い浮かべて、この本丸のことを考える。
「さて、どうする?この世界に来た当初、愛姫達に会いたがっていたのだから、帰るかい?」
神山の問いかけに、目を開くと微笑んだ。
「勿論」
その言葉に、神山は頷いた。
神山が本丸を去った頃、夕飯の用意ができたと燭台切に呼ばれた。
広間へと向かうと、そこには皆が揃っていた。
私を待っていてくれたようだ。
ごめんごめんと謝りつつご飯を食べ始める。
美味しいご飯に舌鼓を打ちながら皆との会話を楽しみ、片付けも終わり皆が思い思いの時間を過ごすために立ち上がろうとしたのを、止めた。
「皆に、大事な話がある」
その一言で、皆の表情は緊張で固くなる。
この本丸がどうなるのか話されることを、理解しているのだろう。
「まず、私が別の世界から来たことは覚えているかな?今日、神山から前の世界に帰してもらえる事を聞いて……帰ると私は返事をした」
その言葉に、息を飲む音が聞こえる。
「そんな…」
「あるじさま、ぼくたちをおいてかえってしまうのですか……?」
泣きそうな表情で近付いてきた今剣をそっと抱きしめる。
「そうだね、置いていってしまう事になるね」
「やだやだ、やだよ主ー!」
加州や小狐丸が飛びついてきてグエっと苦しさに声を上げながら、ぽんぽんっとその頭を撫でてやる。
「でもね、今直ぐじゃないよ」
「え?」
「人はいずれ死ぬ。私が帰るのは…死んだあとだよ。この世界で。それまでは……この本丸で皆と共に生きたいんだ」
どうかな?という問いかけを投げ、神山とのやり取りを思い出す。
『さて、どうする?この世界に来た当初、愛姫達に会いたがっていたのだから、帰るかい?』
『勿論』
その言葉に頷いた神山に、『あ、でも』と付け足す。
『この世界で天寿を全うしてからとか、いけるかな?』
『ふむ……』
『てか、そもそも元の世界の時間はどうなってるの?』
その問いかけに神山はにこりと笑う。
『進んでいるよ。こちらとは違う時間の速さで』
『違う?』
『うん。こちらの一年が向こうの一時間みたいなもの。だから君は数日、行方不明扱いになるくらいかな』
ほう、と頷くと神山は机に肘をついて顎の下で組む。
『君のこちらでの天寿は大体…後七十年くらいかな。結婚をして子供を産んで運が良ければ孫も見れるよ』
『……まあ、その辺は置いといて、その天寿を全うしてから帰りたい。あの子達とこのままサヨナラは寂しすぎるから』
そう言って微笑んだ桜に神山は頷いた。
後七十年もこの世界に入れるのだ、十分すぎる。
その前に彼らが自分を嫌がる可能性もあるが、それでも君達といたいと思った。
そう思いながら皆を見渡していると、もじもじとした小夜が近付いてきた。
「その、僕は……嬉しい」
頬を赤く染める小夜が可愛くて思わずギュッと抱きしめた。
先ほどから抱きついてきていた今剣が少し苦しそうにしていたがまあいいかと二人まとめて抱きしめる。
「誰が嫌だというのだろうか。この本丸を助け、世界を助け、我々を救ってくれた主を」
「そうだね、君が来なかったら……皆、今頃どうなっていたか」
「よっし、酒飲もうぜ酒!改めて、戦いが終わったことと主がここにいてくれるお祝いだ!」
わあわあと騒ぎ出した皆に、ああ共に居てくれるんだなと感じて少し目頭が熱くなった。
「主」
「…髭切」
「ほら、行こう」
そう言って差し伸べてくれた髭切の手を取ると、引っ付いている子達も含めて立ち上がらされた。
何人かをずるずると引き摺りながら皆の輪の中に加わると、お猪口を渡され酒を注がれる。
「この本丸の、新しい門出に、乾杯」
そう言うと、皆も口々に乾杯と言って酒を飲み出した。
(愛姫様、もう少しお待ちくださいね)
心の中でそう呟くと、賑やかな面々を見て微笑んだ。
戦いは終わった、私は、この世界で彼らとの幸せを掴もう。
END
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