定例会議と怪しき本丸
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「ここか」
教えてもらった本丸に着くと、中に入る前に一期を見る。
「監査官として潜り込むから、一度刀の姿に戻ってもらっていい?」
「かしこまりました」
桜が舞った後、刀の姿に戻った一期を腰に差す。
(巾着から適当な帽子出して、髪も中に入れて……)
ついでに布を垂らして顔を隠す。
怪しい気もしなくもないが、監査官にも色々いて、顔を隠さない者、隠す者がいる。
だから、きっと大丈夫だろう。
桜は息を吐くと、目の前の門を叩いた。
「申し訳ございません!政府より命を受けて参りました!どなたかいらっしゃいませんか」
声をかけて少しすると、門が少し開いた。
「政府の方ですか…?」
顔を出したのは、平野藤四郎だった。
桜はしゃがむと、平野と視線を合わせる。
「初めまして、この度こちらの本丸が含まれる管轄下に配属されました。挨拶がてら、こちらの審神者様である有明様の捜索に参りました。代理の梔子様へと、お話をお伝えして頂くことは可能でしょうか?」
「主さまの…!少々お待ちください。梔子様へとお伝えして参ります」
そう言って中に戻って行った平野を見送り、門前で待っている間、一期へ触れる。
(何があるかわからないし、強めに包んでおこう)
そう言って、一期を自分の気で包み込む。
念の為の準備をしていると、再び門が開いた。
「どうぞ、中へ」
「ありがとうございます」
門を開いてくれた平野に礼を言い、本丸内へと足を踏み入れた。
(今までのやばい本丸に比べて、とても落ち着いているし空気も良い。けれど……どこかから強い力を感じる)
桜は辺りを観察しながら平野の後ろを歩いていると、目的の場所に着いたのか平野の歩みが止まった。
「梔子様、監査官様をお連れ致しました」
「ありがとうございます」
部屋の中で書類でも作成していたのだろう、持っていた筆を置いて振り返った梔子に、桜は頭を下げる。
「突然の訪問となり、申し訳ございません。今回は有明様の捜索と同時にこちらの管轄への配属になった事への挨拶に参りました。どうぞよろしくお願い致します」
「どうぞ頭を上げてくださいませ。今は何とかこの本丸はやっていけてますが…有明様のお力は必要です。どうか、見つけてください…」
そう言って頭を下げた梔子に頷き、本丸内の探索の許可をもらった。
(さてと)
部屋を出た桜は周りを見渡すと、平野がこちらを見ているのに気付いた。
「平野様、お聞きしたいことがございます」
「は、はい!」
驚く平野に微笑むと、片膝を付く。
「有明様の初期刀もしくは近侍に会わせていただけないでしょうか?」
「初期刀もしくは近侍…となりますと、歌仙さんですね!どうぞ、こちらです」
平野に連れられ、本丸の中を移動する。
「歌仙さん、監査官の方が参りました!」
「監査官?」
不思議そうに振り返った歌仙に頭を下げると、平野に礼を言った。
「平野様、ご案内ありがとうございました」
「いえ。また何かございましたら仰って下さい」
そう言って去っていく平野を見送った後、歌仙へと視線を向ける。
「この本丸の審神者である有明様に関して、お話がございます。部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
「主の……?わかりました、どうぞ」
そう言って部屋に招いてくれた歌仙に礼を言い、中へと入る。
障子を閉めて改めて歌仙を見ると、どこか疲れた様子だった。
「お疲れのところ申し訳ない」
「いや、大丈夫だよ。ところで、主についての話とは?」
こちらを見る歌仙に、唇に人差し指を当てて静かにするように伝えると、今入ってきた障子に指を当てる。
(これでいけるかな?)
所謂、外に声が漏れない結界を張り、改めて歌仙を見る。
「一期、戻っても大丈夫だよ」
そう言って一期に声をかけると、桜が舞った後に一期一振が人の形へ戻る。
「さて、準備が整ったところで本題に入ろうか」
帽子を取り、話し方も変わった桜に歌仙は驚いていたが気にせずに話を続ける。
「僕はとある本丸で審神者として仕事をしている傍ら、悪どい審神者がいる本丸やその他問題がある本丸を取り締まる政府の手伝いをしている。今回、この本丸の審神者が消えたとの話を聞いてこちらに来ました」
「ふむ……調査をしに来てくれたのはありがたいが、監査官と偽っていたのは何故だい?」
訝しむ歌仙に頷くと、1つ息を吐く。
「監査官と偽っていたのは、彼女と定例会議で一度会ってるから、そのまま来るわけにもいかなくてね。監査官であると偽らせてもらった」
眉間に皺を寄せてこちらを見る歌仙を気にせず、そのままこちらの質問をする。
「有明殿が消えたのはいつくらい?」
「………大体、2ヶ月前くらいかな」
「梔子さんがここに来たのは?」
「梔子君が……?それは主の捜索と関係あるのかい?」
「まあね」
歌仙はジッとこちらを見た後、口を開く。
「3ヶ月前くらいだよ」
「有明殿と梔子さんの関係性は、貴方から見てどうだった?」
「そうだね………」
歌仙は顎に手を当て少し考えた後、こちらに視線を向ける。
「良好だったよ。特に梔子君は主を慕っていたように見受けられたよ」
「慕っていた?」
「ああ。恋慕の感情を…持っていたのではないかな」
桜は歌仙の口から出た言葉に反応した。
(恋慕ね…)
恋情は人を狂わせる。
多くの刀剣を従えて忙しい審神者、自分だけを見てもらうチャンスもない日々、そんな状況だと、嫉妬の感情を持つ人間も居なくはない。
「歌仙さん…有明殿の部屋に案内していただけませんか?」
「主の……?」
「何か、手がかりがあればと」
真っ直ぐと見て来る桜から、歌仙は視線を逸らした後、改めて目を見る。
「わかった。案内しよう」
立ち上がった歌仙に礼を言い、歩き出した彼の後ろに続いた。
少し歩いて、有明の部屋に着いてすぐ桜は目を丸くした。
「……………」
「……………」
「………主?どうかなされましたか?」
驚いて固まる桜を、一期は不思議そうに見る。
「えっ?あ、いや……」
桜は困惑しながら歌仙と一期を見る。
「アレ、見えない?」
「アレ?」
首を傾げる2振りに、ああ見えてないんだと納得してアレを見る。
部屋の隅にいたのは、呪術的な力で束縛され身動きが取れず、こちらに助けを求める表情を浮かべたこの本丸の審神者、有明だった。
「えっと、うーん……ちょっと待ってて」
桜は有明に近付くと、手を伸ばす。
「っ……」
「主!」
「君、大丈夫かい⁉」
バチっと音がして、手が弾かれる。
その様子に、一期と歌仙は焦ったように桜に近寄る。
「ありがとう、大丈夫」
「一体何が…?」
「うーん、結界かな」
桜は微笑むとすぐに表情を引き締め、再び有明へと手を伸ばす。
「これくらい、容易く壊せる」
グッと手に気を込めると、有明を包んでいた呪術の結界がパリッと音をたてて割れた。
「おっと……」
呪術が破られ有明は解放されたが弱っていて、自力で体を支える事が出来ないようなのでその体を受け止める。
「大丈夫です?僕の声は聞こえてます?」
頷く有明に桜はホッと一息つくと、歌仙を見る。
「歌仙さん、こっちへ」
「あ、ああ。すまない。主!大丈夫かい⁉」
驚いていた歌仙は我に帰ると、桜から有明を預かる。
「主、これは一体……」
「どうやら、有明殿は呪術が使える何者かによって、この部屋に囚われていたみたい。灯台下暗しだね」
「何者かに…」
「まあ、大体目星はついてるけど」
桜は主の体を労わる歌仙を微笑んで見た後、表情を引き締めて部屋の入り口を見る。
「ねえ?梔子さん」
「えっ?」
一期は驚いて後ろを向く。
そこには、微笑む梔子が立っていた。
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