最後の戦い
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(やっばい)
空気が淀みすぎている。
こんなところに本当に皆を呼ぶの?と思ってしまうくらい淀んでいる。
以前目処をつけた扉から奥へと進むと辿り着いたのはTHE 遡行軍の本拠地だった。
ご立派なお屋敷があり、そこら中に遡行軍がウジャウジャと…
(え、これ大丈夫?)
流石の私でも上手く侵入出来るか不安になる。
(…いや、弱気になっていたらダメだ)
桜は深呼吸すると、一旦物陰へと身を隠して屋敷を見る。
(3階?いや、4階建てかな…でも、地下もありそうだな。敵の気配が下にもある。そして中心部は…)
チラリと屋敷の頂上を見る。
(まあ、無難にあそこだよね)
屋敷の天辺で球体を割る。
そうする事で各本丸に道が繋がる筈だ。
ヨシっと気合を入れると、片手に短刀、もう片方には苦無を持つ。
「いっちょやりますか」
桜はポソリと呟くと、駆け出した。
手に武器は持ったものの、見つからない事が前提だ。
敵の目を掻い潜り、上を目指さなければならない。
(屋根の上にまでは…敵はいないか)
ギュッと短刀を握りしめると、足に力を入れて飛び上がる。
スタッと一つ目の屋根へと辿り着き、辺りを見渡す。
敵の姿は無く、再度飛び上を目指すと影ができ、自身を目掛けて何かが降ってきた。
「!?」
空中でなんとか体を捻って降ってきたものを避けると、二つ目の屋根へと着地して下を見る。
「うわーお…」
煙が立ち上がっており、そこには槍が刺さっていた。
敵が攻撃を仕掛けてきたのだ。
「攻めてくるのは想定済み…って事か」
くるりと振り返ると、さっきまで何もいなかった屋根の上は大量の遡行軍で溢れ返っていた。
残念ながら、敵に見つからずに進むことは不可能のようだ。
「ふぅ……やるしかないか」
スッと目を細めた桜の体がゆらりと傾いたかと思うと、その姿は消えた。
姿を見失った遡行軍が周りを見渡していると、遡行軍の中心から叫び声と血飛沫が上がる。
「道を開けてもらうよ」
上にあがるだけだが、これだけ多いと飛び上がっている内に撃ち落とされるだろう。
可能な限り敵の数を減らしたい。
短刀を振り、苦無を刺し、敵の数を減らしていく。
(そろそろ…)
上がらないと、時間がかかりすぎている。
桜は敵が怯んだ隙をついて飛び上がると、足に痛みが走った。
「っ……」
上の屋根へと着地してチラリと足を見ると血が流れていた。
斬られたようだ。
だがここで止まるわけにはいかない。
服の袖を千切ると簡単に足に巻き付け、すぐに臨戦態勢をとる。
襲いかかってくる刀や槍を受け流し、敵を倒していくが多すぎて困る。
「一か八か、傷を負うのは覚悟でやるか…」
桜は手を組むと、ササっと印を結ぶと同じ顔が幾つも現れて周りの遡行軍たちの動きを止める。
発動できたことに喜びつつ、その隙に飛び上がり最上層に辿り着くと分身達を戻した。
直後、体に痛みが走り分身が受けた傷に膝をつきそうになるが何とか耐えて懐から球体を取り出す。
「皆、頼むよ…!」
苦無を突き刺して球体を壊すと、中から白い光が溢れ出し辺りへと伸びる。
空や屋敷を囲む壁などに光が突き刺さり、そこから空間が割れていく。
この屋敷を守る結界が破壊されていく。
「何事だ…!」
下で声がして視線を向けると、そこには老女がいた。
彼女が梔子の言っていた人物だろう。
他にも何人かの男女がいるが、きっと遡行軍側の人間だろう。
桜と老女の視線が交わった時、色々な箇所から刀剣男士を連れた審神者が現れるのが見えた。
道が繋がったのだろう。
それにホッとした時、背後に影が出来た。
素早く振り返るとそこには自分に迫る遡行軍が何振りもいた。
(やばっ、流石に…)
防げない。
舌打ちをして短刀と苦無を構えると同時に金属がぶつかり合う音がした。
「怪我したらダメって言ったよね?」
「うーん、ごめんね?」
ギチギチと金属音を鳴らしながら遡行軍の攻撃を防ぎそう言ったのは、髭切だった。
「主よ、待たせたな」
「主に仇なす敵は切る!」
他にも三日月や長谷部、加州も自分を守るように立っていて、思わず微笑んだ。
「皆、来てくれてありがとう」
自分の直ぐ近くに出来ている道から次々と出てくる面々に微笑む。
「さーてと、落とすよ。この屋敷を、敵の大将を」
桜はペロリと唇を舐めると、皆を見る。
「指示を出す。三日月、長谷部は室内での戦闘に向いている面々を連れてこの屋敷の内部を攻めて。
一期は粟田口の皆を連れて屋根周りの敵の殲滅をお願い。
槍、薙刀、大太刀の室外の戦闘に向いている皆は屋敷の周りにいる敵を中心に対応をお願い。
清光、蜂須賀、歌仙、陸奥守、切国。
はじめに選ばれる初期刀と言われる貴方達は皆の事をよく知っていると思う。適材適所に合わせて皆の指揮をとって欲しい」
そう告げると面々は頷く。
「主」
呼ばれて振り返ると、そこには髭切がいた。
「僕は君についていくよ。何を言われてもね」
「あ、兄者が行くのならば俺も行こう」
パタパタと駆け寄ってきた膝丸にふふっと微笑むと、力強く頷いた。
「うん、よろしくね。私の愛刀」
桜が手を出すと、髭切はその手を微笑みながら握った。
膝丸も遅れて手を握ったのを確認すると、2振りには刀の姿に戻ってもらった。
「今から地下に潜る。恐らくそこに親玉がいる。2人には暫く刀の姿でいてもらうね」
そう説明しながら帯刀すると、深呼吸して周りの遡行軍を見た。
「さて、いくよ!」
桜の声に皆が頷くと、すぐさま行動に移った。
敵が迫りくるが皆が敵を打ち倒し道を作ってくれる。
他の本丸の審神者や刀達も神山から何か聞いているのか、必要以上に協力的で助かる。
すんなりと1階に辿り着くと敵が特に守っている部屋へと赴き、刀を抜く。
「この部屋に、地下への入口があるみたいだな」
そう言って駆け出すと、遡行軍達も攻撃のため動き出す。
「髭切、膝丸、力を借りるよ」
『勿論』
『任せろ!』
迫りくる攻撃を弾き、流し、斬りつける。
部屋にいた敵を全て倒すと、髭切と膝丸に人型へと戻ってもらい、室内を調べる。
「恐らくこの部屋が地下に繋がってそうなんだけどなぁ…」
うーんと辺りを見渡していると、髭切と膝丸が掛軸の前に立っていた。
それはあからさますぎて桜が目を逸らしていた場所だった。
「まさか…そこ?」
「うん、ここだと思うよ」
「瘴気が漂っているな」
ベタすぎる!とツッコミたいが源氏の重宝が言うのだから間違いないでしょう。
掛軸に近付き調べてみると、下に引けるようになっていた。
まさかね…まさか…と思いながら掛軸を下に引くと、掛軸は上に吸い込まれてカチリと音がして壁が動いた。
「……行こうか」
ベタすぎる仕掛けに桜は呆れながらも、地下へと続く道へと足を踏み出した。
薄暗いが夜目が利く桜は顔を顰めていた。
「髭切、膝丸。少し走るよ」
「うん?」
「え?」
急にどうしたと言いたげな二人の手を取ると、走り出す。
(この道は中々やばい)
壁中に色々な呪札が貼られている。
ちんたらと歩いていたら餌食になるだろう。
長い道を走り抜けて開けた場所に出ると、そこには遡行軍と中心には背を向ける老女がいた。
「やれやれ、ここまで来てしまったのか」
振り返った老女の顔にはひびが入っていた。
「まさか侵入されるとは思って無かったよ…こちらからじわじわと本丸に入り込み、時の政府とやらを掌握するつもりだったからね」
楽しそうに笑う老女にゴクリと唾を飲んだ。
「思い通りに行かなくて、残念だね」
冷や汗を流しながらニヤリと笑うと、髭切と膝丸をチラリと見る。
「無理はしないで…多分、ここにいる敵は上の奴らより強いよ」
その言葉にコクリと頷いたのを確認すると、刀を抜いた。
「さて、悪いけど貴方を倒さないといけない。その様子を見たところ…人ではないようだね」
「ふふっ…そうだね。私は人ではないね」
「ならば、手加減なくいけるよ」
ザッと地を蹴ると老女へと切り掛かったがそれは遡行軍に止められてしまった。
舌打ちをしながら後ろへ下がる。
「おやおや、残念だねぇ…さて、上も随分騒がしいようだ。お前さん以外は大したことがなさそうだから、先に始末してしまおうかね」
そう言った老女は闇に消えた。
「待て!!っ……髭切、膝丸!」
襲いかかる遡行軍を斬り伏せながら二人を見ると、少し苦戦しているようだった。
(…仕方ない)
桜は目の前の敵を薙ぎ払うと、パパッと印を結び札を投げた。
札が敵に当たると爆発が起き、そのうちに二人へと近寄る。
「刀の姿に戻って、一気に上に行くよ」
「了解」
「承知した」
刀の姿に戻った二人を帯刀すると、地上への道を駆け出した。
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