5部
名前変更
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例の血みどろの男性…プロシュートさんとの出来事があってから早数日。
私は精神的に疲弊していた。
あの日から視線を感じるようになったのだ。
はじめはブチャラティさん達かと思っていたが、彼らがこちらを見張るならもっと前からそうしていただろう。
他に心当たりがあるとしたらプロシュートさんだが、彼はヤバい奴に無闇に近付くなと言っていたから、そんな人がこちらにわざわざ近付くようなことはしない…と思いたい。
それに勝手な想像だけど…どっかの危ない組織にいそうなあの人は、見張っていても相手に悟らせないと思う。
ということはもう、自分には心当たりは無いのだ。
両親には言っておらず、こういう時こそブチャラティさん達に相談すべきだ…とは思ってはいるものの、彼らにスタンド関係以外の事でお世話になるのは迷惑かとも思っている。
(どうしよう…)
学校からの帰り、街を歩きながら深いため息を吐いた。
本当はせめて両親には相談すべきだとは思ってはいるが、心配はかけたくない。
亜柚美が頭を抱えて今日も視線を感じるなと歩いていると、どこからか「痛てぇええええ!」と叫び声が聞こえた。
それに驚いて、周りの人と同様にキョロキョロと辺りを見回す。
(あっ…あれは!)
そして少し離れた路地に見たことある男性と、その男性に踏みつけられている男性がいた。
思わず名前を呼びそうになったが、チラリとこちらを見た男性…プロシュートの視線にハッと口を押さえる。
その様子を見て一つ頷いたプロシュートは周りを見渡した後、踏みつけていた男の首根っこを掴みスッと路地の奥へ足を進めた。
こちらを手招きした後で。
(うう…行かなきゃ、ダメだよね)
亜柚美は周りの人に見られていないことを確認した後、路地へと向かった。
「よお、また会ったなバンビーナ」
「こ、こんにちは…」
ビクビクしながら挨拶をし、チラリとプロシュートの足元を見る。
先程と同じく踏みつけられている男は、ペシペシとプロシュートの足を叩いていた。
「なあ、すまないプロシュート。足退けてくれよ。な?」
「黙ってろ」
足に力を込めたのか、男は「ぐっ…」と苦しそうに息を吐いた。
その様子にビクビクしていると、プロシュートが「悪かった」と言ったので亜柚美は首を傾げた。
「悪かった…とは?」
「お前、最近常に視線感じてただろ」
「えっ!?どうしてそれを…」
驚いていると、プロシュートが足元の男をチラリと見た。
「こいつのせいだ」
「こ、この人の……?」
亜柚美も男を見る。
苦しそうな表情を浮かべていたが、亜柚美と目が合うとニコリと笑った。
「やあ、オレはメローネ」
そう言った男の容姿はプロシュートと同じく整っていて、何でこんな人が私みたいな子供を…まさかやばい趣味なのかと色々な考えが頭を駆け巡った。
「勝手に喋ってんじゃねえ。悪いなバンビーナ、オレがお前に渡す物を買ってたのを見られてたみたいでな…急にコイツが興味を持ちやがった」
渡す物、とはきっとこの前のハンカチのことだろう。
その様子を見られていたとして、なぜ興味を持ちこのような行動に出たのかまでは理解できない。
「そりゃだって気になるだろ!あのプロシュートが大人の女が喜びそうな物じゃなくて、幼い女の子が喜びそうな物を急に買い出したんだからよ」
ついにプロシュートが幼女趣味に目覚めたのかと思ったと言った時、躊躇なく頭に足が下ろされてメローネは地面に顔を打ちつけた。
「ひっ…」
思わず亜柚美は悲鳴をあげたが、プロシュートは気にしていない様子だった。
「それについては説明しただろうが。バンビーナ、改めて悪かったな。オレのせいで迷惑をかけた」
「い、いえ…」
亜柚美はフルフルと首を横に振った。
その様子を見てプロシュートはフッと笑うと、メローネの頭から足を退けた。
「メローネ、テメーのことはリーダーに報告済みだ」
「ゲッ…!?」
「覚悟しとけ」
その言葉にメローネが嫌そうな表情を浮かべたが、プロシュートは気にせずに再び首根っこを掴むと歩き出した。
「迷惑かけて悪かったな。気をつけて帰れよ」
「は、はい」
去っていくプロシュート(とメローネ)を見送ると、亜柚美は慌てて走り出した。
(怖い怖い怖すぎる…けど、メローネって人の方が別の意味で怖かった)
半泣きになりながら、全速力で走り続けた。
そして家に着いて母親の顔を見た瞬間、ドバッと涙が溢れた。
慌てる母親だったが亜柚美はなんとか誤魔化し、その日は普通に過ごす事を試みたのだった。
「やあ、バンビーナちゃん」
「………」
後日、学校からの帰り道に再び視線を感じ、まさかと辺りを見渡せばあのメローネと名乗った男がいた。
…多分、メローネだろうと亜柚美は頭から爪先まで視線を動かした。
先日は普通の格好をしていたのに、今日は目元に片目の開いたマスクを着用し、体のあちこちには大量の包帯やガーゼが巻かれていたのだ。
きっと、声からしてメローネだろうと1人納得して小さく息を吐いた。
(あの後一体なにが…)
返事をしない亜柚美を不思議に思ったメローネが視線を辿り、ああと何か納得したように頷くとニコリと笑った。
「これはオレが悪いから、気にしないで。それよりはい、コレ」
目の前に出されたのは一つの紙袋。
「えっと…よくわかりませんが受け取れません。何か頂くような間柄ではないかと…」
「ほら、昨日迷惑かけちゃったし。ね?」
有無を言わさない笑顔を浮かべるメローネに口元が引き攣るのを感じた。
そんな事は気にした様子のないメローネは亜柚美の手を取ると紙袋を握らせた。
「今から仕事だからゆっくり出来ないけど、またどこかで会うことがあったらその時はじっくり話そうね」
貰いたくも無いしもう会いたくも無いし関わりたくも無いんだけれど、という言葉は飲み込み、去っていくメローネを見送った。
亜柚美は一瞬で疲れを感じ、今すぐ帰って布団に飛び込みたかったが、その前に確認する事がある。
(や、やばいものとか入ってないよね…?)
そう、紙袋の中身だ。
持って帰ってやばいものが入ってたら自分が困る。
恐る恐る中を見ると、そこにあったのは白い塊。
そっと取り出してみると、それはワンピースだった。
「なんで服なんか…」
亜柚美は少し見つめた後、ハッとして服を触って変なものがついていないか確認する。
(とりあえず大丈夫そう…)
改めて見ると、自分好みの可愛らしいデザインだった。
だからといって着るつもりはないが…
亜柚美はとりあえず帰ろうと、足を踏み出した。
(申し訳ないけど、コレも直しておこう)
以前プロシュートから貰ったハンカチも、怖くて使えないと亜柚美は片していた。
このワンピースもそうしようと決めると、深いため息を吐いた。
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