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「もー、清光はどこ行ったの?」
「ちょっとあの女の足音聞こえたからって、“こんな可愛くないところ見せられない!”って全力で逃げる必要あるか…?」
「まあまあ、加州さんは主さんに可愛いところを見てほしいみたいですから」
「おっ、あの部屋にいるんじゃねえか?」
トコトコと歩いていたのは大和守安定、和泉守兼定、堀川国広、長曽祢虎徹だ。
加州を見つけた長曽祢が指をさした方を見た大和守は、顰めっ面をして早足で歩き出した。
「…………あの女と一緒にいるじゃねえか」
「そうみたいですね」
和泉守も不機嫌そうな表情を浮かべながら、大和守の後を追いかける。
(清光ったら、何してんのさ!)
ジリジリと感じる怒りの感情を抑えつつ、部屋へ着いて怒鳴ろうと口を開いた時、中の光景を見てピタリと固まった。
「あ、安定」
「こんにちは、大和守さん」
「……………」
「安定?」
固まったままの大和守に再度加州が声をかけると、ハッとした大和守は2人を見た。
「………何してるの」
「なにって…デコってもらってるの」
可愛いでしょ?と言った加州の爪にはネイルストーンが光っていた。
「僕がお願いして、清光のお手入れ兼デコをさせてもらってます」
桜が加州にお願いしたのは、一度爪をデコらせて欲しいとの事だった。(自分の爪はどうも上手くいかない)
「デコって…」
「おっ、何か楽しそうな事してもらってるじゃねえか」
追いついた3人が中を覗き、長曽祢がそう言った。
「うわー!本当ですね。主さんは器用なのですね」
「そう?ありがとう。後、僕の事は無理して主って呼ばなくてもいいからね。名前でもなんでも好きなように呼んで」
堀川の言葉に、加州の爪を仕上げた桜は顔を上げて笑った。
「……………」
「………なんだよ」
「今日も相変わらず髪の毛サラサラで羨ましいなって」
褒められて悪い気はしないのか、和泉守は少し誇らしげにしていた。
ちょっと単純な気がして心配だがまあいいだろう。
桜は和泉守から大和守へ視線を向けると、パチリと目があった。
桜は少し笑うと、手招く。
「清光から聞いたよ、大和守さんも身形を整えるのが好きだって。どう?」
桜の言葉に大和守は誰がするもんかと反発しようとしたが、スッと肩を押さえられて座らされた。
誰だと上を見ると、笑顔を浮かべる長曽祢がいた。
「大和守、やってもらえよ」
「え、ちょっと」
「じゃ、失礼しまーす」
長曽祢が押さえている間に桜はサラリと大和守の手を取ると、加州にしたように手や爪の手入れを行い、青いマニキュアを取り出した。
流れるように完成されるネイルに、皆感心して釘付けになっていた。
「ほい、完成」
「うわ、安定がデコられてるのはちょっと悔しいけど、可愛いじゃん」
綺麗に施された装飾に、大和守から思わず感嘆のため息が漏れる。
「あのさ、皆」
満足そうな表情の桜が口を開くと、視線が集まる。
「何かしたい事あったら、言ってね。今まで我慢していた事とか」
あの女から解放されたんだから、我慢していた事はどんどんやろう。
そう言って立ち上がった桜を、皆は見ていた。
「さて、僕はそろそろ行くよ」
「またね、主!」
桜は手を振るとその場を去った。
「………こんなの、されても嬉しくないんだけど」
そう呟いた大和守の表情はどこか嬉しそうで、それを見ていた4人もつられて笑った。
またフラフラと歩いていると、小腹が空いてきた。
(………おやつ食べよう)
桜は台所に来ると、お湯を沸かす。
(電気ポット最高)
そして、棚に置いていたお饅頭を出して小皿に取り分ける。
お湯が沸けたのに気付いてお茶を注いでいると、視線を感じた。
「………………」
「………………」
「…………飲む?」
「うむ、頼もう」
問い掛けに答えた視線の主、三日月宗近は満足そうに笑った。
桜は三日月のお茶を用意すると、饅頭も用意してやった。
「折角だし、縁側に出よう」
桜はそう言うとお茶と饅頭を乗せたお盆を手に、縁側へと移動した。
「はい、どうぞ」
「すまんな」
ほわほわと笑っている三日月に桜はお茶を渡すと、自身もお茶を飲む。
ホッと一息吐くと、饅頭を口にする。
(………美味しい)
神山からの贈り物なんだがかなり美味しい。流石(自称)神様。
饅頭を食べ終わってぺろりと唇を舐めた後、三日月を見る。
「で、なんの御用かな」
「着々と、皆と距離を詰めているようだな」
「………そう見えるなら良かった」
顔は笑っているが、目が笑っていない三日月にとりあえず礼を言う。
「して、何を企んでいる?」
「何も」
想定していた質問に即答すると、三日月が眉を顰めた(気がした)
「あ、いや。何もってのは嘘かな」
「ほう?」
「何回も言ってる気もするけど、僕は人の形を持つ皆さんに、人としての生活を提供したいかな。衣食住困らないように」
「その後は?」
「それだけだよ。とりあえず考えてるのは、出陣は自分がするつもり。今いける江戸城くらいなら僕一人でもどうにでもなる。演練・遠征・鍛刀とかは、皆に手伝ってもらわないといけないからするつもりはない。皆にはやりたいことやって、のんびり暮らしてもらえればそれでいい。以上」
なんか困る?
そう言った桜の言葉に、三日月は無表情で口を開く。
「その言葉、信じろと?」
「まあ…無理じゃない?今迄の環境から考えて。僕を信じろなんて、言わないから安心して」
桜はそう言うと、自分の湯呑みと饅頭を入れていた皿を持ち立ち上がる。
「信じるなんて、簡単なことじゃ無いのわかってるから、無理して信じなくて良いんだ」
ニッと笑って去っていく桜に、三日月は呆気に取られていた。
「無理して信じなくていい、か」
(中々に面白い人間なのかもしれない)
三日月宗近は笑うと、お茶を飲んだ。
(んー、これまじで言ってんの?)
三日月と別れた後、部屋に戻って掲示板を調べていた。
そこには神山からの書き込みが1つあった。
(暴力で刀達を支配する審神者。幾ら主がいないといけないとは言え、反乱がいつ起きてもいい状態にも関わらず刀剣達は大人しい。神山達が近づけない事から、呪具を使っている可能性あり)
桜は承ったと返答を入力すると、掲示板を閉じる。
(今夜あたり行こう)
そう決めて伸びをすると、視線を感じて振り返る。
「………」
「………」
こんな事、さっきもあった気がする。
そう思いつつ、こちらを見る人物に声をかける。
「どうした?小狐丸」
敬称?もう一々付けるのが面倒くなった(結局外してくれって言う奴多いし。付けろって言われたり反応悪かったら付けるよ)
桜の言葉に反応したのは、障子から少しだけ顔を覗かせる小狐丸だった。
「そ、その…加州殿がぬしさまに手入れをして頂いたと…」
様子を窺う小狐丸に、笑みをこぼす。
「小狐丸も手入れが希望かい?」
「はい…!」
パアッと笑顔になった小狐丸は勢いよく近づいて来た(大きさに驚いたのはここだけの話)
「ぬしさま、私の毛並みを整えてくだされ」
「毛並み?」
「はい」
渡された櫛と小狐丸を交互に見る。
毛並み、との言い方に少し困惑したが、髪の毛を梳いて欲しいのだろう。
桜は一房手に取り、丁寧に櫛を通してやる。
「………こんなにいい髪の毛なのに、あの女は手入れもしてやらないなんて、何を考えていたんだか…」
「ぬ、ぬしさま!」
「ん?」
突然声を上げた小狐丸に、返事をする。
「い、今!この私の毛並みを良いと…!」
「うん。かなり良い髪質だと思う。もふもふしたくなる」
正直に気持ちを伝えると、どんどんと小狐丸の機嫌が良くなる。
「自慢なんだね」
「勿論ですとも」
「じゃあ、手入れを怠らないようにしないとね」
はい、今日は完了。
そう言って櫛を返すと、小狐丸の背中をポンっと叩く。
「仕事してない時なら、手入れしてやるから」
「ぬしさま…!」
目をキラキラと輝かす小狐丸に、桜は笑った。
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