新たな日常、愛刀
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「ぬしさまはまだでしょうか…」
「もー小狐丸、遠征戻って来てからうるさいよ」
門が見える場所で、しょんぼりとしながら桜の帰りを待つ小狐丸の横で加州がそう言う。
その後ろでは、燭台切が遠征から帰ってきた部隊の報告を纏めていた。
「まあまあ、そのうち帰ってくるよ」
燭台切がそう言った時、門が開いて演練に行っていた面々が戻って来た。
「ぬしさま!」
「主!」
小狐丸と加州は笑顔を浮かべる。
「あ、お出迎え?ありがとう」
桜は微笑んで2人の頭を撫でた。
「お帰り。演練はどうだった?」
「ただいま。光忠も遠征お疲れ。演練はね…見ての通り」
そう言って桜は後ろの面々を指差した。
その表情は、どれもこれも不機嫌なものだった。
「……なるほど」
「0勝、かな」
5戦行い、1回も勝てなかった。
まあ、今の彼らじゃ仕方がない事だ。
「ほらほら、拗ねない拗ねない」
桜は6人の肩を叩くと、ふうっと息を吐いた。
「それぞれ、課題は見つかったからいい経験にはなったでしょ」
「だけど、1回も勝てないなんてよ」
「自分が弱いの、分かったでしょ?」
桜の率直な言葉に、面々は表情を歪める。
「だからこそ、強くならなきゃ。僕と一緒にね」
桜はそう言って笑った。
「君達はまだまだ伸び代がある。他の本丸と違い、ここには僕という様々な戦いをして来た奴もいる。使えるもんはとことん使って、強くなって、今日負けた奴らに次は勝とう」
桜は面々の頭を撫でた。
そこ、大倶利伽羅、嫌な顔しない。
「じゃ、解散ー」
そう言うと、6人はそれぞれ歩き出す。
「あ、安定と兼さんはちょい待ち」
桜は2人を引き止めると、その手に飴を乗せた。
「今はこれしかないけど、隊長と副隊長を頑張ったご褒美ね」
桜は笑うと、その場を去った。
「飴って……」
「オレ達は子供じゃねえぞ!」
そう言った2人の表情は言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうだった。
そんな2人を、燭台切は微笑みながら見た後、桜を追いかけた。
(いやー参った参った)
桜は部屋で燭台切から貰った報告書に目を通して神山への報告書を作成しながら、演練場での事を思い出していた。
(歴史修正主義者に、時間遡行軍か…)
演練場で折角だしと他の審神者と交流してみたのだが、「この戦いは終わるのだろうか」とか、「歴史修正っていうか、別の展開があったら面白いのかもな」とか、歴史修正主義者に関しての話もあった。
前にも思ったのだけれども……
(私って歴史修正しちゃってるくね?)
いやまあ、他の世界での話ではあるけどさ、そう考えたら私が審神者とかしてていいの?
桜は少し考えた後、神山に対して聞きたい事があると記載し、報告書を提出した。
(ちゃんと見てるかわからないけど)
桜は伸びをすると、そろそろ寝ようかと布団の用意をする。
その時、政府支給の携帯が鳴った。
「……はい」
『お疲れ様、神山です』
「お疲れ様です」
『報告書に書いてあった聞きたいことって、何かな?』
電話が掛かってきたみたいで、通話を開始すると私をあちこちへトリップさせている胡散臭い神様の声が聞こえてきた。
どうやら報告書を読んですぐに連絡をしてきたみたいだ。
「とりあえず、ここで話をするのはちょっとアレだから、直接会いたいんだけど」
『ふむ。わかった。明日政府に来ればいいよ!受付に名前を告げれば通してもらえるようにしておくから!』
後で座標を送るね、誰か近侍を連れてくるんだよ、と色々話す神山に生返事を返すと、電話を切った。
「近侍、ねぇ……」
桜は少し考えた後、自室を出て約束通り一番近い部屋を与えた刀剣男士のもとへ向かう。
「髭切、起きてる?」
「ああ、まだ起きてるよ」
部屋の外から声をかけると、襖が開いて髭切が顔を出した。
「明日、政府に行く用が出来た。髭切に、近侍としてついてきて欲しい」
「政府に……勿論」
にっこり笑った髭切に、よろしくと伝える。
髭切と別れて自室に戻ると、布団に入った。
翌朝、朝食をとった後早々に本丸を出た。
何人か一緒に行きたいと不満を漏らしていたが、我慢してもらった。
神山から送られてきた座標の場所に来ると、目の前には大きな建物か現れた。
「ここが政府か…」
「主、行こう」
「そうだね」
髭切の言葉に頷いて中へと足を進める。
受付で名前を告げて神山の事を話すと、部屋の場所を告げられた。
(あいつ、何者なんだ)
告げられた場所へ向かうと、如何にもお偉いさんがいそうな扉が現れた。
ノックをすると、中から「どうぞ」と声がしたので、中へと歩み進めた。
「やあ、よく来たね!」
ニコニコと笑う神山にちょっとイラついたので苦無を投げておいた。
「ちょ、危ない!」
「神様なら大丈夫でしょ」
騒ぐ神山を無視してソファに勝手に座る。
神山もそれを見て騒ぎながら座ると、ふうっと息を吐いた。
「聞きたい事って何かな?」
ニコニコと笑ったままの神山を見て少し考えた後、口を開く。
「そういや、ここには貴方一人?もう一人の付喪神は?」
「彼は自分の領域にいるよ。彼は私の友達だが、ここは彼の領域ではないのでね」
その言葉になるほどと頷くと、気になっていた事を話す。
「僕は…私は、色んな世界で歴史や話を歪めて来た。そんな私は歴史修正主義者、時間遡行軍の類になるんじゃないのかと思って」
行く先々で、自分は色んな歴史を捻じ曲げて来た。
死ぬべき人物を救ったり、あるいは最悪の事態を避ける為に根回しして物語を捻じ曲げてみたり。
桜の言葉に、神山は目を瞑って少し考えるそぶりを見せた後、ゆっくりと目を開いた。
「結論から言うと……確かに君が各世界で行って来た行為は、この世界で言うなら悪の組織が行なっているものだね。でも……あくまで別世界の話。君が巡って来た世界では、その世界の神が君の行為を許しているのだから問題ない。この世界ではちょっと困るけどね」
そう言った神山の言葉に、桜は目を丸くした。
「……そうなの?」
「うん、そうだよ」
「よかったね、主」
髭切はそう言うと、桜の頭を撫でた。
「うん、よかった………って事は?各世界の神のルールさえ守ってれば自由に動いていいって事?」
「まあ、そうだね。私の領域はかなり広くてね、ここの世界も私の領域だ。その私が審神者として君が居てくれることを望んでいるのだ。何も気にしなくていいよ」
神山の言葉に、桜は息を吐くとソファに深く座り込んだ。
「そんなルールあるなら早く言ってよー昨日の夜、悶々しちゃったよー」
「いやーごめんごめん」
あははと笑う神山にちょっとイラッとしたので再び苦無を投げておいた。私は悪くない。
「ま、まあ…君からしたら本丸内で聞くのはちょっと気がひける内容だね。直接ここに来てもらってよかったよ。後、渡したいものもあるしね」
「渡したいもの?」
「それは別にいらないよ。さっ、帰ろっか主」
「え?」
神山が何か取り出す前に、髭切は桜に帰ろうと言う。
「え、ちょっと髭切君」
「何かな?神山さん」
ニコニコと笑う髭切だが、どこか威圧感を放っていた。
「髭切?どうした?」
頭をぽんと撫でながら問いかけると、髭切は少し考えた後、桜をぎゅっと抱きしめた。
「桜は…僕の主で、やっと人の体を手にしたから一緒に戦えると思ったのに他の刀剣と出陣しちゃうし…今からあの人が渡そうとしてるの新しい刀だし」
拗ねた様子の髭切に、桜は笑った。
「ありがとう髭切、その気持ちはとても嬉しい。ただ、私は髭切に傷付いて欲しくない。だから一緒に強くなって、出陣しよう」
そう言って髭切を宥めていると、髭切はぐりぐりっと桜に頭を押し付けた後離れた。
「君の愛刀はこの僕だからね」
「勿論」
二人が笑い合っていると、神山は咳払いをした。
「あー、結局この刀は任せてもいいのかい?」
「断る。これ以上らいばるとやらは要らないからね」
「ライバル?」
髭切は神山の言葉に即答した。
桜は「ライバルとは?」と考えていたがまあいいかと神山を見た。
「その刀剣、受け取るよ。彼が嫌じゃなければだけどね」
「この子なら大丈夫さ」
神山はそう言うと手にしていた刀を桜に渡した。
「本丸に戻ったら起こしてあげて」
「わかった」
桜は手にした刀を腰に帯びると、髭切を見た。
「じゃあ、戻ろっか」
「ああ」
「よろしくね」
神山に別れを告げると部屋を出た。
「あ、そうだ。折角だし町に寄ってお菓子でも買って帰ろう」
「いい案だね」
2人はそんな会話をしながら、町へと向かった。
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