怪しき本丸の真実
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「……僕が本丸でする事は…?」
「戦力の増加及び強化かな」
その言葉に少し考えた後、頷いた。
「それがあんたの考えならば、暫く鍛刀する。強化方法は?練度を上げればいいの?」
「……刀剣男士が望んだ場合、修行に向わせる事も出来る。修行を経た刀剣男士は…格段に強くなる」
「ん、わかったよ。でも、僕は彼らを急いで強くするつもりはないよ。彼らの意思を尊重して鍛えるつもりだ」
「勿論、問題ないよ」
笑った神山にひらひらと手を振ると、部屋を出た。
(………さーて、中々に面倒な事になったぞ)
そう考えながら電話を取り出す。
自分の本丸の電話番号を打ち込み電話をかけると、ワンコールしないうちに声が聞こえた。
『はい、こちら審神者桜の本丸です』
「あ、長谷部?」
電話に出たのは長谷部で、桜が声をかけると沈黙した。
「………長谷部?」
『主!今どこにいるのですか!!近侍も付けずに出歩くとはどう言うことですか!!!』
叫ぶ長谷部の声が煩くて受話器を少し話す。
ガミガミと怒る長谷部の後ろからは加州や小狐丸の声もする。
「あー、長谷部ごめんね?」
『ごめんではすみませんよ!!』
「うーん、とりあえずごめんて、それより長谷部、大事な話がある」
怒っていた長谷部だが、桜の声のトーンが変わったのを感じて静かになる。
「詳細は帰ったら話すが、今後に備えて戦力を増やす必要性がある。戻ったら鍛刀をする。だから……準備をしていてくれないか?近侍は…長谷部にお願いする」
そう伝えると、長谷部が息を呑む音がした。
「任せれる?」
『……勿論です。この長谷部にお任せ下さい』
「うん、よろしくね」
それじゃあと言うと電話を切る。
電話をポケットに突っ込むと、有明の本丸へと向かう事にした。
「お邪魔しまーす」
有明の本丸に着くと、随分とバタバタしていた。
「えっと、皆いる?え?誰がいないって?ちょっと!!」
点呼をとる歌仙に、苦笑しながら中へと本丸の中へと足を踏み入れる。
さて、有明さんはどこだろうかと探していると、自室にいるところを見つけた。
「有明さん」
「……!!?貴方は雪風さん!どうしてここに?」
不思議そうな表情をしながら近づいて来た有明に、梔子の部屋がある方向を指差す。
「この本丸は敵に見つかり、いつでも乗り込めるように入口が開いている状態。僕はそれを塞ぎに来ました」
「塞ぎに……?」
「敵にこれ以上、踏み込まれるわけにはいかないからね。僕は梔子さんの部屋に向かう。貴方達は急いで政府へ」
有明はその言葉に頷いた。
「申し訳ございません、よろしくお願い致します」
そう言って早足で歩いて行く有明の背を見送ると、梔子の部屋へと足を踏み入れた。
(さてと……)
以前は色々あった事もあり気付かなかったが、梔子の部屋の壁には小さな歪みがあった。
とても巧妙に隠された、黒い歪み。
恐らくこれが、入口。
桜は壁へと近付くと、その歪みに手を当てる。
(さあ、探らせてもらおうか)
ふぅ……と目を瞑り息を吐くと、グッと中へと手を入れた。
途端、手に鋭い痛みが走る。
恐らく、敵を排除する為のセキュリティのような物だろう。
痛いのは嫌だが、探知を止めるわけにはいかない。
痛みに耐えながら、探って行く。
(さあ、どこだ……?)
次々と色々な景色が頭の中を駆け巡る。
どこかの家、店、野原、城、川、海。
カモフラージュとして様々な場所へと道を繋げているのかもしれない。
もしくは、実験の名残か…
次々と駆け巡る景色を見送っている時、気になるものがあった。
(確証はないけど…あれだ)
いくつもの景色が過ぎて行く中、奥でずっと鈍く輝きを放つ何か。
それがすごく気になる。
桜はそこへと意識を集中させる。
(………見つけた)
とても強い、時間遡行軍の気配を感じる。
意識を集中させて行くとそこには扉があった。
そこに触れると、お守りに残っていた物と同じ気配を感じた。
桜はまた痕跡を辿れるようにまじないを行うと、その場から離れた。
「…………っは」
意識を現実へと戻すと、本丸は静かになっていた。
有明達はもう此処を出たのだろう。
桜は息を吐くと、手早く歪みを塞ぐ。
これで…こちらから開かない限りは向こうからこの本丸に来ることは出来ないだろう。
任務完了とそこをぽんっと叩き、目に入った傷だらけの手に深い溜息を吐いて適当に布を巻きつけた。
(帰ったら騒がれそうだなー)
そう考えながら、有明の本丸を後にした。
「主!おかえりー!!って、ちょっと!!」
「ぬしさま、お怪我を……!」
「や、薬研!薬研早くーー!」
案の定、本丸には帰ると一早く出迎えてくれた加州と小狐丸が手の怪我を見て騒ぎ出した。
その後、慌てて走って来た薬研に手当てをされたが歌仙や燭台切に怒られた。
ごめんってば。
桜は面々の頭をぽんっと撫でると、奥で静かにしていた長谷部に近付く。
「準備は?」
「既に」
「ん、ありがとう」
礼を言うと、鍛刀部屋を目指す。
その後ろを長谷部はついて行く。
「とりあえず、鍛刀後に皆に改めて話すよ」
「わかりました」
長谷部に話しながら鍛刀部屋に辿り着くと、中には既に準備万端の式神と、揃った資材があった。
「流石長谷部だね」
「主命ですから」
そう誇らしく笑う長谷部に微笑むと、式神を見る。
「ごめんね、力を貸しておくれ」
その言葉に、式神はグッと親指を立てた。
「流石に疲れた…」
「お、お疲れ様です…」
肩で息をする桜、長谷部、式神。
結果はというと上々だった。
小烏丸、信濃藤四郎、数珠丸恒次、小豆長光、謙信景光、小竜景光、毛利藤四郎、巴形薙刀、静形薙刀、千子村正。
多くの仲間を迎え入れることが出来たのは大変喜ばしいが、流石に一気に呼び過ぎた。
「主、大丈夫か?俺が支えよう」
鍛刀してすぐに側仕えにしてくれと言ってきた巴形の言葉に頷き、大人しく肩を借りる。
「ありがとう、巴形。さて…皆もこの度は応えてくれてありがとう」
そう言って微笑んだ後、表情を引き締める。
「この本丸は来たるべき戦いに備えて力をつけなければいけない。詳しくは広間で話そう」
そう言うと、鍛刀部屋を出て広間へと向かうことにした。
道中、出会った乱や今剣など短刀達に伝言を頼み本丸にいる刀剣男士を広間へと集める。
「巴形、ありがとう」
「いつでも頼ってくれ」
誇らしげにする巴形の頭をどうにか撫でると、後ろで長谷部が歯軋りしているが見えた。
「……長谷部」
苦笑しながら声をかけると、パッと顔を明るくした長谷部が近づいて来る。
「はい、主」
「長谷部もお疲れ様。助かったよ」
そう言って頭を撫でてやると桜が舞った。
(あ、喜んでる)
よしよしと撫でていると、広間に皆が集まった。
「急に皆を集めて、どうしたのだ」
奥で目を細めた三日月をチラリと見た後、周りを見渡す。
「まずは新入りに向けて話そう。私と私の使命について」
桜はそう言うと、自分は特殊な人間であること、ブラック本丸の事、自分が神山から命を受けていることを話す。
今日来たばかりの刀達は少し顔が青ざめていた気もしないが、話すことはやめなかった。
「そして…今回、我が本丸の戦力強化の為に鍛刀をしたのにはもう一つ理由がある」
桜の言葉に緊張が走る。
「時間遡行軍の本拠地と思われる場所が見つかった」
そう告げると、その場が騒ついた。
「ならば、乗り込むのかい?」
「いや、まだ乗り込む時じゃない」
問いかけに首を振ると、周りを見る。
「恐らく指揮を取るのは神山だが…彼からは戦力の強化をするようにと言われた。他の本丸にも通達がいくだろう。だが、この本丸には私がいるせいで無茶をさせる事になると思う」
「無茶を?」
桜は頷く。
「私は…言ってみれば神山の眷属、配下だ。きっと最前線に立つ事になるだろう」
そう伝えると皆、ハッとした。
自分達も、一番厳しい場所で戦う事になるのだろうと。
戸惑う面々を見て息を吐くと、桜は微笑む。
「けれど、私は皆に無茶をさせたくない。無理に戦いに赴く必要はないと思っている。だが…力を貸してもらえるならば、貸して欲しいとも思っている」
そう告げると、広間は静寂に包まれた。
誰も何も言わない中、衣擦れの音がして視線を向けると、三日月が立ち上がっていた。
皆の視線を浴びながら三日月は桜の前まで来て座ると、ニコリと笑い手を取った。
「主が望むならば、俺は全力で応えよう」
「三日月…」
あんなに人が嫌いなのに、力を貸してくれるなんて…
少し感動していると、それを皮切りに自分も!俺も!などとあちこちから声が上がった。
新しく加わった面々もやる気充分だ。
「皆…ありがとう」
桜は微笑むと、よしっと気合を入れた。
「いつ戦いが起きるかはわからない。だから…私も全力で皆を鍛えよう」
私が経験してきたこと、今こそ役立てよう。
そう決意すると、これからのことを考えながら立ち上がった。
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