定例会議と怪しき本丸
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入ってすぐ、会場の灯りが少し落とされる。
前方にある舞台には政府の人間がいて、審神者の定例会議という名の情報交換が始まった。
ただ、1つ1つの本丸の話を聞いていると時間が足りないので、変わった事や気になることをこの場で取り上げ、個々の本丸情報は政府の人間である監査官なる者達が確認していくらしい。
(まあ、こんだけいたらねえ)
壁際で話を聞いていた桜は、フッとある2人が目に入った。
(変な2人だな…)
清楚な女性と近侍であろう前田藤四郎。
この2人は仲良く寄り添って話を聞いているが、2人の間にある筈の繋がりがなく、違和感を感じる。
前田が呪具で縛られている様子もない。
「なあ、一期」
「なんでしょうか」
「刀剣男士と審神者の縁って、具体的にはどうすれば繋がるの?」
「縁、ですか……そうですね。審神者の力を持つ者に名を呼んで起こしてもらう。基本的にはいつも行われるこの行為で我々は主との縁が繋がりますな」
「ふむふむ」
「他は…前任の審神者が何らかの原因で審神者業を続けられなくなった際、政府立会いのもと前任と刀剣男士の縁を切り、後任の審神者と繋げ直すこともあるそうです」
「ほぉ…」
「また、親から子へと継がれる場合は霊力が似ているから、緊急で後任が来た際は繋ぎ直さない事もあるそうです。他にも方法はあるかと思われますが、よく聞くのはこの辺りの話でしょうか」
「なるほど…」
となると、あの前田はあの審神者に起こされたわけではなさそうだし、あの審神者が前田の本丸の審神者ではなさそうだ。
「どうされました?」
「……あそこの2人。違和感を感じてな」
そう言って一期に目当ての2人を教えると、確かにと頷いた。
「縁が繋がっていないのに顕現しているということは…あの前田は別の誰かに起こされたって事だよね」
「そうなりますな…」
桜は少し頭を捻る。
(私と今本丸にいる者たちは、刀に戻した時に一度前任との縁を切っている。その上で私が名前を呼んだから、私と彼らの縁は一応繋がっているが…)
彼女と彼はどうなのだろう。
桜は壁際から離れると、警備をしている男に近づく。
「今、少しいいですか?」
「どうされました?審神者様」
「あそこの2人の関係性を教えてもらうことは出来ないか?」
突然の質問に警備員は訝しげな表情を浮かべる。
「審神者様の個人情報を他へ流すことは出来ません」
「まあ、そうだよね……うーん、政府の神山の使いって言ってもだめかい?」
桜の口から出た神山の名前に、警備員は目を丸くした。
「神山様の使いですか…?」
「うん、雪風って言うんだけど」
「貴方様が!」
警備員は驚いた後、咳払いをして周りを見た。
「神山様から貴方様には全面協力するようにとの命を受けております。喜んでご協力致します」
警備員はそう言った後、例の2人を見た。
「あのお二人は、同じ本丸から来ていらっしゃるのですが、審神者様は正式な審神者ではございません」
「正式な審神者じゃない?」
「はい。あの女性は見習いの方です」
「審神者見習いね…なら、師にあたる審神者はどこに?」
「それが……」
警備員は言い淀んだ後、桜をへと視線を戻す。
「どうやら行方不明だそうで」
「行方不明?」
「はい。現在、政府でも調査をしております。時々あるのですが……刀による神隠しではないかと」
「神隠しね……」
ちらっと一期を見ると、目が合ったことに驚いたのか肩を揺らした。
「神様が神隠しをするときはどういうとき?」
「わ、私に聞くのですか?」
「うん、一期も神様だろ?」
「………そうですね。神隠しには色々な現象があると思いますが、私が聞いたことあるのは、気に入ったから、連れて言ってくれと言われたから、自分だけのものにしたいから等の理由ではないでしょうか」
「なるほどね……」
桜は少し考えた後、警備員を見た。
「あの見習いちゃんの名前は?」
「あの方の審神者名は、梔子と申します」
「わかった。色々ありがとう」
桜が礼を言うと同時に、定例会議が終わった。
それを確認し、一期に行くよっと声をかける。
(梔子、ね……)
幸せを意味する花言葉を持つ花を審神者名にか。
桜は定例会議が終わったと同時に、梔子という名の審神者見習いに近付いた。
「前田君、本丸に戻りましょうか」
「はい、梔子様」
立ち上がった梔子と前田が歩き出そうとした時、目の前に人が立ち塞がる。
「はじめまして、梔子様でよろしいでしょうか?」
「え?はい。そうですが…」
突然現れた笑顔の桜を、梔子は驚いたように見つめる。
(ふむ、ちょっとした女性なら照れさせる私の笑顔に照れる様子は無しっと…)
自意識過剰な事を考えつつ、笑顔は崩さずに梔子を見る。
「突然お声がけして申し訳ございません、実は梔子様にお願いがございまして」
「お願い、ですか?」
訝しげな表情に変わる梔子に対し、桜は頷く。
「どうぞ、私の腕をお取りください」
「えっ?」
桜は腕を梔子の前に出す。
「あの、一体……」
「エスコート、させていただけませんか?」
「………あの、梔子様にどのようなご用件でしょうか」
驚いていた前田はハッとすると、警戒しながら桜を見る。
「前田様、どうぞその耳を周りに傾けてください」
桜の言葉通り、前田は周囲に耳を傾ける。
前田は驚いた後、桜と梔子を見た。
「梔子様、今は一旦その方の提案に従いましょう」
「えっと…前田君がそう言うなら」
梔子はおずおずと桜の腕に自信の手を回す。
桜はそれを確認すると、まるで恋人のように彼女をエスコートし、会場を出た。
「ふう、ここまで来れば大丈夫かな」
会場から離れて帰り道へと繋がる門近くへと移動してきた後、一旦木の陰へ隠れる。
「えっと、すみません、何が何だか…」
今だに状況を理解できていない梔子を、桜は困ったように見る。
「そうです…ね。事情も説明せず申し訳ございませんでした。説明しますと……貴方様は刀剣男士が目当てで、師の管理する本丸を乗っ取る為に審神者を何処かへやったと、会場内で囁かれていました」
「えっ…?」
「私という男がいる事で少しでも貴方に対するその噂が軽くなればと思ったのですが…出過ぎた事をしましたね」
桜の言葉に、梔子は驚いた様に目を見開いた。
(うん、周りの事に気付いてはいなかったみたいだね)
一期を連れて行くよっと言ったものの、どう近づこうが悩んでいた時に周りが陰口を言い出したものだから、これ幸いと近付いた。
周りの審神者、陰口は好まないが今だけは感謝しよう。
「その、ような……事が」
視線を落とす梔子の様子を、1つも見逃さないように観察する。
「刀剣男士の皆様は良くしてくださいますし、大切な存在です。ですが、彼ら目当てに、大切な審神者様を隠すなど、決してしません!」
強い意志でそう言った梔子に、桜は目を丸くした後、微笑んだ。
「周りの人間はきっとありもしない事を言うかもしれませんが、そのお強い意志をしっかりと持って、お師匠様が見つかるのを待ちましょう」
「あ、すみません、熱くなってしまって…ありがとうございます」
ハッとして礼を言った梔子に、桜は微笑んだ。
「どうぞ、お気をつけてお帰りください」
「ありがとうございます」
頭を下げて門を潜った梔子を見送った後、桜は貼り付けていた笑みを外した。
「一期、彼女は黒だね」
「黒、ですか?」
「僕にだけ、飛ばしてきた」
そう言いながら歩き出した桜の後ろを、一期は慌てて追いかける。
「と、飛ばしてきたとは?」
「“決して自分はそんな事はしない”と、僕に思わせたかったみたいだね。飛ばしてきたあれは、呪術の一種だと思う」
「じゅ、呪術ですか?」
桜は頷くと、会場内に戻り、色々と教えてくれた警備員に再び近く。
「今いいですか?」
「これは雪風様。どうされましたか?」
「梔子って人が居るところの本丸の場所教えて。後、政府の監査官にも連絡を入れておいてほしい」
「主。それは…」
桜は一期を見た。
「あそこの審神者、見つけに行くよ」
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