怪しき本丸の真実
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……………」
「……………」
「………本当に、守ってくれるの?私は……死なない?」
「⁉…死ぬ?」
(そんな物騒な事になるの?)
桜は怯える梔子の様子を見て悟った。
彼女は話さなかったのではない、話せなかったのだと。
「…もう一度、手を」
その言葉に梔子は大人しく手を出す。
桜は梔子の手を取ると、念を込めて梔子の掌に自分の指を添え、自分が知り得る限りで最上級の守りの術式を描く。
「これは……?」
「貴女を完全に守る為の術ですよ。貴女はこれで大丈夫。貴女の話す内容はこの僕にしか聞こえなくなります。なにか…聞かれたらまずい事があるんですよね?」
その言葉に梔子は目を見開くと、頷いた。
「ほ、本当に……大丈夫なのよね……?」
「勿論」
桜が優しく微笑むと、梔子はポロポロと涙を流した。
「わ、私は……あんな事したくなかった…!でも、止められなかった…………!!!」
「コイツのせいで、ですね?」
お守りを少し前に出すと、梔子は頷いた。
「話してくれますね?」
「は、い…」
そう返事をした梔子の涙を拭い、口を開くのを待った。
「あれは……有明様の元に見習いとして訪れてから半月経ったくらいでした…」
偶々その日は1人で町へと出掛けており、用も済ませて本丸へと帰る途中だった。
ふと呼ばれた気がして辺りを見渡すと、少し離れた路地からこちらを見つめる老女がいた。
老女はニコリと笑うと、手招きをしてきた。
流石に怪しいと思い無視をしようとしたが、体は言うことを聞かずに老女の元へ。
『お前の恋が実るように、コレをあげるよ…大切にね』
そう言って渡されたのは、1つのお守りだった。
途端、自分でも分かるほどの良くない気が身体中を駆け巡った。
嫌だ、やめて!とお守りを投げ捨て本丸へと逃げ帰り自室へと戻ると。
『なんで…』
そこには捨てたはずのお守りがあった。
「何度捨てても戻ってくるお守り。有明様に迷惑を掛けたくなかったので相談はせず、1人で供養などあらゆる手を行いましたが…」
半月経ったある日、疲れていた時に私はお守りから出てきた黒い何かに…絡めとられました。
そこからはもうご存知の通り、有明様をあのような状態に……
そう言い、梔子はギュッと自分の手を握った。
「ふむ、なるほどね…」
桜は顎に手を当てる。
「経緯はわかりました。では、殺されるというのは?」
そう問い掛けると、梔子は自分の体を守るように抱き締める。
「一度、刀剣男士の皆様に相談しようと思いました。有明様の近侍でした歌仙様にお話をしようとしたところ、急に体調が悪くなり私は自室へと戻りました」
その後、高熱が出て意識が朦朧とする中、ふと気がつくといつかの老女が傍らに立っていたのだ。
『ああ、話してはいけないよ。話してはいけない。話すと……お前はこの子達に殺されるよ。私がそうなるように呪いをかけたからね』
薄気味悪い笑みを浮かべる老女の背後には、時間遡行軍がいた。
梔子は自分の息が止まりそうになるのを感じながら、老女から目が離せずにいると、次第に意識が遠のき…気がつけば有明を監禁する生活を始めていた。
「コレが……私の身に起きていたことです」
「……話してくれてありがとうございます」
桜は微笑むと、梔子を抱きしめた。
「怖かったですね。勇気を出してくれてありがとう。貴女の事は必ず助けます。必ず」
そう言って背中をポンポンと叩いてやると、梔子は桜にしがみついて大声を上げて泣いた。
彼女が落ち着くまで、桜はギュッとその体を抱きしめていた。
(さてと)
落ち着きを取り戻した梔子に礼を言って別れ、部屋を出る。
少し離れた場所に立っていた神山に近寄ると、神山はニコリと笑った。
「何か話は聞けたかな?」
「まあね」
「それはよかった。その話は…私以外にも聞いてもらう必要がある、“彼”が待つ部屋へ行こうか」
そう言った神山にふぅ…と溜め息を吐き、頷いた。
神山が言う“彼”とは有明さんの事だろう。
少し歩いて別の部屋へ案内されると、中には既に有明と近侍の歌仙がいた。
「お待たせしました、有明君」
「あ、いえ!……!!貴方は!」
神山が部屋に入ってきて有明は慌てて立ち上がり頭を下げた後、後ろにいた桜に気付き驚いた後に笑みを浮かべた。
「その節はどうも。改めまして、雪風桜です。お身体の具合は如何ですか?」
「こちらこそ、その節は大変お世話になりました!ご存知かと思いますが、有明と申します。体調は、もうすっかり元通りです!」
ニコッと笑った有明は好青年そのもので、梔子が恋心を抱くのも分かった。
「まあ、立ち話もなんですし」
神山の言葉に頷くと、桜は神山の隣に座った。
「じゃあ、梔子君から聞いた話、我々にも教えてくれるかな」
「…わかった」
桜は神山に返事をすると、先ほど梔子から聞いた話を伝える。
その話の内容を聞いた神山は何かを考えており、有明と歌仙は驚きで視線を泳がせていた。
「梔子さんは呪われてしまった。恐らく相手は梔子さんをピンポイントで狙ったわけではない…要するに無差別行為ですね」
「そんな…」
有明は言葉を溢し、頭を抱えた。
そんな有明の背を、歌仙は摩る。
「彼女は…本当に良い子なんだ。審神者について理解を深め、刀剣男士の力を活かせるように日々精進していた。あんな出来事があって人は見かけによらないのかと思い掛けていたが…」
「有明さん……彼女はきっと、貴方の知るままですよ」
そう言って微笑むと、有明は頷いた。
「うーん、しかし……これは状況があまり良くないようだ」
「というと?」
話し出した神山に問いかける。
「私達は歴史改変を阻止する為に日々、時間遡行群との戦いを繰り広げているが…その傍らで根元から潰す為に相手の拠点を探している。それと同じで……相手もこちらの拠点を探しているのだろう」
その言葉に確かにと頷く。
「この政府の場所をはじめ、審神者がいる本丸は強い結界で簡単には見付からないようになっている。だから…恐らくだが実験を始めたのだろう」
「実験、ですか?」
有明の言葉に神山は頷く。
「どうすれば拠点を突き止められるかの実験だよ」
神山がそう言うと、有明は息を呑んだ。
「なるほど…簡単には自分たちは潜り込めない。ならば…その場所に行ける者に案内してもらえばいい」
「きっと、梔子君はそのターゲットに偶々されてしまったんだ。そして…老女は梔子君の枕元へと現れた。実験が成功してしまったんだ」
その言葉に、ピリッとした空気が部屋を包む。
「ならば、今すぐにでも有明さんの本丸は場所を移したほうがいい」
「ああ、すぐに手配しよう」
神山は桜の言葉に頷き、有明を見る。
「有明君、急な話で混乱もするかもしれないが、猶予がない。一度本丸に戻り、全刀剣男士を連れて政府へと来てくれ」
「わ、わかりました!歌仙、急ぐぞ!」
「ああ、わかったよ!」
有明は立ち上がると、慌てて部屋を出て行った。
「……で?僕は何をしようか?」
「そうだね……逆探知とでもいこうか」
その言葉に立ち上がると伸びをした。
「逆探知が成功したとして…どうする?乗り込むか?」
「いや、流石に危険だ。逆探知が成功したら1度入口を塞いでくれ。恐らく…まだ有明君の本丸に入口は開いている状態だから」
「わかった」
桜は頷くと、神山を見る。
「出来れば僕1人で対応したいのだけど、神山の考えは?」
「…出来れば、全本丸の審神者の力を借りるつもりだ。時間遡行軍も数が増えてきている」
「まあ、確かに」
桜は部屋の扉の前に立つと、振り返る。
「ならば、他の本丸の強化が必要だな」
「君のところは?」
「いや、巻き込みたくない…」
桜は頬を掻くが、神山が首を振った。
「恐らくだが、君が彼らを突き離しても勝手についてくると思うよ?」
「うーーーん、だよねー!」
ハハッと肩を落として笑うと深く息を吐いた。
→