ブラック本丸とその後
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「えっと、これがあれで、こっちがそれで……」
今日はなんだか忙しい。
それもこれも神山のせいだ。
自分がここに来てから(今自分が住んでる本丸を除く)ブラック本丸を初めて摘発したから、どんな様子だったか事細かに教えて欲しいと言われ、書類を作成させられているのだ。
「…………お茶飲みたい…」
何時もなら誰かが持ってきてくれたりするが、ブラック本丸の事に関しての書類作成だから近侍には誰も付けていないし、誰も近付かないようにと言っている。
(ちょっと甘え過ぎていたな)
ふう、と息を吐いた時、襖が開いた。
驚いて振り返ると、そこにはへし切り長谷部が立っていた。
「…………」
「………なんだ」
「いや、驚いただけ。何かあった?」
作成していた書類を見られないように、パソコンの画面を伏せる。(タブレット以外にもパソコンを用意したのだ)
長谷部はそれをチラリと見た後、部屋に入って襖を閉め、桜の前に座った。
「……これが、貴様宛に届いていた」
そう言って長谷部が出したのは、先日行ったブラック本丸の堀川が政府経由で送ってきた手紙だった。
「ありがとう」
受け取ろうとすると、スッと手紙を引かれる。
何だと長谷部を見ると、随分と険しい表情をしていた。
「………何でそんな表情してるの」
「貴様は…俺達に何を隠している?とある使命とは、これに関係しているのか?」
目を細める長谷部に、出そうになった舌打ちを飲み込む。(昔はこんなに短気じゃなかったのに…)
「中、見たの?」
「ああ」
「そう…」
桜は息を吐くと、一瞬で手紙を奪う。
驚いている長谷部を尻目に、手紙に目を通すと安堵する。
あれからあの本丸にいた刀達は神山に邪気を全て払ってもらい、今後の事を前向きに話し合っているそうだ。
「………おい」
1人の世界に入っているのが不満だったのか、長谷部が声を漏らす。
「ああ、ごめん。で?使命の事、聞いてどうするの?」
桜は佇まいを正して前を見る。
「…………貴様は、この本丸の新しい主なのだろう?俺の、俺達の、主なのだろう?何も隠すな。もっと頼れ」
「………え?」
「そ、その…………はじめは警戒心を持って斬りかかった俺にこんな事を言う権利は無いのは分かっているが、言わせてもらう。俺は主の…桜の刀として、主命を果たしたいと思う」
「僕の、刀…?」
長谷部の言葉に、呆気にとられる。
「主は、俺達に害をもたらす者では無い。俺達の本質を理解し、慈しみ、大切にしてくれている。素直になれなかった俺でも…十分に感じた。そんな貴方の、力になりたい」
キュッと手を握り、緊張した面持ちの長谷部に、桜は笑った。
「そっか…うん、ありがとう。長谷部の力、貸して欲しい」
「⁉……はい!」
使命の事はまだ詳しく教える事は出来ないけど、頼りにしているよ。
そう伝えると、長谷部は幸せそうに笑った。
ある日、朝からソワソワした様子の燭台切を桜は気付かれないように観察する。
普通にしているつもりなのだろうけれど、何かを気にしているのは丸分かりだ。
(何を気にしてるのかはわからないけど…)
最近考えていたことを話してみよう。
桜は立ち上がると、燭台切に近づく。
「光忠」
「ど、どうしたんだい?」
「話がある」
その言葉に、燭台切は表情を引き締めた。
「………なんだい?」
「もう、マトモな生活送れるよね?」
彼らをサポートし始めて数ヶ月は経ったはずだ。
飲み込みの早い燭台切を始め、日に日に家事を覚えていく彼らに自分は一先ずの役目を終えたと感じている。
「僕、そろそろ表に出るの、やめるから」
「やめるって…」
「姿を隠そうかなって」
元々は姿を隠して過ごすつもりで、でも皆の生活のサポートをしたいから表に出ていた。
皆もマトモに生活出来るようになったのだから、自分が姿を見せなくても生活出来るだろう。
そう話す桜を、燭台切は無表情で見ていた。
「光忠…?」
「本気で言っているのかい?」
そう言葉を吐いた燭台切を、桜はジッと見ていた。
「………本気だと言ったらどうする?僕を殺す?隠す?」
少し考えた後、ピリッとした空気を纏いニッと笑った桜に燭台切は鳥肌が立つのを感じた。
「君は…」
「なーんてね」
「………え?」
一変して柔らかく微笑む桜に、燭台切は呆気にとられる。
「姿を隠そうと考えていたのは本当なんだけど、ここ数日長谷部からなんか説得されたんだよねー。このままずっと審神者としていてくれって」
そう話す桜は、縁側に出るとそっと座り、庭の木を見る。
「僕としては、やる事もあるし、皆が嫌じゃないならこのまま過ごしたいんだけど、どうかな?」
そう言った桜に、燭台切は駆け寄った。
「も、勿論!このまま過ごして良いに決まってるじゃないか!」
「………あ、ありがとう」
勢いのある燭台切に驚いたものの、微笑む。
「これからもヨロシク」
「よろしくね!」
ホッとした様子の燭台切に、桜は自分の選択は間違っていなかったと、少し安心した。
「あ、あのさ」
「ん?」
良い感じに話が終わりそうになったが、燭台切は先日の事を思い出した。
「主は嫌がるかもしれないけど、お願いがあるんだ」
「お願い?」
「………僕達は刀だ。僕達は君の力になりたい」
「光忠…」
「君が1人で出陣するのも、それ以外の事をしているのも、見ていて歯痒い。僕達も共に、戦わせてくれ」
「…………本来の本丸の形に、戻るのかい?」
燭台切の言葉に、桜は静かに話す。
審神者に使役され、戦に赴く、戦いの日々。
人間に使役される事を、再び受け入れるのか。
桜の言葉に、燭台切は頷いた。
「…………分かった。今日、話しよっか」
そう言って立ち上がった桜はその場を後にした。
燭台切は遠ざかっていく背中を見送った後、気持ちを伝えることが出来てホッと息を吐いた。
「皆ーちゅうもーく」
夕食の時間、食べ終わったものがちらほらと出てきたのを見て声をかける。
皆の視線が集まったのを感じ、口を開く。(てか、なんで光忠はあんな緊張した面持ちなんだろうか)
「これからの事なんだけど、一先ず僕はこの本丸の審神者として、姿を隠さずにこうやって生活をさせてもらいたいと思ってる。だけど皆の意見も尊重したい。嫌な人、いる?」
桜の問いかけに、誰一人否と返事はしなかった。
その様子を見て、続けて口を開く。
「誰も反論しないなら、ちょっとこのまま過ごさせてもらうね。で、こっちがまあ本題なんだけど、審神者業を続けるにあたって共に戦わせて欲しいと、嬉しい声が最近増えた。僕は皆の力を是非借りたい」
桜は一瞬微笑んだ後、表情を引き締める。
「だからといって、無理やり共に歩みを進めさせるつもりはない。本調子じゃない、戦には行きたくない、色々とあると思うから、その時は相談して欲しい」
全て言い終えて皆の反応を待つ。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………えっ、反応なしって事は…ダメ?」
誰も答えなくて不安になり、思わず声に出すとバッと立ち上がった誰かが駆け寄って来て、ギュッと手を握られた。
「この長谷部、全身全霊をかけて主と共に歩いていきます」
「……ありがとう長谷部」
斬りかかって来た時とは全然違って頼もしく見えるよ、との言葉は飲み込んで微笑む。
それを皮切りに、次々と皆が寄ってくる。
「ちょ、まっ、とりあえず皆落ち着いて」
桜は皆を落ち着かせると、息を吐く。
「改めて、皆。明日からヨロシク」
桜は笑った。
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