最後の戦い
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それからの日々は目まぐるしかった。
よく寝てよく食べよく動く、は勿論だが一部の刀達にとってよく食べとよく動くは辛かったかもしれない。
よく動くに関しては私との鍛錬が増えたことにより…生傷の絶えない日々を過ごす刀が増えた。
と言ってもその日のうちに手入れをするので酷い状態ではないが。
戦闘に前向きな刀でさえ私との手合わせの日は冷や汗を流すくらいだったのだから、彼らからしたら相当キツかったのだろう。
よく食べの部分に関しては、鍛錬後に食欲を無くす刀が多かったがしっかり食べないと体もついてこないから多少無理をしてでも食べてもらった。
宗三などからはかなりお小言を言われたが。
ただその甲斐あって修行が解禁されている刀達は皆無事に修行を終え、新たな姿で帰ってきた。
甘酒断ちをした不動が帰ってきた時や、今剣が帰ってきたときには思わず泣いたものだ。
そんな毎日を過ごし役半年経った今日……神山に呼び出された。
「お邪魔しますよ」
案内された部屋の扉をノックし、中に入ると書類の山に囲まれた神山がいた。
「ああ、よく来たね。さあ、座ってくれ」
神山に言われてソファへ座ると対面に神山も座る。
「今日呼んだのは?」
「お待ちかねかと思ってね」
ニコリと笑った神山に、眉がぴくりと動く。
「乗り込むの?」
「そうだね。その為の一仕事を君に頼もうと思ってね」
そう言ってスッと差し出されたのは一つの球体だった。
「これを、敵に見つからずに本拠地の中心部で割って欲しい」
「割る?」
問いかけに神山は頷く。
「これは結界を破壊して穴を開けるものだ。そして開いた穴に各本丸からの道を繋げるんだ」
「なるほど」
私が中心部へと乗り込み、球体を割ることで神山の力が発動。
遡行軍の本拠地を守っている結界に穴を開けてそこから一斉に乗り込むという奇襲作戦。
これは中々…
「骨が折れそうだ」
「そうだね。でも、君にしか任せられないからさ」
珍しく申し訳無さそうな表情を浮かべる神山に思わず笑ってしまった。
「随分と信用してくれてるようで」
「そうだね。君のことは信頼してるよ」
そう言った神山に笑うと、球体を受け取った。
「決行は?」
「…2日後に」
「これは急だね」
「さっさと仕留めないと、被害が広がりつつあるからね」
神山の言う通り、遡行軍の動きは活発になっている。
その事実も知ってる今、嫌とは言えなかった。
「各本丸には今日、連絡を行う予定だ」
「分かった。僕も帰って皆に伝えるよ」
桜は立ち上がると扉へと向かう。
「桜。いつも迷惑かけてすまないね」
「……今に始まった事じゃないでしょ」
桜はフッと笑うと部屋を後にした。
「ということで、決行は2日後、作戦はさっき言った通り」
「決行日はともかく、その作戦には賛同しかねるかな」
ニコリと目の前で笑ったのは髭切だった。
本丸に戻ってきて皆を集めると神山から聞いた話を伝え、中心部へと乗り込むのは1人で行くと話したのだ。
勿論、皆からは大反対。
危険だという意見が飛び交ったのだ。
「主よ、物凄く危険だという事を承知で言っているのか?俺たちを連れて行け!薙刀ならば敵を一掃しやすいだろう」
「ありがとう岩融、ただこれは敵に見つからないことが前提だ」
「ぐっ…」
岩融にそういうと周りを見渡す。
「危険なのは承知だけれどこれは見つからずに中心部へと行かないといけない。皆を連れて動くわけにはいかない」
「しかし…!」
「だから、お願いがあるんだ」
桜のお願いという言葉に、皆が静かになる。
「僕が道を繋げたら、すぐに来てくれ。それがお願いだよ」
微笑んでそう言うと、まだ何か言いたそうな面々だったが、桜がこれ以上何を言っても意見を変えないことを察知して渋々と頷くのだった。
そんな面々を見て微笑むと、まだ納得行っていない髭切を見る。
自分と色々な世界で危険を一緒に掻い潜って来た刀は、初めから共にいれないことが不満なのだろう。
そんな気持ちがわかるからこそ、彼には頼みたいことがある。
「髭切」
名を呼び髭切の手を取ると、ギュッと握りしめた。
「一番長い付き合いの君に頼みたい。隊長として皆を引き連れて…私のもとに来てくれ」
ね?と微笑みながらそう言うと、髭切はグッと唇を噛み締めて桜を抱きしめた。
「絶対に、僕達が着くまで怪我したらダメだからね」
「勿論。主を信じなさいな」
ポンポンと頭を撫でると、改めて周りを見た。
「皆、最後までよろしくね」
そう言うと髭切を引き剥がして立ち上がる。
「そうと決まれば、今日は飲んで食べるぞ!さっ、皆!準備準備!」
桜の突然の言葉にポカンとする皆だったが、すぐに笑みを浮かべると酒や賄の用意へと動き出した。
皆で騒いだのも束の間、決行日がやってきた。
「主、見送るのが俺でよかったのか?」
有明の元本丸に来ていた桜の後ろでそう言ったのは三日月だった。
「うん、勿論」
「後ろから斬られるかもしれないぞ」
何が面白いのか、そう言いながら笑う三日月に苦笑する。
「相変わらずだね」
「ははっ。俺は人間が嫌いだからな……お主を除いて」
三日月の言葉に、それはどうもと返事をしながら梔子の部屋へ辿り着くと歪みがあった場所に手を触れた。
「三日月…」
「なんだ?」
「皆の事、頼むね。特に髭切。なんだかあの子、僕が絡むと妙に周りが見えなくなるというか…」
ポリポリと頬を掻くと、三日月が声を上げて笑った。
「アレは大丈夫だろう。主が思っているより、やる時はやる奴だ。何せ、源氏の重宝だからな」
そう言った三日月の言葉に微笑みながら頷くと、手に力を入れて歪みを塞いでいた結界を解いた。
「それじゃあ…僕は行ってくるよ。その時が来たら頼むね」
「任された」
三日月がよく刀達のボスと言われるのが今更だけど何となく分かった気がする。
彼の言葉は一つ一つが重く、怖く、安心感もある。
そして、今自分は三日月の言葉に安心感を抱いている。
桜は三日月の肩をぽんっと叩くと、歪みの中へと姿を消した。
見送った三日月はスッと目を細めると、桜に頼まれていたことを行うべく壁に手を触れた。
『三日月、僕が遡行軍の元に向かったら、出入口は塞いで欲しい』
『なに?』
『万が一、開いたことがバレて敵に利用されても困るしね』
『なら、お主はどこから戻ってくるつもりだ』
『どこからって…皆で迎えに来てくれるんだろ?そこから一緒に戻るつもり』
だからよろしく、と言った桜の言葉を思い出し、少し笑った。
「約束は守ったぞ。だから…なるべく早く我らを呼ぶのだ」
壊した結界の上から更に結界を施し、三日月は完全に塞がったのを確認すると踵を返した。
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