戦力拡充計画と放棄された世界
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「あーあ、僕も行きたかったな」
「主は強いけど、万が一を考えたら危ないでしょ!だからここにいて」
出陣した6振りが映るパソコンのモニターを眺めていると、後ろから近侍の加州にそう言われた。
「はーい」
桜は返事をすると、画面を見る。
監査官というのは昨日話した人物らしく、無事に部隊と合流出来たみたいだが…何か引っかかる。
「この監査官、やけに山姥切を意識しているね」
「え?」
モニター越しに見ていてもわかる、部隊の動き以上に山姥切を見ている事を。
(ふむ、先行調査として潜入していたのは“刀剣男士”だったはず、ということは…)
ある考えに辿り着いた桜は、頬杖をつく。
「本歌か…?」
「本歌?」
首を傾ける加州に何でもないと言うと、その頭を撫でて再びモニターへと目を向けた。
洛外、洛中、聚楽第の内部、そして本丸。
最深部へと進むまでに数多の敵を次々と倒しながら涼しい顔で進む面々に、我ながら強く鍛え上げれたものだなと1人優越感に浸る。
「凄い、あっという間に最深部だよ」
「清光も含め、新顔以外は僕の鍛錬に徐々について来れるようになってるからね…それ即ち、そんじゃそこらの敵じゃ我々には敵わない、って事」
「へへっ、俺、いっぱい鍛錬してるからね」
そう言った加州の頭を再度撫でて、モニターに視線を向ける。
「最深部にいた敵も倒したか…」
「調査の結果、欲しかった情報も手に入ったみたいだよ!」
モニターの向こうで監査官からご苦労だったと告げられた面々は、この本丸に戻ってくる為にその場を去っていく。
「清光、皆を迎える準備をしてあげて」
「うん、任せて」
パタパタと部屋を出ていく加州を見送ると、まだ繋がっているモニターを見る。
「さて、ご満足頂けたかな?」
『…ああ。政府も、この結果なら何も言わないだろう』
「それはよかった」
桜はにこりと笑うと、画面を突く。
「神山から何か報酬は貰えたりするのかな?」
『ああ、当面の資源を送ると言っていた。それと…この特命調査に参加して優秀だった本丸には新たな刀が送られる予定だ。そちらの本丸にも例外なく送られる筈だ』
「ふんふん、仲間が増えるのか」
桜はそう言い、モニターに顔を近づける。
「お待ちしているよ、本歌さん」
『なっ…⁉』
驚いた様子の監査官に笑い手を振るとパソコンの電源を落とす。
(カマかけてみたけど、あの反応は当たりかな?)
パソコンを閉じて立ち上がると、自分も皆を迎える為に部屋を出た。
特命調査の後日、本丸には監査官がやって来ていた。
「こんにちは、監査官さん。どういった御用で?」
「……例の報酬だよ」
自室で向かい合いわざとらしくニコニコと笑う桜に頬を少し引きつらせながら、監査官は目元の仮面を外して被っていたフードを脱いだ。
「改めて…俺こそが長義が打った本歌、山姥切。聚楽第での作戦において、この本丸の実力が高く評価された結果こうして配置されたわけだが……俺の正体は君には分かっていたようだけどね」
「まあ、あそこまでわかりやすいとね。予測は出来たよ」
「わかりやすい…?」
「…ずっと山姥切国広を気にしてたようだから」
桜の言葉に、長義の眉がピクリと動く。
「写しが気になる?」
「写しだって?あれは偽物さ…」
「偽物?」
桜の問いかけに、長義は眉間にシワを寄せる。
「俺がいない間、本歌である自分を差し置いて山姥切の名で顔を売っていたみたいだからね。この俺こそが長義が打った本歌だというのに」
「ふーん」
険しい表情の長義とは反対に、桜の反応は薄かった。
「……それはどういう反応かな?」
「あ、いや。気を悪くしたらごめんね?なんていうか…僕もココに来てから日は浅いから、そうだったんだなぁ…と思って」
桜はうーん…と首を捻った後、長義を見る。
「長義が言いたい事は、まあ分かったよ。無理に仲良くしろとは言わない」
「それはありがたいね」
「ただ、これは覚えておいてね」
桜はそう言って長義を真っ直ぐと見つめる。
「ここに来て日が浅い私からすれば、長義が打った山姥切は貴方だけで、山姥切国広はあくまで貴方の写しであり国広第一の傑作だ。貴方があったから彼がある。そう認識しているよ」
その言葉に、長義はジッと桜を見る。
「写しは偽物ではない。本科を忠実に再現した別のものだ、素晴らしい貴方をね。私はそれを知っている。だから……あまり偽物がどうこうと言わないでくれると嬉しいな。貴方の偽物があるなんて、不名誉でしょ?それに…」
「…それに?」
桜は頬を掻くと、少し恥ずかしそうに長義を見る。
「その…偽物って単語が、あんまり得意じゃないんだ。私が送ってきた人生、偽りだと言われる事も少なくなくてね。その単語を聞くと、こう…背筋がひやっとするんだ」
そう言った桜に、長義は暫く呆気にとられていた。
「つまらない事を言って悪いね。さて、皆のところに行こうか」
立ち上がって手を差し出した桜に長義は咳払いをすると立ち上がった。
桜はその様子を見て笑うと、部屋を出た。
「という事で、今日から仲間になる山姥切長義だ」
「よろしく頼むよ」
広間で皆に紹介すると、馴染みがあるであろう長船の一員である燭台切に本丸の案内をお願いする。
(さてと…)
皆が散っていく中、固まった様子の人物に近付く。
「山姥切国広?」
「!?……あんたか」
山姥切はハッとした後、目をキョロキョロとさせて周りを見た。
「…長義が気になる?」
その言葉に山姥切はわかりやすく動揺した。
その様子を見て、桜は山姥切の布を掴むと、いつも隠している顔を露わにさせる。
「な、何を!」
「お前は山姥切国広。山姥切長義の写しだが…同時に堀川国広が打った第一の傑作で、私の誇れる刀の一振りだ。私はお前を誇っている。どうかそれを忘れるな」
桜の言葉に、山姥切は目を丸くした。
「それより、今までまんばと呼んでいたが長義も来た事だし…呼び方を変えるか」
桜は固まる山姥切に布を被らせると、うーんと頭を捻る。
(なーんか、愛称みたいなのあったよね…なんだっけ…)
暫く唸った後、そうだ!と山姥切を見た。
「これからは切国と呼ぼう」
「切国……?」
「山姥切の国広。略して切国だ」
そうだ、そんな愛称があった気がする。
切国は呆気に取られた後、フッと笑った。
「あんたの好きにしろ。俺は…あんたの刀だからな」
その言葉に桜も笑うと、布の上から頭を撫でてやった。
んーっと伸びをすると、スッと立ち上がる。
「さて、鍛錬に向かった皆の元にでも「主さま!政府から連絡です!」
ダダっと広間に入ってきたのはこんのすけだった。
「政府から…?わかった」
広間を出て自室へ戻ると、政府支給のタブレットが光っていた。
どうやらテレビ電話で通話中になっているようだ。
『ああ、戻ってきたね』
「…何か用?」
『そんなに睨まないでよ』
ニコニコと笑う神山に溜息を吐くと、タブレットを手に座る。
『先日、君が助けた有明君と…梔子君を覚えているかい?』
「覚えてますよ」
恋慕を拗らせた梔子と、その感情をぶつけられていた有明。
その2人がどうしたと言うのだろうか。
『有明君はあれから調子も取り戻してね、君に礼がしたいと言っているから是非、政府に来てくれないかい?』
「礼か…別にしなくても…」
『それと、梔子君の様子を見てもらいたくてね』
にっこりと画面の向こうで笑う神山に、桜の片眉が上がる。
「……わかった。今から向かわせてもらうよ」
待っているよと言った神山が画面から消え、桜もタブレットを置く。
(…メモを置いて、ササっと向かおうか)
政府に向かう旨のメモを置くと、部屋の外の様子を伺う。
誰もいない事を確認すると、急いで門へと駆け寄り政府へと向かった。
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