5部
名前変更
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最後にブチャラティ達と会ってから数ヶ月。
今回は定期的に連絡を入れる事を忘れていないので、この前のように突然やって来るような事はなかった。
だからといって会う事はお互いにしない。
あくまで私は一般人、彼らはギャングだからだ。
ギャングの深い世界は知らないし今後も知ろうとは思わないけれど、こういった世界では少し関わり合いがあるというだけで敵対している相手に人質に取られることは少なくないらしい。
家族は勿論、友達や恋人も然り。
だからこそ、お互いに無闇に会う事はせず、連絡をする際も周りに注意をしていたのだが…先日、ブチャラティから「会えないか」と連絡が来た。
(一体何なのだろうか)
不安な気持ちで亜柚美は自分の部屋のドアノブを握りしめる。
呼ばれたのは彼らのアジト。
ドアーの能力を使えばすぐに繋がる。
このドアノブを捻れば扉は開く。
(……とはいえ)
彼らがいくら親切であろうと、ギャングである。
普通に緊張する。
(……深呼吸。落ち着け…)
亜柚美は胸に手を当てて深呼吸すると、扉を開いた。
「…………」
「…………」
そして、閉めた。
(繋げる場所、間違えたかな……?)
いや、でも見たことある部屋だったし…間違えてはいないはず。
じゃあ、あそこにいたのは?
亜柚美は頭を捻って考えるが、答えは出ない。
(……大丈夫、繋げる場所は間違えてないはず)
亜柚美は意を決して扉を開いた。
「……誰だテメェ」
「ひいっ…」
扉の向こうには、こちらをギロリと睨む男が立っていた。
「おい、聞いてんのか?」
「き、聞いてます!」
聞いてるから睨まないでほしい…!
緊張で心臓がバクバクと煩い。
キュッと胸元で手を握りながら息を吐くと、男を見上げる。
「あの、私、ブチャラティさんに呼ばれて…」
「ブチャラティに?」
何言ってやがるとこちらを見る男に、そろそろ涙が出そうだと亜柚美が唾を飲み込んだ時、男の背後から声が聞こえて来た。
「アバッキオ、何をしている」
「あ、ブチャラティさん!」
「アユミか?」
聞こえてきた声はブチャラティのもので、亜柚美は助かったと声をかける。
亜柚美に気付いたブチャラティは近づいて来ると、アバッキオの後ろから顔を覗かせた。
「ブチャラティ、知り合いか?」
「ああ、そうだ。アバッキオに紹介しておこうと思って呼んだ」
ブチャラティはアバッキオにそう言いながら亜柚美へと手を差し出す。
亜柚美が差し出された手とブチャラティを交互に見ていると、「運ばないと足が汚れるだろ?」と笑った。
「きょ、今日はちゃんと靴持ってますから!」
「そうか?…残念だな」
笑いながらそう言ったブチャラティに頬が熱くなった。
「もう!揶揄わないで下さい」
「悪い悪い。さあ、こっちへ」
ジッと刺さるアバッキオの視線を受けながら、ブチャラティに続いてアジト内のソファへと向かう。
促されるままにソファへ座ると、隣にブチャラティが座り、向かいへアバッキオが座った。
「アユミ、彼はアバッキオ。オレのチームに入ることになった」
「えっと…はじめまして。昏季亜柚美です。亜柚美が名前です」
挨拶をするが、アバッキオは黙ったままこちらを見るだけだった。
どうしたものかとブチャラティを見るも、ブチャラティはニコニコと笑ったままだった。
「あの…」
「ブチャラティ、オレにこのガキを紹介してどういうつもりだ?」
自分のことを無視するアバッキオに少しイラッとしたが、何とか気持ちを落ち着ける。
(相手はギャング、勝ち目はないのだから…落ち着こう)
深呼吸をして気持ちを落ち着けていると、ブチャラティが口を開いた。
「アユミはオレ達が…オレ達の?」
そう言ってブチャラティは亜柚美を見た。
その目は『オレ達の関係性とは?』と言っていた。
それに自分も頭を傾げる。
はじめは助けてもらうって話だったけど、結局ドアーは私のスタンドだったし、その後も特にこれといった事件もないし…
なんだろうかと二人して首を傾げていると、どこからか溜息が聞こえた。
「改めて聞かれると、説明がし辛いですね」
「フーゴ」
溜息を吐きながらやって来たのはフーゴだった。
「…スタンド能力について教える側と教わる側?私の能力を心配して見守ってくれてる側と見守られる側?とかですかね…」
「あ…?」
何とも言えない説明にアバッキオの眉間に皺が寄る。
それを見て苦笑したブチャラティは亜柚美を見た。
「アユミ、君の話をしても?」
「…ブチャラティさんのチームの方なら」
その返事にブチャラティは頷くと、アバッキオに亜柚美とドアーの話をする。
その話を聞くアバッキオの表情は、段々と険しいものになって行った。
「コイツがそんなヤバイ力を…」
「そういう縁があってな、定期的に連絡をとっている。彼女自身が心配だというのもあるが…彼女のスタンドを悪用する奴が現れないとも限らない」
そういう事でこの場所を教えていて、自分達とも連絡を取っているとの言葉に、アバッキオは渋い顔をしながらも頷いた。
「関係性は分かったが…それを聞いた上でどうすればいいんだ」
「いや、何もしなくていい。基本的に連絡はオレが取っているからな。ただ、この場所に彼女がいる事もあるというのを覚えていて欲しくてな」
「…わかった」
不服そうに返事をしたアバッキオに苦笑していると、フーゴが一枚の紙をブチャラティの前に出した。
「では、一旦お話が纏まったところでご報告があります」
チラリとこちらを見たフーゴに亜柚美はハッとすると、立ち上がり近場の扉へと近付く。
「それでは、私は家に戻りますね。今日はご紹介して頂いてありがとうございました。えっと…またお会いする事がありましたら、よろしくお願い致します。アバッキオさん」
それでは、と言ってドアノブを捻る。
「またな」と言うブチャラティの言葉に頭を下げると、自分の部屋へと戻った。
(大した事なくてよかった…)
とはいえ、アバッキオさん…だっけ?
普通に怖かったんだけど…
亜柚美は溜息を吐き、ギャングとの関わりが増えてしまったと頭を抱えた。
「おい、聞いてるのか嬢ちゃん」
「き、聞いてます…」
目の前でニヤニヤと笑う男に、亜柚美は口を引き攣らせる。
ブチャラティ達と会った後、少し気分転換に買い物へと出掛けた。
友達を誘ってみたが皆予定があるらしく、一緒に出かけることは叶わず、一人で買い物に出たのがよくなかった。
柄の悪い男に絡まれてしまい、お金を巻き上げられそうになっている。
というか、こんな子供に絡まなくとも…いや、こんな子供だから絡まれてるのだろうけど。
怖くて震える手をギュッと握り締めていると、目の前の男の肩をガシッと誰かが掴んだ。
「おい、ソイツになんか用か」
「あ?」
男は振り返ると「うっ」と後退りした。
(あっ…)
目に入ったのは、男を睨みつけるアバッキオだった。
「お、お前…誰だよ!」
「パッショーネ…と言ったらわかるか?ソイツはうちの獲物だ」
アバッキオの言葉に、男は「パッショーネだと…!?」と目を見開いた後、慌てて逃げていった。
その様子を見ていたアバッキオは、チラリと亜柚美を見た後、くるりと踵を返す。
「あ、あの!待ってください…ちょ、待って下さいってば!アバッキオさん!」
「っ…おい!馴れ馴れしく話しかけてくんな!」
「ったく…」と言いながら、周りから亜柚美を隠すように立つアバッキオを見上げる。
「何だ」
「あの…助けて下さってありがとうございました」
ペコリと頭を下げると、アバッキオは溜息を吐く。
「……ブチャラティがお前を気に掛けてるからだ」
「それでも、嬉しかったです」
亜柚美はヘラッと笑った。
アバッキオは無言でその様子を見ていたが、震えている亜柚美の手を見てもう一度溜息を吐いた。
「……これやるから、今日は帰れ。またさっきみたいな奴に絡まれるぞ」
「わっ…」
ポイっと渡されたのは、飴だった。
「わかったか?」
「わかりました、今すぐ帰ります!」
勢いよく頷く亜柚美をジッと見た後、アバッキオは去っていった。
(…そこまで悪く無い人なのかもしれない)
とはいえ、ギャングになるくらいだから根がどうかはわからないけれど。
亜柚美は貰った飴をギュッと握りしめると、帰路へと着いた。
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